脳破壊と紅。

 もしかして、元親友の彼女NTRの見届け人に俺はなる?


 そんな事を思ってしまう。



「……それで、内緒の話って何ですか?」


「早急だな〜林檎ちゃんはギルドに入る気ない? 俺、上級生のコネあってさ〜」



 ギルド。


 それはパーティの様な一時的に組むのではなく、長期的に活動を共にする団体のことだ。


 そこに所属すれば武器防具や回復薬の優先取得や、マッピングの解説など、かなりの恩恵を受けることが出来る、この学園においてのある種のステータスでもある。


 すでに活躍してるところの大手ギルドの下部組織なんかも学園にはあって、卒業後の手厚いサポートを約束してくれるそうだ。



「林檎ちゃん、火炎系の魔法使いだっしょ? だからすぐに声をかけたんだわ」



 この学園の迷宮に出る魔物は確かに火炎に弱い。


 林檎のように燃えるような赤髪持ちは火炎系魔法と非常に相性が良い。これはバフが載るせいだと言われている。


 もっとも、ジョブを得る前から彼女は真っ赤な髪色だった。


 だからこそエグい。


 火力がエグい。



「…モノリスのデータは抜けないんじゃ…?」


「ぷはは。そりゃあそうさ。大賢者様には逆らえないよー。だから先生から聞いたんだよ。教えてーってさ。だりーけど」



 おいおいおいおい…


 そんなのバラしていいのかよ…


 個人情報は探索者にとって稼ぐための武器だ。それをパーティメンバーでもないのに、許可なく他者にバラすなんて…


 まあ、知ろうと思えばいくらでも知る方法はあるだろうけど、あくまで表向きはそうは認めていない。



「…その先生の名前は何ですか?」


「それはギルドに入ってからかなー録音されたらヤバいし」



 今まさに録音してますが…?



「林檎ちゃんも気をつけなよ? このガッコ、盗撮盗聴何でもアリだし。防げない奴が悪い、みたいな?」


「そう、ですか…」



 今まさに録画してますが…?



「そういえば君、あのパラディンの子の彼女だっけ?」


「……さあ、どうでしょうか」



 やべ?! ここも撮ってしまった!


 林檎…悪女みたいな表情じゃん…あんまりそういうの見たくなかったな…好きだったやつのそんな表情…きっついな。


 男は所詮、初恋ファンタジーを夢見るってことだろうな…レジェンダリーNTRの定番だな。


 しかも俺の場合、元親友にBSSされ、その元親友がNTRされる、か……


 この世は斯くも無惨で…無常だなや。



「そ。なら俺と楽しむのは問題ないね」


「…何をでしょうか」


「とぼけんなって。知ってるよ、君、迷宮の奥にあるアレ、狙ってんでしょ?」


「…さあ、どうでしょうか」



 アレって何だろうか。林檎は魔法職だから杖とか? でも林檎にこれ以上の火力は…ん? 前段と繋がらないな…


 永瀬ダンジョンに何かあったかな…?


 そういえばみんな受験ちゃんとしたから下調べしてるんだよな。


 俺、逃げ出すことばかり考えてたから、そういえば何にも調べてないな…


 というかチャラ男、お前死ぬ気か? こいつ魔法使いに擬装してるけど、実際は上位職だぞ…


 いくら男の中の男、チャラ男だからって…



「そんなの使わなくても楽しめるからさ、先輩に任せて股開いてりゃ良いんだよ」


「録音しましたよ」


「いいよ。そんなの後でどうとでもなる。調教とかだりーけど。ああ、魔法使ってもいいよ? ま、この魔道具に防がれるけどな?」



 そう言ってニヤリとしたチャラ男は首から金ピカのネックレスをチャラリと取り出した。


 あ、あ、あれは…!


 少年誌最後のページを彩るチャラ男必須BADアイテム!


 その名も【エミールのネックレス】!


 それを身につければ札束のお風呂に女の子と入浴出来るという男の子垂涎の古代魔道具だ!


 いや、流石にレプリカだろうが…それに札束なんて今はないから、いったいどうなるんだろうか。


 今のこの部屋にはティッシュしか…



「……やめて、ください」



 え…あ、あれ? 浮気じゃないのか?!


 た、た、助けないと!


 でもどうすればいい!?


 そうだ、おっ始め横道だ! 雅矢だ! 雅矢に連絡を!



「いいじゃん、その表情。そそるねぇ…とりあえず俺のセフレにしてやるから。探索は任せろって。孕んだらごめんな? ぶはは」


「…いや…やめて…」



 いや…何故…林檎は…モノリスで連絡しないんだ? 手に持ってるんだから、願えば呼べるだろう…?


 もしかして怖くて思考出来ないのか?!


 それとも魔道具の?!


 どうする!?


 どうすればいい!?


 かくなる上は…特効しかないのか──でもそれをすれば…くそっ、迷ってる場合じゃない!!


 林檎! 今助けてやるから──



「おほ。いーじゃん。瞳の色変わるんだ。真っ赤に燃えるなんて萌えるよね〜」


「何ですと!?」


 

 というか、はい、気づかれない俺!


 じゃなくて……あ、ああヤ、ヤヴァい! あの色はヤヴァい! 攻撃色だ! アレが来る! 逃げろぉッ! アレが来るぞぉぉぉぉ!


 紅山林檎の火炎スキル!



「くれないだぁぁぁああッッ!!」



 扉を開けて外に出ようとするが、もう遅い。


 何故なら背後から大量の爆風とケムリと、少し遅れて爆発音がやって来たからだ。


 だから俺は見事に部屋の扉とともに吹き飛ばされ、廊下の壁のシミになったのだ。



「こ、この、ボンバー、ガールめぇぇ……覚えてやが…れ…」



 俺の脳を破壊しても飽き足らず…


 毎度毎度部屋を爆破しやがって…


 いつか絶対盗撮してやるからな…


 そんな捨て台詞を呟いたところで…


 誰にも聞こえないから思うだけだなや…


 

 そんなことを思いながら、俺は気を失った。

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