ひろゆきのダンジョん。

厄介なギルド。

その時モブは見た。

「あー偽チャラ男とか死なねーかな」

　寮生の憩いの場、食堂のど真ん中でそう呟く。

　保健室で目覚めた俺は、お腹が空いたので食堂に来ていた。

　この学園の食堂は探索者のためか夜遅くまで開いている。

　というか、なんで俺の部屋でレイプするんだよ。

　なんで俺の部屋を爆破するんだよ。

　頭おかしいだろ。

　自称モブは自称モブで厄介だが、偽チャラ男も偽チャラ男でムカつく。

　林檎もだ。

「しかしあのクソ野郎が。晒してやって正解だったな。はっはー」

　あのクソ野郎は大火傷をし、炎上し、退学になったのだ。

　大火傷…精神まで焼き尽くす林檎のスキルは治りにくいのだ。

　何回も…されたからな。

　奇跡的に無事だが。

　何故かいつも保健室で目覚めるが。

　毎度の事なので、もう気にもしてないが。

　ていうか、普通教会だろ。

　しかし…いつも目覚める直前の夢の中では、じっちゃとばっちゃがおいでおいでしているのが見えるのだが…

　二人とも死んではないのに。

　これは田舎に帰りたいという無意識下の願望だろうか。

　何の話だっけか。

　林檎に燃やされた後はいつもボーッとしてしまう。

　クソが。

　ああ、クソ野郎だ。

　クソ野郎の退学理由は、レイプ未遂と、おそらく先生の漏洩の件だろう。

　だって一人の先生が同時に行方不明になっている。

　モノリスに流れてくる学園ニュースにクソ野郎と共に載っていた。

　絶対消されただろ。

　配信からおよそ二時間だぞ。

　早過ぎる…冤罪の際は気をつけよう。

「…ていうか…部屋どうしたら良いんだよ。クソ野郎の退学と釣り合い取れてないぞ…また立ち寝か…まあいい。立って寝るのは慣れている…慣れたくないけど…」

　こんな時の俺の基本就寝スタイルは、寝袋に入ったまま立って寝る、通称ミノムシスタイルだ。

　廊下で寝ているといつの間にか服従ポーズしてる時があるからな。

「それよりPVは…おお！　いいじゃん！」

　PVとは俺の配信チャンネル、【その時モブは見た】、通称モブ見のプレヴュー数のことだ。

　ダサいだろ？

　これでも人気あるんだぜ？

　それは男女の濡れ場や修羅場を始まる前から盗撮することで臨場感を生み出し、修羅場スキーからNTRスキー、BSSスキー、ビデオレタースキー達が怖いもの見たさで集まる人気チャンネルだ。

　この現代、スキルやパッシブによって盗撮や盗聴がしにくくなっていた。みんな見つからないように動けるし、先に気づかれ、腕を破壊されてしまうこともある。

　そしてこの国にはモノリス以外カメラがない。あるにはあるが、モノリスと連動させなければ撮れない。それはパッシブに反応したり第六感で気付かれ防がれる。

　だが、俺には明鏡止水（お姉様のお尻）がある。

　邪な気持ちを持たず、定点観測出来てしまうのだ。

　例え、俺のような特殊なケースじゃなかったとしても、ターゲットより上回るレベルの奴なら可能だ。だが、そんなやつは大抵はモテるし、わざわざそんなストーカーみたいな真似はせずにすぐに口説くか襲う。

　さらに言えば、戦闘などは派手に配信されているので、ドラマなどの役者の演技はなかなか受け入れてもらえなくなっていた。

　なぜならそこには懸命に迷宮の最奥を目指す探索者達の生のドラマがあったからだ。

　まあ、ぶっちゃけみんな生ライブ、生配信に慣れすぎたんだ。

　その点、俺のチャンネルは違う。静であり動なのだ。sayでありdoなのだ。動ばかりの探索チャンネルとはわけが違うのだ。

　何言ってんだかわからなくなるな。

　ていうか、俺は悪くない。

　そもそも頼んでないのにヤリ部屋にされてしまうのだ。

　正直上手く撮れたとて、晒すのはいかがなものかと思っていたが、毎度毎度、部屋が犯されたり侵されたり、凍ったり燃やされたり切り刻まれたりと腹が立ってたから仕方なかったんだなや。

　一応大事な部分は伝説の聖剣をヒントに謎の光を再現し、加工して修正している。

　もっとも、俺の配信の目玉は、生配信されていると気づいて慌てて部屋を出て行く時の滑稽な表情だったりするから、最後までなのはない。ないったらない。

　まあ、あくまで牽制目的だしな。

　それに盗撮自体は犯罪だ。自室が爆破みたいなのがあるから…俺も被害者ってことで、見逃してもらってる気がする。

　最後まではないとは言え、普通に犯罪だしな…いや、自室を撮って何が悪い。

　でも、この際ピーピング野郎でもいいからジョブチェンジしたい。

　しかし、あの先輩はパチモンだったな。

　チャラ男の風上にも置けやしない。

　まだ四月だぞ。

　真のチャラ男ならまだ行動を移す時期じゃない。

　だとすれば、やっぱりギルドか。