25 『奇怪星』

 甲冑ゴーレムが俺に向かって突っ込んでくる。

 化け猫よりは遅い。

 だが、今まで見てきた相手の中で、奴の次に速い。

 俺が言えた義理じゃないが、尋常じゃない防御力持ってるくせにスピードもあるとか反則だろ!


「━━━━━━━」


 甲冑ゴーレムが横薙ぎに剣を振るう。

 この一閃も速い。

 奴の身長は黒ゴーレムよりひと回り大きい、約五メートル半。

 その巨体に見合う巨剣を使ってるくせに、チャラ男の何倍もの剣速だ。

 

「ふっ!」


 俺はそれを盾で受ける。

 専用装備で体重を激増してもなお、ふっ飛ばされそうなほどに重い剣。

 サイズ差の暴力。

 武器スキルも必殺スキルを使えない俺じゃ、専用装備という工夫をしても、まだ埋めきれない隔たり。


 だが、対処法はある。

 超凄い盾を手に入れたからって、真正面からしか敵の攻撃を受けてはいけないというルールはない!

 俺は憑依してからの半年で鍛えた技術と、少しずつ戻ってきているユリアの感覚を合わせた技術で、甲冑ゴーレムの剣を盾で受け流した。


 やっぱり武器スキルの有無なのか、昔のユリアには到底及ばない技術だ。

 それでも専用装備によって、前までとは比べものにならないくらい重心が安定した今なら、この程度の攻撃を受け流すのは容易い!

 たとえ相手に劣っていようと、重さは強さ!

 足りない重さは、技術とチートで埋める!


「ハァアアアア!!!」


 そして、受け流しからの反撃!

 今まで見てきたゴーレムは、共通して胸の奥に核である魔石があった。

 なら、多分ダンジョンボスでもそれは変わらないだろう。

 故に、胸の中心を目掛けて、大剣での全力の突き!


「ッ!?」


 が、それは弾かれた。

 攻撃直後だったから盾は間に合ってない。

 純粋に胸部装甲の頑丈さと分厚さによって防がれた。

 俺の一撃は、胸部装甲を僅かに削って亀裂を入れることしかできなかったのだ。

 短かったな、俺の剣術無双タイム……。


 ちくしょう!

 胸部装甲のくせに硬くて分厚いとか、少しはおっぱい様を見習え!

 だが、少しでも亀裂が入ったのなら!


「ミーシャ!!」

「『火炎球ファイアボール』!!」


 後方のミーシャから、間髪入れずに援護の火球が飛んでくる。

 俺相手ならいくら誤射しても大丈夫だと、半年一緒にいるうちに学んだからこその強気の攻めだ。

 かなりの魔力が込められた火球が、俺がヒビを入れた箇所に寸分違わず命中し、炸裂。

 甲冑ゴーレムの巨体がのけ反り、亀裂が大きく……とまでは言えないが、少しは広がった。

 よし! この繰り返しを続ければ、勝てない相手じゃねぇ!


 それに……


「アッハッハ! 本当にお強い! これは今のうちに始末しておかないと、我々にとって多大な不利益になってしまいそうですねぇ!」

「何を笑ってやがる……!」

「さっきから、さんざん調子に乗りやがって! ぶっ飛ばしたらぁ!!」


 俺達が甲冑ゴーレムの相手を引き受けたことで、回復を含めて態勢を立て直せた良い奴らが、高みの見物を決め込むピエロに向かっていった。

 『奇怪星』トリックスター。

 俺の朧気な記憶が確かなら、使役する奴が強いだけで、本人は大して強くないタイプだったはず。


 そもそも八凶星は上位の三人以外、まだ未熟な勇者が倒すことになる序盤〜中盤の敵だ。

 こうして手駒を俺達が引き受けてる状態なら、良い奴らで勝てるかもしれない。

 そうなってくれれば、言うこと無し。

 よっしゃ! いったれ!!


「あ〜さ〜は〜か〜!」


 ピエロが指揮者のように手を振り上げる。

 その瞬間、地面から生えるようにゴーレムの軍勢が出現した。

 さっき俺が倒したのと同じ奴らが、当たり前のようにリスポーンした。

 ウッソだろ、おい!?

 あんな簡単に復活するんじゃ、俺の無双劇はなんだったんだ!?


「ダンジョンボスを支配下に置くということは、ダンジョンの全てを支配下に置くことと同義なんですよ〜! この程度の芸当は朝飯前! ざ〜〜〜んねんでした!」


 うっぜぇ!!

 しかも、ウザい上に、めんどくせぇ!!


「さぁて! ちょっと本気出しましょうか!」


 ピエロが腕を振る。

 指揮者のように腕を振る。

 ゴーレム達はそれに導かれるように動き、綺麗な陣形を組んでコンビネーションプレイをし始めた。


「くっ……!」

「『反抗の盾リフレクト・シールド』!! ぐへっ!?」

「『迸れ、雷撃の鞭……きゃあ!?」

「ワルビールさん!? アドリーヌさん!?」

「『癒しの天使よ、慈愛の御手を彼の者に触れよ』! ━━『治癒ヒーリング』!!」


 一糸乱れぬ連携の前に良い奴らが追い詰められ、戦闘開始かれ僅かな時間で、カナンの回復魔法が何度も何度も必要な事態に陥ってる。

 くそっ! 誘導薬が効いてねぇ!

 俺の方に突っ込んできて無駄死にしてくれる奴は一体もおらず、ゴーレムどもは良い奴らだけに狙いを定めやがった!


「う〜ん! 我が主より賜った手駒達と遜色ない操作感! マーベラス!」


 ピエロが笑う。

 あの野郎、調子に乗りやがって!!


「!? 避けて、ミーシャさん!!」

「え?」

「ッッ!!」


 その時、いきなりラウンが大声を上げ、ピエロがニヤリと、調子に乗ってるのは別種の笑みを浮かべた。

 嫌な予感を覚えたユリアの感覚が反射で体を動かし、甲冑ゴーレムの相手を放り出して、ダッシュでミーシャを抱きかかえる。


 次の瞬間、真上から・・・・飛来した矢が、ミーシャを庇った俺の鎧の肩を叩いた。


「!? なんで……!? 天井に罠!?」


 ミーシャが上を見上げて驚愕の声を上げる。

 言われて俺も見上げてみれば、確かにそこにはラウンに教え込まれた罠の一つがあった。

 不自然に天井から突き出した、矢を射出する罠が。


「おや? 初見で防がれましたか。やりますね〜。じゃあ、これでどうです!」


 ピエロが腕を振るう。

 部屋のあちこちから同じ罠が

 おいおい、マジか!?


「名づけて、『矢の雨アローレイン』!」


 全方位から矢が射出される。

 ダンジョンそのものが俺達に牙を剥く。

 そこで、俺は奴の直前の言葉を思い出した。


『ダンジョンボスを支配下に置くということは、ダンジョンの全てを支配下に置くことと同義』


 あの言葉に一切の誇張は無かった。

 ここはもう、攻略難度Bの迷宮じゃない。

 知恵ある者の悪意によって強化された、小さな『魔王城』だ。


 『奇怪星』トリックスター。

 画面越しだと忘れる程度の敵。

 そんな奴ですら、現実で相手にしてみると、とんでもなく厄介で、俺は奥歯を噛み締めた。

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