マンモス。
気持ち的にそろりそろりと自室に近づくと、扉と廊下の窓が吹っ飛んでいた。
そして俺の部屋は無惨な姿に…燃やされていた。
なれているとはいえ、辛いな…
これ、扉ない方が良くないか?
密室にならなければヤリにこないし、吹き飛ばされないし。
って駄目だよな。荷物何も置けねー。というかネームプレートも…炭だ…マジかよ…申請ってまた通るかな…
それより爆発現場だ。
部屋の中はやっぱりカスカスの炭になっていた。
消化は水では行わず、魔力を鎮静化させたんだろう。
「無事か…」
こんなこともあろうかと、ベッド下の収納にだいたいのものは入れていたから、一応無事だ。ベッドは炭だ。
おい、これどうすんだよ。
春とはいえ、まだ寒いんだぞ。
はぁ……仕方ない。
どこかの部屋に寄生するか…いや、モノリスは誤魔化せないか…婚約…仮エンゲージしていたら0時を越えても大丈夫らしいが…
先生に問い合わせても、返事ないんだよな…自分で解決しろってか。
リペア使える奴いるのかな…いるか…探すのは明日にしよう。
今日はなんか疲れた。
談話室の椅子、硬いけどまだマシか。
廊下で突っ立って寝るよりマシか。
◆
我が学園には談話室なるものがある。古くはサロンなどと呼ばれていて、ここでパーティの作戦会議をしたり、友好を深めたり、女子を口説いたりと利用するそうだ。
「やっぱり談話室じゃなくて、これじゃあまるで教会じゃないか…怖いな」
俺以外人のいない談話室は、まるで教会のような静かな空気を纏っていて、大きなステンドグラスに月光が降り注いでいた。
パイプオルガンとか急に鳴らされたら確実にちびる怖さがある。
モブのくせに一人が怖いとかないよな…
俺には談話する相手はいない。
いるにはいるが、あまり会いたくない。
それに教会だとしても、退学を祈るだけだからな。
はぁ…背もたれとか直角だし。
なんかまた、お腹空いてきたし。
「山田くん!」
「ひっ! …藤堂院さん…何、ですか?」
人がいないとはいえ、よく見つけたな…外だとほんと目立たないのに。
是非嫁に…いや、勇者様だ。超暴投だ。擦りもしない。もし仮に自称モブになれたとしても、エンゲージ前の婚約生活はビクビクしながら過ごすことになるだろう。
「こんな時間に何してるの?」
「え? あ、えーと…その…」
「ふふっ、わかってるよ。火事! でしょ? 大変だったね…って…あれあれ? わわ、ど、どうしたの? 泣いてるの…? だいじょーぶ?」
「うっ、うっ、ひろゆき、マンモス、うれピー」
わかってもらえることが、こんなに…こんなに嬉しいなんて…!
最上級の古代語を使ってしまったぜ!
「…何…? マンモス…魔物…? 折る?」
でも藤堂院さんには通じないぜ!
流石勇者様! 全て敵と結びつけるぜ!
怖ぇぇええ!
「あの、何で心配する…ですか?」
「んんー? だって君、黒髪黒目ってことは、わたしとおんなじでしょ。親戚みたいなものでしょ? だから」
「…おっふ…」
それ、俺のジョブのせいっす。
元々は金髪碧眼っす。
だから伝説の勇者様の末裔じゃないっす。
でも今は言えない。
弾かれて死ねかもしんないし。
とりあえず心の中ではペコペコマンモスしとこ。
ああ、これは何かって?
謝ると同時にお腹空いたって古代語だ。
意味わからんだろ?
だってせっかく好物の菓子パン買ってたのにさ。炭だ。炭だ。炭なんだ。
三つともだ。
林檎のやつ…ほんと死ねばいいのに。
◆
「ここなら使っていいよ」
「マジすか」
案内されたのは勇者様の付き人用の部屋だった。
やった! ベッドが炭じゃない!
「ほんとに…いいの? ですか?」
「うんいいよー!」
「おお、勇者様…ありがとうごぜぇます。この山田…いただいた御恩は生涯忘れませんぞ…」
「あははは…大袈裟だなぁ。ここのものは勝手に使っていいからね。シャワーもタオルも。じゃあね。おやすみ」
「はい! ありがとうございます!」
何だよ…めちゃくちゃいい子じゃん。
久しく家族以外の他人の優しさを忘れていたな…いったい何年ぶりだろうか。
あとはパッシブさえなければなぁ…
背中に玉のような汗が冷えて気持ち悪い…
顎が外れそうなくらいガクガクしたせいか、噛み合わせが変だ…
膝にもガクガクにきた。
歩き方も変だ。
やっとの思いで服を全部脱いだけど、四つんばいになっちゃう。
なぁに、構いやしない。
勇者様への敬意の五体投地みたいなものだ。
シャワーだ、シャワーだ。
ひゃっほ〜い。
すると後方からガチャッと音が聞こえた。
「山田くん、残り物だけどこれ食べる、か、な………」
無言で扉がそっと閉められた。
ふむ…これがラッキースケベというやつか…
「ぬわーーっっ!!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます