24 八凶星

 俺達が駆けつけた時、彼らは既に劣勢も劣勢だった。


「アハハッ! そらそら、どうしました〜!」

「ぐっ!?」


 見覚えのある腹立つ笑顔のピエロが腕を振り、その指示に従うように、巨大な甲冑ゴーレムが良い奴らのリーダー、グランに剣を振るう。

 彼はさすがAランク冒険者って感じで、チャラ男の数段上の鋭い動きで敵の剣を躱し、受け流し、反撃を試みていたが……


「『走れ、疾風の刃』! ━━『真空剣ソニックブレード』!!」

「━━━━━━━━━━」

「くそっ……!」


 必殺スキル、それも物理と魔法を複合した攻撃をちゃんと何度も食らわせているのに、殆どが巨大な盾に防がれ、たまに当たっても甲冑に大した傷をつけられていない。

 かすり傷以下だ。

 あの甲冑ゴーレム、多分、というか間違いなく黒ゴーレムより硬いな。

 そんな奴の相手を延々続けてたんだろうグランは、既にボロボロだ。


「このヤロォオオオオオッッッ!!!」

「『捕らえよ、沼地の魔手』! ━━『泥沼マッドスワンプ』!!」


 そして、パーティーの残りの二人。

 悪人面の盾持ちと、悪女っぽいおっぱい様は、何故かこのボス部屋に大量発生している他のゴーレム達を相手にしていた。

 数は十体ほど。

 だが、見間違えじゃなければ、一体一体が黒ゴーレムみたいな希少鉱石を素材にした上位種のように見える。

 そこらを徘徊してる土や岩、ただの鉄でできたゴーレムとはボディの輝きが違う。


 そんなのを十体同時に相手取り、悪人面とおっぱい様は奮戦していた。

 俺と違って絶対防御も持たないだろうに、バカげた威力と体重差の攻撃を、必殺スキルと受け流しの技術を使って上手くやり過ごす悪人面。

 地面を泥沼にする魔法でゴーレムどもの動きを止め、結構な威力の雷魔法で攻撃するおっぱい様。

 どっちも強い。チャラ男より強い。

 強いんだが……相手が悪い。


 まず、悪人面は防御に手一杯で、一切の反撃ができてない。

 反撃できたところで、奴らの防御力を思えば、ちょっとやそっとの攻撃じゃかすり傷もつかないだろう。

 おまけに、防御に徹してもガードの上から削られ、既に彼の体はグラン以上にボロボロ。

 元々盾を持っていたと思われる左腕は折れていて、今は武器を手放した右手で盾を操ってる状態だ。

 むしろ、立ってるのが不思議なくらい。

 すげぇ根性としか言いようがない。


 おっぱい様の魔法は相性が悪い。

 移動阻害の泥沼に、回避困難な雷撃。

 普通に考えればかなり強いんだが、ここはエリア内の損傷をすぐに回復してしまうダンジョンという特殊な領域。

 泥沼はすぐに普通の地面に変わり、腰まで埋まったゴーレムは力技で地面をかき分けて這い出してくる。

 ゴーレムのパワーじゃなければ、腰まで地面に埋まった状態で、あんな普通には動けないと思うんだが……。


 雷撃の方は生物相手には通りが良さそうだが、無生物のゴーレムにはほぼ効いてない。

 それでも撃ってるのは、もしかしたらって淡い希望だろう。

 ああ、いや、待てよ。

 ゴーレムは中の魔石が砕ければ機能停止するから、内部にまで電撃が浸透するのを狙ってるのか?

 よく見れば、明らかに電撃が通らなさそうな岩石っぽいのは一切狙わず、まだ可能性ありそうな金属っぽいのだけを狙ってる。

 マジか。

 このおっぱい様、頭良いな。

 さすが魔法使い。


 しかし、やっぱりジリ貧なのは変わらない。

 全員が満身創痍なのに、敵にはまだまだ余裕がある。

 あの見覚えのあるピエロは動いてすらいない。

 勝敗は火を見るよりも明らかであり、彼らの抵抗は単なる悪あがきだ。

 それでも、その悪あがきのおかげで、俺達は間に合った。


「ラウン! 誘導薬を私にかけろ! ミーシャは狙撃! なんでもいいから倒せそうなのを狙え!」

「は、はいぃ!」

「『焼き払え、真紅の弾丸』━━『火炎球ファイアボール』!!」


 ミーシャはすぐに俺の背中から飛び降り、悪人面に迫っていたゴーレムを炎の弾丸で狙撃した。

 一発KOこそできなかったものの、大きく胸部を削った上に、火球の爆発によってのけ反らせることに成功。

 現在のミーシャのレベルは25。

 特化型のネタステータスなので、魔法の威力だけならレベル40にも届く。


 火の通りづらいゴーレム相手に、下級の魔法であそこまで入るのはマジで凄い。

 これに関してはゲームでは説明されなかった要素、魔力操作技術によって魔法に込める魔力量を増やし、MPの大量消費と引き換えに威力を跳ね上げているミーシャの『技』だ。

 ミーシャ曰く、頭を鍛えておかないと魔法の強化なんて脳の処理が追いつかず、それどころか普通に魔法を使っても構築が甘くなって、魔力のロスばっかりが大きくなるという。


 多分、これが知力=魔法の威力という方程式のカラクリだろう。

 知力の高い奴は、多大な魔力を込めて魔法を強化できる。

 知力の低い奴は、同じ魔法を使っても構築が甘いから魔力を無駄に使ってしまう。

 結果、似たような魔力消費で全く違う威力の魔法になると。


「うぉ!? なんだ!? 天の助けか!?」

「皆さん! ご無事ですか!?」

「え!? ラウンちゃん!?」


 そんな頭の良い魔法を使うミーシャに続いて、ラウンが仲間達に呼びかけながら、俺に一つの薬品をぶちまける。

 対ゴーレム用誘導薬。

 一般的な魔獣は大好物の匂いとかで誘導するらしいんだが、ゴーレムはそういうのが無い無生物系モンスターだから、今までの手法が使えなくて頭を抱え。

 試行錯誤の末に、昔聞いた話から、ゴーレムは敵の魔力を感知することによって、目も耳も鼻も無い体で相手を捕捉してるんじゃないかということを看破。

 これまた試行錯誤の末に、ゴーレムがより優先的に排除しようとする魔力を放つ液体を開発し、それが対ゴーレム用誘導薬となった。


 そんな感じのエピソードを聞かされた薬だ。

 端的に言って頭おかしい。

 お前の天職、絶対に研究者とかだろ。

 満足できるまで冒険者やったら、どこかの研究施設に就職しろ。

 エジソン並みに有名になれるぞ。


「「「━━━━━━━━━」」」


 そんな天才の発明品によって、悪人面とおっぱい様に群がっていたゴーレムが俺の方に来た。

 ただ、グランが相手してる甲冑ゴーレムだけはそのままだ。

 ピエロがなんか手をかざしてるし、コントロールしてるのか。


 そういえば、そんな感じの技を使う奴が八凶星にいたような気がする。

 よく覚えてないけど。

 いや、あいつら印象が薄いんだよ。

 どいつもこいつもキャラは濃かった気はするが、似たようなのが八人もいれば、どれがどれだかわからなくなる。

 世代遅れのポ○モンのジム○ーダーをど忘れするのと同じ現象だ。

 ガチファンならともかく、俺そこまでじゃないし。


「ハァッ!!」


 まあ、ピエロはともかく。

 今は向かってくるゴーレムへの対処だ。

 俺は後ろの三人を巻き込まないように、それでいて、いざという時はすぐに庇えるくらいの距離だけ前に出て、迎え撃つ。


 黄土色のゴーレムが一番先頭で拳を振るう。

 敵のサイズは、普通のゴーレムと同じ2メートル級。

 それを大盾を構えて、正面から受け止める。


 ゴィィィン! という凄い音がして、盾が岩石の拳を受け止めた。

 今までであれば、ダメージは無くても体重差でふっ飛ばされてただろう重さ。

 だが、今の俺は小揺るぎもしない。

 世紀末エプロン謹製の、この超重量フル装備のおかげでなぁ!

 フハハハハハ!

 今の俺は力士のごとく不動だぞぉ!


「せい!!」


 そして、俺は攻撃を止められて動きの止まった黄土色ゴーレムに、背中から抜き放った大剣を一閃。

 ようやく活かせたユリアの剣の腕。

 それによってゴーレムが斜めに寸断され、一撃で機能停止に追い込むことができた。


 おお! この剣すげぇ!

 道中の雑兵ゴーレムを狩ってた時には、さすがの重さと切れ味だなぁくらいにしか思わなかったが、手応え的に雑兵とは比べものにならないくらい硬かった黄土色ゴーレムを斬ってみると、この剣の凄さがよくわかる。


 なんというか、ただ重いだけじゃない。

 ただ切れ味が鋭いだけでもない。

 必殺スキルも使ってないのに、筋力以上の攻撃力が出てる感じだ。

 ゲーム風に例えるなら『攻撃力+1000』とか、そんな感じ。

 終盤装備並みのポテンシャルを感じる。

 ありがとう、世紀末エプロン!

 帰りに娘さんへのお土産でも買っていきます!


「おおおおお!!!」


 俺はそんな大剣を片手に、襲いくるゴーレムどもを次々に両断していった。

 さすがに特に硬い奴は一撃じゃ無理で、一番硬い奴に至っては十回くらい斬りつけないと壊せなかったが、それでも防御力に優れたゴーレム相手にこの無双は気持ちいい!

 じゃんじゃん、かかって来いやぁ!


「す、すげぇ……! なんなんだ、あの嬢ちゃん!」

「もしかして……Sランク冒険者?」

「お二人とも! 今回復しますからね!」

「カナン!」

「よく無事でいてくれたわ!」

「それはこっちのセリフです!」


 後ろでカナンが仲間達に駆け寄り、回復魔法の詠唱をする声が聞こえた。

 良い意味での因果応報だな。

 善い行いをすれば自分に返ってくるってやつだ。

 今回で言えば、良い奴らがラウンのためを思って、心を鬼にして追放したからこそ、ラウンと俺達との縁ができ、結果俺達だけでは辿り着けなかった最下層へ、こうして援軍のような形で駆けつけることができた。

 ざまぁの真逆。善因善果。

 それが、あっちでも展開されてる。


「『火炎球ファイアボール』!!」

「グラン!!」

「ラウン……! なんで来た!?」


 ミーシャが魔法攻撃で甲冑ゴーレムの気を引き、その隙にラウンがグランに駆け寄って回復薬を振りかける。

 チキンハートと呼ばれていた男が、圧倒的な脅威である甲冑ゴーレムに向かって臆さず走り、大切な仲間を救出したのだ。


 次の瞬間には、甲冑ゴーレムの狙いがラウンに向くが、多少なり回復して動きが良くなったグランがラウンを抱えて跳躍し、振り下ろされた剣から二人とも逃れた。


 そして、こっちも掃討完了だ!

 ボスの取り巻きを倒し終え、俺も甲冑ゴーレムの相手に向かう。

 奴が二人の追撃に動こうとしたところを、全力ダッシュ+超体重による体当たりで弾き飛ばし、追撃を阻止した。

 超体重とか思ったからか、ユリアの残留思念から遺憾の意が送られてきたが、それは無視する。

 だが……


「ッ!」


 硬いな……!

 この甲冑ゴーレム、全力を込めたシールドバッシュで、ちょっとヘコみができる程度の硬さだ。

 ホントにBランクダンジョンのボスか?

 下手したら化け猫より強そうなんだが……。


「ぬぬぬ? あなた、なかなかお強いですねぇ。さぞ名のあるお方と見ました」

「……名など無いさ。私が馳せていたちっぽけな名は、お前達が全て吹き飛ばしてしまったからな」

「おお、なるほどなるほど! つまり、復讐者の方というわけですか! いやー、あなたのようなお美しい方に、そこまでの熱い想いを向けていただけるとは、人類の敵冥利に尽きるというものです!」


 ケタケタと笑いながら、戯けるような仕草で小バカにしてくるピエロ。

 は、腹立つ……!

 流れ込んでくるユリアの凶虎への、ひいてはその裏にいる魔王への憎悪と合わせて、なんか俺まで異様なほど腹立つ!

 画面越しじゃ味わえなかったぜ、こんな感情の昂りはよぉ……!


「では、そんなあなたに敬意を評して、もう一度名乗らせていただきましょう。

 魔王軍幹部『八凶星』の一人。知恵の五将の一角『奇怪星』トリックスターと申します。

 ぜひ、お見知りを」

「ああ、覚えておこう。必ずや息の根を止める相手としてな」


 今回は印象が薄いとかいって、忘れずに済みそうだ。

 そんな皮肉な感想が浮かぶと同時に、トリックスターが指揮者のように手を振り、それに合わせて甲冑ゴーレムが俺に剣を向けて動き出した。

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