ザ・モブ。

 俺の名前は山田。山田ひろゆきだ。


 高校進学を控えた中肉中背の中学三年生だ。


 今日もまた、朝の登校時間を修練に利用するため、お目当ての集団に紛れ込んでいる。


 俺の姿は、ジョブの特性により、上位職には判別しづらくなっていた。


 幼馴染のあの子達や、親友だったあいつら、総じて上位職についた奴らからは、俺のことが誰が誰だかわからなくなっていた。


 そのくせ魔物、迷宮に現れる厄介者にはかっちり一番最初に見つかるため、一人で気軽に探索にも出れない。


 そしてパーティを組もうにも、パッシブで弾かれてしまうから怖くて組めない。


 だからレベルも上げられない。


 レベルが上がらないため、今度は下位職にも判別しづらくなっていく。


 大きな声でも届かない。


 肩を叩こうにもパッシブが怖くてできない。


 そして気づけば、空気のような存在になってしまった。


 それが俺だ。


 恨むぜ、大精霊様よ。


 俺のジョブは、レベルを上げたとて意味をなさない名前のジョブ。


 その名も、ザ・モブ。


 その意味は調べなくともわかる。


 何せこんなに目立たない。


 なぜなら今まさに女子高生の群れの中に居るが、誰にも気づかれないからだ。


 いい匂いがする。

 

 偶にお尻に手の甲が触れてしまうが気づかれない。これは俺の修練の賜物なのだ。


 いや、恨まなくていいや、このジョブ最高。


 いけないいけない。


 邪念はいけない。


 俺は今いい匂いのする柔らかくもプリッと跳ね返す、そんな桃に囲まれているだけなのだ。


 そう信じることでパッシブの圧を逃す。


 これが俺の長年に渡る修練の成果。


 編み出し辿り着いた境地。


 明鏡止水(思い込み)、だ!


 女子高生のお姉様方のお尻にさよならし、一人呟く。



「よし、今日も死ななかった…はぁぁぁああ…疲れた…しかし…家族からは厄介だなや…」



 昨日のことだ。


 受験に向かう際、置き手紙を忘れていた。


 受けた高校は、知識特化の高校だったのだ。だから受験当日も勉強に懸命で、忘れてしまったのだ。


 だからあの後、神殿警察にとっ捕まった。


 彼らは祝福により俺を認識出来るそうだ。詳しく聞いても、なんかわかるから、としか言ってくれない。


 皆そうなったらいいのに…


 もう何度捜索願いを出されたかわからない。父と母は下位職だがレベルは俺より当然上。姉は上位職だ。家族だからか、耐性は他人より少し高いが、やっぱり俺を見失う。


 そして俺のスケジュールを覚えてくれない。モノリス間のやり取りはなぜか覚えてもらえないのだ。


 家庭内暴力なのかと思う時もあるが、捜索してくれるからそれはないと信じている。


 だが、書き置きを怠れば、すぐに捜索願いを出されてしまうのだ。


 珍しい…どころか史上初めてのジョブ故に、先駆者がいないため、何が出来るかわからない。そして常時発動型なのか、他人からは常に壁のシミになって見えてしまう。


 そうだ。俺の将来のレーンはモブに決まってしまったのだ。


 これで万が一にでも間違えて探索者系の学園なんかに行けば、確実に最初の迷宮オリエンテーションで死んでしまう。


 探索者系学校の超有名校は、この国に100校ある。そして、エリアごとに均等に配置されていて、おおよそ一つのエリアにその有名校が2、3校ある。


 我がエリアには2校あり、東と西に分かれていて、探索者になりたい奴がどちらかを受験する。


 俺は当然そんなところには行かない。


 そんなやべぇところは真っ平ごめんだ。


 だから俺は昨日、普通科高校を受験したのだ。

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