MK5。

 卒業を控えたある日のこと。


 教室内は、映えある未来に向けてざわざわとしていた。消化されるカリキュラムはもう何もなく、自由課題のみの授業だった。


 先生も別にいない。だからみんな好き勝手に席を移動し、高校生活への憧れや、色恋の話、そして迷宮の話などで盛り上がっていた。



「痛え! お前何するんだよ!」


「俺じゃねーよ。一人で何言ってんだ」


「嘘つけ! スキルだろ!」


「はは。お前なんかスキル使うまでもねーよ」


「んだとぉ!」



 すまん、それ俺だ。


 横切る際に、頭に肘をぶつけてしまった。誰にも見つからないから売店に行くつもりだったのだ。それがこいつが急に椅子を倒すから頭にぶつかったのだ。


 いや、こないだこいつの痴話喧嘩に巻き込まれたよな。


 腹立つなぁ…


 もっかいやって…いや、やめた。


 俺が安易に敵性行動をとれば、こいつらのパッシブによってあえなく吹き飛ばされてしまう。


 べちゃっと壁のシミになってしまう。


 これが怖いのだ。


 お姉様方のお尻だって、その瞬間、邪な気持ちを懐けば、苛烈なしっぺ返しをくらう。


 溜息を吐きながら、席に戻りモノリスを眺めながら愚痴をこぼす。


 誰にも認識されないため、割とおっきな声だ。



「レベルとジョブだけか…確かに無いと辛いな」



 このスマホ、モノリスでわかるのは、ジョブとレベルのみだった。


 ほんと使えねぇ。


 しっかし、ちまちまステータスを事細かく載せていたレジェンダリーラノベとかあったけど、意味あったんだな。


 根暗な理数系とかが好きそうなあんなステータスなんて、すげえ読み飛ばしてたけど。


 なかったら方針とか指標とか計画とか自分の育成方法をじぇんじぇん立てられない。


 いらね、って言ってすまんこってす。


 謝るからステータスを見せてください。


 そんなの無理だけどな。


 大賢者様ももう少し気を配って欲しいものだ。





「そういや、林檎ちゃんって何か探してるんだって?」


「うん。それを求めて…迷宮ってほんと楽しいよね」


「…アンタ大分変わったよね」


「そうかな? 昔から変わってないよ」


「だって昔はあいつ、誰だっけ…」


「あー、その話パス。あんまり思い出したくないんだよね」


「あ、なんかごめん。燃やさないで」



 同じクラスの紅山林檎くれやま りんごはジョブの特性なのか、感情が最高に昂ると翡翠色の瞳が赤く燃えるような赤い緋色になる。


 中間の、翡翠色と緋色が混ざった混濁色に似た色は、導火線に火がついた危険な状態と言える。


 ちなみに混濁色とは、伝説にある愛の証だと言うが、俺からするとMK5にしか思えない。


 ちなみにマジで焦がされる五秒前という意味の古代語だ。


 昔は今よりもきっともっと殺伐としていたのだろう。


 怖いものだ。


 その赤と緑、サンタみたいだな、って言ったのまだ根に持ってないよなこいつ…サンタに性別あるって知らなかったんだなや。


 それにそう言ったのは、セクシーサンタ姉貴のせいだから。


 いや、姉貴の場合セクシーではなく、セクチーって感じだったな。


 あれでも高校生か…可哀想な姉。


 でも個性があって羨ましい。


 属性があって、信者がいて、羨ましい。


 そんなことより高校か…楽しみだ。


 そうだ、俺は早く高校生になりたいんだ。


 超普通科高校生になりたいんだ。


 いつもドッカンドッカン吹き飛ばされたこいつらから、やっと別れることができるんだ。


 合格通知を眺めながらニマニマする。


 ああ、春。愛しい春よ。この俺の春が、やっと来るんだ。


 へッ、こんなに待たせやがって…


 全然許しちゃうからな!

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