春よ来い!

 もうすぐ卒業式だ。


 後もう少しすれば、この忌まわしい中学生活が終わる。


 教室のど真ん中の席で一人呟く。

 

「しかし…シーフとか忍者とかになれないものか…」


 それがなれないんだよな。


 かの大精霊様がもたらしたジョブは変化しないのだ。


 光降る夜にもらった祝福は各々にとって最高のギフト、という話だ。


 そして、大精霊様の前では権威や権力など何も意味をなさず、才能しか判別しないという。


 モブの才能ってなんだよ。


 なんなんだよ。


 大精霊様と言えば、割とポコポコと迷宮を産むことで知られている。


 規模は大小様々だが、一説によると愛が交わった日だとか、愛を産んだ日だとか言われている。


 この現代、稼ぐ職業といえば迷宮の探索者だ。未知の金属や動植物、宝箱などから採れる全てのものは、科学を飛躍的に進め、そしてこの迷宮、ダンジョンの定期的な暴走により、この世界から戦争を無くしたという。


 平和、なんだろうな…この時代は。


 何せ秘密基地の話でもするかのように皆キラキラとした瞳で将来を語っているのだ。


 大昔に比べて死亡率も今や交通事故より少ないと言われているし、稼げるからだろう。



「林檎ちゃんはすぐにでも潜りたい?」


「んー入ってから決めたいかな〜」


「僕もだよ。いいパーティ作りたいしね。それに」


「あーまたエッチな顔してる〜」


「あははは…そんな事ないよ、林檎ちゃん」



 …いやらしい顔してんだろ。こっちに顔向けてるからバレバレだからな。


 二人とも俺に気づいてはいないが。


 いや、クラス全員だな。


 下位職でも、レベルが俺より上ならば、俺の存在に気づくことは出来ない。


 ちなみに先程の二人は幼馴染と親友だった者達だ。


 紅山林檎くれやま りんご、燃えるような赤い髪に翡翠のような瞳の美少女。10歳で諦めた初恋の子だ。


 横道雅矢よこみち まさや、きんきらな髪の王子様系チャラ男。14歳でやめた元親友だ。


 二人とも上位職を授かり、明るい将来が約束されたからか、雰囲気がいい。辛かった受験も終わり、とうとうずっこんばっこんしたのだろう。


 林檎の言うエッチな、とは複数人の婚姻を認めてもらう資格のことだろう。探索者としての功績を国に認められれば、それも可能らしい。


 そんなこと、遥か上過ぎて俺には想像出来ないし、分不相応な夢など見ない。


 まあ、伝え聞くところによると、上位職の女性は総じてプライドが高いらしい。


 だからそれよりレベルが上にならないと難しいというが、そもそも俺は下位どころか圏外のジョブのため、到底無理な夢だ。


 というかそんなのはどうでもいいんだよ。



「はぁ…やってらんねぇ…でもこれからだ…」



 この五年間、目の前が真っ暗だった。


 何度失恋したのだろうか。


 10歳からか…長かったような、短かったような。そんな気分だ。


 ちなみに青春の話だ。


 古代語で言えば、BSSだ。


 僕が先にすけべするはずだったのに。


 そういう意味らしい。


 まったく、古代はイカれてやがるぜ。


 とりあえず普通科のある高校へ行く準備は出来ている。


 そこでこの暗闇を晴らすのだ。


 その為に勉強は死ぬほどした。何せ命がけでもあるのだ。


 なぜなら完全に迷宮に興味ありませんという稀有な高校はこのエリアでは一校のみ。


 つまり知識特化の高校だ。


 ダンジョン産業主義の流行るこの現代で、普通科と言うのに全然普通じゃない。


 むしろキラリと尖ってる。俺の憧れだ。


 他の高校は多かれ少なかれ実習などで迷宮探索が、授業に組み込まれているのだ。


 そんなところに行けば、死んでしまう。


 でも本当は金銀財宝を手に入れたりしてみたかった。


 そして……俺を見つけてくれる嫁が欲しかった。


 だって男の子だもの。


 まあ、それがモブには厳しい世界だということは、この俺が一番よく知ってるつーわけだが。


 なぜなら俺のジョブは気を抜けば、安価に死をもたらす。


 他でもない、他人の力によって壁のシミになってしまう。


 彼らが成長すればするほど、パッシブが強力になり、スキルを使わなけば、容易に弾き飛ばされてしまう。


 そしてスキルを使えば、すぐに魔力が無くなり動けなくなりパッシブとか魔物に殺されて死ぬ。


 唯一の非殺傷行為は結婚という魔法契約のみ。


 まあ、これは14才の時点で、半ば諦めてはいるが。


 ともあれ、まずは死の回避が最優先だ。


 超普通科高校のモブ。これなら死に怯えなくて済むだろう。


 何せ、レベル上げ興味ありません学校だ。


 もしかしたら俺にもガールフレンドが出来るかも知れない。


 期待に胸が膨らむ。


 ああ、春よ! 早く俺に来いっ!

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