第3話


予想外の状況に私は一瞬返事に困ってしまった。

「別に、好きじゃない」

ギリギリ言葉が読み取れる声で答えた。

「・・・?あっそ。」

「レン!何してんの?」

「今行く!わりぃ、イヤホン返すわ」

彼は不思議そうな顔を一瞬浮かべたが、すぐにすかしたような笑顔を浮かべて教室の左後ろへとかけていった。気づけば4曲目の最後のサビも終わりに近づいていた。


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放課後、手早く支度をし帰路につく。見慣れた商店街を早足で通り過ぎる。無邪気な子どもの声やお肉屋さんでコロッケを買って友達と買い食いを楽しんでいる声。商店街は寂れつつあるなんてニュースも最近はよく耳にする様になっているが、ここの商店街はその話とは縁遠いほど活気に溢れている。高校から一人暮らしをしたいとここへ引っ越してきた頃は随分とお世話になっていた。帰宅し、カバンを椅子に置き制服から着替えた。今日は食料を買い足すために少し遠いスーパーへ向かう必要があるからだ。引っ越してきた頃は家から近い商店街で買い物をしていた。だが、今はほとんど買い物をしていない。

「あいよ!ミナハちゃんよく来たね!ミナハちゃんの好きなにんじん1本サービスでつけておくよ!」

「よくきたね、にんじんにじゃがいも、お肉今日はカレーかしら?」

買い物をするたびに否応なしに近づいていく距離。別にそれ自体は悪くないし、優しさにもすごく感謝をしていた。優しさやその行動を否定しようなんて一度も思ったことはない。ただ、私は少しだけ心に踏み込まれているような気がして時々辛く感じてしまった。もしもそのことを相手に感じ取られてしまったら余計に気を使うかもしれないし、不愉快に思わせてしまうかもしれない。そう考え始めてからは足を運ぶことを躊躇ってしまった。スーパーなら多くのお客さんが出入りをしているし、バイトもたくさんいるしきっと私のことなんか覚えられはしない。


来た時よりも重くなったカバンを左手に持ち家へと向かう。タイミング悪く長い踏み切りに捕まってしまった。踏切は高々と警報音を鳴らし続けている。止まっていると歩いている時よりも何故だか左手が感じる重さは強くなってくる。重さを紛らわすために意味もなく足踏みを繰り返していた。6分ほど足踏みをしていると、ようやく踏切が開いた。一歩歩くとすぐにぽつりぽつりと雨が落ち始めてきた。私は対して気に止めることもなくそのまま歩いた。その横を無邪気な声で笑いながらランドセルを頭に乗せた小学生が走っていった。もうすぐ、本格的に降りそうだ。

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