マンモス。

 気持ち的にそろりそろりと自室に近づくと、扉と廊下の窓が吹っ飛んでいた。


 そして俺の部屋は無惨な姿に…燃やされていた。


 なれているとはいえ、辛いな…


 これ、扉ない方が良くないか?


 密室にならなければヤリにこないし、吹き飛ばされないし。


 って駄目だよな。荷物何も置けねー。というかネームプレートも…炭だ…マジかよ…申請ってまた通るかな…


 それより爆発現場だ。


 部屋の中はやっぱりカスカスの炭になっていた。


 消化は水では行わず、魔力を鎮静化させたんだろう。


「無事か…」


 こんなこともあろうかと、ベッド下の収納にだいたいのものは入れていたから、一応無事だ。ベッドは炭だ。


 おい、これどうすんだよ。


 春とはいえ、まだ寒いんだぞ。


 はぁ……仕方ない。


 どこかの部屋に寄生するか…いや、モノリスは誤魔化せないか…婚約…仮エンゲージしていたら0時を越えても大丈夫らしいが…


 先生に問い合わせても、返事ないんだよな…自分で解決しろってか。


 リペア使える奴いるのかな…いるか…探すのは明日にしよう。


 今日はなんか疲れた。


 談話室の椅子、硬いけどまだマシか。


 廊下で突っ立って寝るよりマシか。





 我が学園には談話室なるものがある。古くはサロンなどと呼ばれていて、ここでパーティの作戦会議をしたり、友好を深めたり、女子を口説いたりと利用するそうだ。



「やっぱり談話室じゃなくて、これじゃあまるで教会じゃないか…怖いな」



 俺以外人のいない談話室は、まるで教会のような静かな空気を纏っていて、大きなステンドグラスに月光が降り注いでいた。


 パイプオルガンとか急に鳴らされたら確実にちびる怖さがある。


 モブのくせに一人が怖いとかないよな…


 俺には談話する相手はいない。


 いるにはいるが、あまり会いたくない。


 それに教会だとしても、退学を祈るだけだからな。


 はぁ…背もたれとか直角だし。


 なんかまた、お腹空いてきたし。

 

 

「山田くん!」


「ひっ! …藤堂院さん…何、ですか?」



 人がいないとはいえ、よく見つけたな…外だとほんと目立たないのに。


 是非嫁に…いや、勇者様だ。超暴投だ。擦りもしない。もし仮に自称モブになれたとしても、エンゲージ前の婚約生活はビクビクしながら過ごすことになるだろう。



「こんな時間に何してるの?」


「え? あ、えーと…その…」


「ふふっ、わかってるよ。火事! でしょ? 大変だったね…って…あれあれ? わわ、ど、どうしたの? 泣いてるの…? だいじょーぶ?」


「うっ、うっ、ひろゆき、マンモス、うれピー」



 わかってもらえることが、こんなに…こんなに嬉しいなんて…!


 最上級の古代語を使ってしまったぜ!



「…何…? マンモス…魔物…? 折る?」



 でも藤堂院さんには通じないぜ!


 流石勇者様! 全て敵と結びつけるぜ!


 怖ぇぇええ!



「あの、何で心配する…ですか?」


「んんー? だって君、黒髪黒目ってことは、わたしとおんなじでしょ。親戚みたいなものでしょ? だから」


「…おっふ…」



 それ、俺のジョブのせいっす。


 元々は金髪碧眼っす。


 だから伝説の勇者様の末裔じゃないっす。


 でも今は言えない。


 弾かれて死ねかもしんないし。


 とりあえず心の中ではペコペコマンモスしとこ。


 ああ、これは何かって?


 謝ると同時にお腹空いたって古代語だ。


 意味わからんだろ?


 だってせっかく好物の菓子パン買ってたのにさ。炭だ。炭だ。炭なんだ。


 三つともだ。


 林檎のやつ…ほんと死ねばいいのに。





「ここなら使っていいよ」


「マジすか」


 案内されたのは勇者様の付き人用の部屋だった。


 やった! ベッドが炭じゃない!


「ほんとに…いいの? ですか?」


「うんいいよー!」


「おお、勇者様…ありがとうごぜぇます。この山田…いただいた御恩は生涯忘れませんぞ…」


「あははは…大袈裟だなぁ。ここのものは勝手に使っていいからね。シャワーもタオルも。じゃあね。おやすみ」


「はい! ありがとうございます!」



 何だよ…めちゃくちゃいい子じゃん。


 久しく家族以外の他人の優しさを忘れていたな…いったい何年ぶりだろうか。


 あとはパッシブさえなければなぁ…


 背中に玉のような汗が冷えて気持ち悪い…


 顎が外れそうなくらいガクガクしたせいか、噛み合わせが変だ…


 膝にもガクガクにきた。


 歩き方も変だ。


 やっとの思いで服を全部脱いだけど、四つんばいになっちゃう。


 なぁに、構いやしない。


 勇者様への敬意の五体投地みたいなものだ。


 シャワーだ、シャワーだ。


 ひゃっほ〜い。


 すると後方からガチャッと音が聞こえた。



「山田くん、残り物だけどこれ食べる、か、な………」



 無言で扉がそっと閉められた。


 ふむ…これがラッキースケベというやつか…



「ぬわーーっっ!!」


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