幕間/ボンバーガール。
爆風が収束したひろゆきの部屋に、一人の可憐な少女が立っていた。
「……」
セミロングの赤い髪に灼眼。大きな目と幼い鼻すじが特徴の美少女だった。
彼女が辺りを見渡すと、真っ白だった部屋は煤だらけとなっていて、一部は炭化していた。
その凄惨な事態を引き起こしたとは思えないくらいの仕草で、少女はその場を柔らかくクルリとスカートを振るようにして回る。
「う…あ…づぃ…」
その赤髪の少女は呻くチャラ男の生存を横目で確認し、ローファーをコツリコツリと心地よく鳴らしながら目的の場所にゆっくりと進む。
さながら神殿型ダンジョンで見つけた荘厳な宝箱に近づくようにとゆっくりと歩いて近づいていった。
「ヒロ君みーつけた」
彼女、紅山林檎はひろゆきから流れている血をすっと人差し指で手に取りながらはしゃいだ声でそう言った。
それは彼女のいつもの仕草だった。
「またこんなに綺麗なシミになっちゃって…ああ、そんなにお漏らししちゃってる。気持ち良かったんだね」
林檎はひろゆきから流れるその体液を舐めとりながら恍惚な表情で体を描き抱いていた。
「ああ…ヒロ君のシミ…」
林檎は二人だけの逢瀬を楽しんでいた。
そこに邪魔が入る。
「が、が、な、てめ、ぇ、ナ、ニした?」
チャラ男は回復魔法を使い、立て直そうと試みた。されどあまり回復しないことを疑問に感じながらも、林檎に向かって睨みながら話し掛けていた。
呂律が回らない。
一年生が放つ魔法じゃない。
お前は何者だ。
それにそいつは誰だ。
扉の向きから室内にいないとおかしい。
そんなやつはいなかった。
それにこの魔道具はレプリカとはいえ違法チャームが掛かっている。
催眠調教などお手のものだと聞いている。
チャラ男はぐるぐると思考を巡らすが、デバフなのか、思考がまとまりにくい。魔法が構築しにくいことにすら気づいていなかった。
林檎は少しだけ思った。
少し。ほんの少しだけ生かせばいいかとチャラ男のHPを想定した。
「…スキル…三種混合…」
突き出した右手の人差し指と親指の腹を擦り合わせる。
そしてそれをチャラ男に見せつけるかのようにして、クパァと開く。
そこに細い粘性の炎の橋が架かる。
ポタリポタリと炎の雫が床に濡れて燃えている。
そして鈴の音が鳴るような声で唱えた。
「……いって。紅蓮/弓矢/必中」
「うぎゃぁぁ!?」
その炎の橋を弓にし、生み出された炎の矢が放たれた。
チャラ男も咄嗟に避けようとするが、追尾型の魔法だった。
チャラ男はゆっくりと燃えていった。
精神も焼き切れ、表情は恍惚としていた。
「うん」
せっかくのお部屋デートにはやはり炎がよく似合う。
さながら大きなキャンドル。
さながら歌う炎。踊る炎。狂う炎。
「うん」
林檎の脳内は、そのような妄想でいっぱいだった。
その炎に揺らめく林檎の影はゆらゆらとしていて、どこか魔物が笑っているようにも見えた。
今日、ひろゆきがダンジョンの外に倒れていた時は、周りの目もあって、恥ずかしくて近づけなかった。
「流石にあんなところで燃やせないよー」
誰かに運ばれてしまっていたが、検討はついていた。
林檎は眉を顰めて、思案する。
しかし、ジリジリと鳴り響く火災報知器の音を耳で捉え、それはさながら教会の鐘のようで、二人の門出を祝っているように聞こえ、気にしないことにした。
「……」
この花火の日の参列者には相応しくないと、炭になったチャラ男のシミをもう一度一瞥し、ひろゆきの写真を撮る。
いろいろな角度や構図で撮る。
中でも学園のアンティーク扉とのツーショットは、レアな一枚だ。
モノリスの写真フォルダにはさまざまなシーンのひろゆきの壁のシミコレクションがあり、そこにそれを加えてニンマリとした。
そしてひろゆきを抱き抱えゆっくりと歩き出す。
向かうは純白に彩られた保健室。
そこで綺麗にしてあげようと思って歩き出す。
「もう少しだけ待っててね」
そう呟いて、コツリコツリと踵を鳴らし、その場を後にした。
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