平和をもたらすもの。
学園に入学して少し経つ。
特殊クラス、普通クラス、上位クラス、最上位クラスとそれぞれ分かれての授業が日々繰り返されていた。
それは学園校舎の階によって分けられていた。ただ、特殊クラスだけは、離れのプレハブみたいな教室だった。
そのため、パッシブにはそこまで気を使わずに済んだ。
そして入学式以降、四方からのパッシブが弱まっていった。
特殊クラスのやつは、パッシブにすら気を使える良い奴らだった。
多分、俺ツェー的な為だろうけど。
超静かなのに、なんかギスギスしてるんだよな…
今も昼休みに入ったのに、誰も動かない。
誰が一番に動くのか牽制し合ってる…きっと最後が良いんだろうな…
自称モブばかり集めたらこうなるのか…
「山田くーん。お昼行こー」
だが、そんな状況も勇者様がお昼に誘ってくれることで、改善し出したのだ。
勇者様は奥歯ガタガタ言わせる威風を纏ってやってくる。
だからか、流石に勇者様に俺ツェーはマズいのか、特殊クラスの奴らも口笛吹いて目線を逸らしていた。
そっ…と席を離れたり、普段なら独立した個々人達が微妙なコミュニケーションでグループ作ったりしていた。
勇者様によって、クラスは驚くほど平和で普通のクラスになっていった。
流石、希望の刃。地球人の剣。
この国に平和をもたらすもの。
俺以外。
超逃げてぇ。
膝ガックガクなんだよォォ!
そもそも、最上位職はこのエリアには2人しかいない。そのため基本的には教室などない。だからこのプレハブの二階を使っている。
内緒ね、そう言っていた。
また約束を…してしまった…くそっ!
いい子なのに怖い!
そして勇者とは、そのままこの国の戦力となるため、普通であれば探索者系学園のトップ、第1黎明学園、通称成瀬学園に入学するのが普通だ。
なのに、なんで勇者様ここにいるんだろう。
◆
「山田くんは、放課後外に出たりしてる?」
「いや、出てないすけど…」
この学園は広く、また、あらゆるものが取り揃えられていて、普通なら出る必要がない。
俺は勇者様のご好意部屋にまだ住んでいた。何度か灰燼部屋を見に行ったが、やはりそのままだった。
これは相談したり、資金を稼いだりといった練習のためなのだろう。
「ふーん。やっちね、幼馴染達とこの学園に入ったんだー」
「へー…?」
なんだ? 何の話だ?
「結婚の約束ってどう思う?」
「…どう…?」
急に話が飛ぶな…てか…パッシブが鳥肌を撫で回しているぞ?! こんなの初めてだぞ?! なんだ!? 何か荒ぶってんのか?!
「そ、す、素敵な約束だね…い、いいんじゃないかなぁ〜…」
「だよね」
気おされてつい肯定してしまった…したくないのに…あ。俺今嘘を…
「幼馴染の男の子とね、そんな約束してたのにね、別の子がね、別の子とね……あ、別の子って言うのは
「そっ、そうなんすね…」
良かった嘘に気づいてない! というかじぇんじぇん話が見えないぞ?! 誰か! おらぬか! 勇者様のご乱心ぞ! ああ! 勇者様の覇気が! このモブに! ビリビリと! ああ!? 覇気だけで吹き飛ばされそうなんだが?! う、浮いてる! 卵焼き浮いてるヨォォ! 藤堂院さんの髪の毛もざわざわしてるぅぅ!?
これが…豪雷属性の勇者…!
どういう原理なんだよぉ!?
「はぁ…だからね…楽しみにしてたダンジョンもさぁ…一緒にいたくなくて…」
「はぁ、はぁ、はぁ、そ、そっか…」
お、収まった…
…おそらくだが、思いを寄せていた男が別の幼馴染の子に盗られたのか…それでいづらくなったのか…もしくは身を引き、譲ったのか………棍棒は……何で…?
「剣だったら危ないからね」
「だ、だね〜…」
読まれた!? これが伝説の悟りの魔法か…ん?
あ! この人瞳孔がやべぇ開いてる! 幼馴染達折る気マンマンじゃん!
ああ……そうか…そういうことか。
この現象には心当たりがある。
俺が自分のことを、ぼっちと呼ばない理由の一つだ。
これはジョブでも、スキルでもない。
この人……負けヒロインだ。
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