第4話
家に着く頃には雨は本格的に降り始めていた。幸い服は少しだけ濡れただけで済んだ。買ってきた食料を冷蔵庫に詰め、少しだけ休みたくなった私は部屋の明かりをつけることなくベッドに吸い込まれるように飛び込んだ。数秒の間天井を眺め、ポケットからスマホを取り出す。無機質な画面が私の前を幾度となく通り過ぎる。ただ画面を見ていたという事実のみが私には記録されていく。いや、感覚的にはそれさえもない。突然音楽が流れた。それは昼に聞いた流行りのバラードのような気がする。何かの広告動画を間違って押したのかもしれない。
「へぇーお前ってこんな音楽聞いてんだ?」
数秒程度のあの出来事が、さっきから何故だか繰り返し脳に再生される。ただ、もう一度話してみたいなとは思わない。一目惚れしちゃいました、好きになっちゃいました、みたいな陳腐な少女漫画の主人公が抱く、キラキラとした恋愛感情ではない。逆に嫌悪というような感情でもない。どう表現していいのかわからない感情。少しだけ世界に踏み込まれてしまったことがそんなにも記憶に残っているのか。それだけで記憶に残っているのか?
まぁそんなことはどうだっていい。今日の私は明日にはいない。そもそも私はにんじんだって好きじゃない。あのおじさんの記憶の中にたまたま私がにんじんを多く買った日が記憶されているだけだ。今日のこのプレイリストも誰かの人生をなぞり書きしている気分になっているだけ。どうだっていい。私は誰かだし、私は私ではない。
外は相変わらずの雨だ。明日まで降り続くのだろうか?天気はまた変わるのだろうか?
「そろそろ夕食でも作ろうかな。」
私は今日を削除してベッドから立ち上がった。
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