俺の学校生活。

サクラチル。

 春は、来なかった。


 特殊ジョブは有無を言わさず探索者学園行きだとよ。


 先に教えてくれよ。



「…モノリスのせいか…このモノリスのせいかぁぁぁッッ! こ、こ、こんがきゃゃぁぁあああ!! くそっ、くそっ! 壊れやしねぇ…いったい何で出来てるんだッ…! くそっ、くそっ! 死ね! お前が死ね! 俺が死ぬ! 俺が死ぬだろぉがッ! ッ、はぁぁぁ…ああッ! ………はぁぁぁ…短い人生だった…」



 壁に投げつけても傷一つつかない、このモノリス。


 それはかの大賢者様が生み出したとされる特殊なスマホだ。これを国民一人一人がジョブを手に入れた時に支給される。


 こいつに春休み、国から通知が来たのだ。


 君、春から探索者学園だからと。


 頭が真っ白になった。


 受験勉強は意味がなかった。


 勉強や知識などは平均を強要されないから、ちゃんと頑張ったのに…


 あの日々はいったい…


 一応逃亡したが、とっ捕まった。


 ちゃんと読まない俺も悪いが、世の中全て上位ジョブ次第だもんな…


 大精霊様的にはジョブに上位や下位など貴賤はなく、皆おっぱいと同じという話だが。


「俺もデッパイかチッパイが良かったな…」


 もちろんジョブの話だが、見ただけでわかるキラリと尖った個性が欲しかった。


 あのお姉様方の会話の中にもあったが、気にする意味が今わかったな。


 ただ、大きいだのや小さいだのを気にする意味がわからない。


 あれは俺の求めてやまないただの個性だ。





 上位探索者を夢見る若者が通う学校。


 国立第14黎明れいめい学園。通称永瀬学園。


 そこに俺は入学した。


 そして入学式の日、指定された特殊クラスに行けば、何というか…モブ風味の強いやつばかりで実際には絶対モブじゃない強者の匂いのやつ、それで満ちていた。


 しかめ8人全員前髪長いかよ。


 まあ、俺もだが。


 これはジョブのせいで、こいつらみたいにわざとじゃない。何せ、切っても伸びるのが早いのだ。そしてそこから伸びないのだ。


 モブの髪型が変わらない理由がわかって落ち込んだものだ。


 しかし…これは死んだな、俺。



「新入生諸君。入学おめでとう。初めましてだな。担任の是澤だ」



 先生は爽やかムキムキ先生で、生徒とかバシバシ堕としてそうな金髪浅黒短髪イケメン野郎だった。


 ビリビリと凄まじいパッシブを感じる。


 こいつも上位職かよ。


 当たり前か…



「…って何か気持ち悪いやつばかりだな…まあいい。聞け。特殊ジョブクラスは一年だけだ。一年かけて君達9人を調べ尽くす。その後選択制でそのまま居てもいいし、転校しても構わない。一応出席日数さえ足りていれば、何もしなくても卒業までは約束されているからな」



 特殊ジョブはくまなく調べられる。中には人道に外れるようなこともあるのだとか。


 卒業はその対価だというが、これをラッキーだとは思えない。何の知識なく社会に放り出されても困る。



「ただ、迷宮の中でしか真価が発揮されないジョブもあるからな。オリエンテーションや実習には参加してもらうから。そのつもりでいろよ」


「…フッ」

「フッ」

「…はぁぁぁぁあああ」

「ふっ」

「フッ…」


 いや、フッが多いだろ。


 俺には聞こえてんぞ。


 溜息俺だけかよ。


 大きな音でも気付かれない…もしかしてと思ったが…そんな都合良くいないか。


 くそっ、陰の実力者気取りの俺ツェー予備軍ばかりかよ。それにまた教室の真ん中の席だし…


 まるで梅干しの気分だ。


 気分は王様だな。


 しかし、偶には主人公席に座ってみたいものだ。左側に柔らかな風を感じてみたいし、差し込む陽光にキラリと反射したい。


 というか死ぬだろ。ただでさえ四方からこいつらのパッシブの圧がかかってんのに、迷宮内だと吹き飛ばされてしまうぞ…


 実習日まで、日はあまりない。


 何とかしなければ、死ぬ。


 しかし、いったいどうやって…


 仕方ない。


 アレを試すとするか。


「フッ…この俺のジョブの力…見せてやる!」


 叫んだとて、もちろん誰にも聞こえないけどなー。

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