第2話

梨本ミナハはぼんやりと窓を眺めながら机に座っていた。


昼休みの教室は、クラスメイトが思い思いの話で盛り上がってる。インフルエンサーのSNSの話、今度のテストの話、部活での自分の活躍の自慢、誰が可愛いとかかっこいいとか。ザッピングしているテレビのように流れる。どの話題も私にとって何一つとして興味の対象じゃないけれど、そんなBGMは私は嫌いではない。ただ、そのBGMの中には、最近どこかの社長にカバンを買ってもらった、誰かを貶めるだけの一方通行な攻撃、聞きたくもないような生々しい話、そんな耳に入れたくない雑音も紛れている。そして、ほとんどの場合そんな雑音を奏でるのは教室の左後ろに集まってスマホを見ているあの集団。


「ねぇ、あいつマジ最近調子乗りすぎじゃない?」

「サッカー部のれお先輩といい感じらしいよ」

「マジ?うける。れお先輩って顔イケメンだけど、

 あんまいい噂聞かないよ。ざまぁ、って感じ」

「あいつの中で絶対勝ちました、って感じなん

 だろうね。どーせ適当に捨てられるよ絶対!」

「ありさやばいそれ。ガチすぎて笑えないよ」


言葉とは裏腹に聞き心地の悪い嘲笑が教室に響き渡る。正反対の窓際の席にいる私にさえ一言一句聞き漏れのなく聞こえている。故意的なのか無意識なのかわからないが、多分この空間にいる全員に聞こえている。学校というこの狭い世界の中でトップであることをただ誇示するために。実際、あの集団は時々どこかの雑誌やSNSやらでモデルのような仕事をしているらしい。それなりに影響力があるように感じでいるからなのか、教室にいる人間のほとんどが彼女たちに敗北感をもっているらしい。その集団のリーダーが三村ありさ。綺麗に手入れされた茶色いショートヘアーにSNSで量産型のように見るメイクを施している。フォロワーも学校の影響力も群を抜いているようで、集団にいる全員が対等に楽しく話しているように見えてありさの顔色を伺いながら話している。私から見ればぎこちなく、ジオラマの中のイバラのような会話にしか見えない。

「うぇい、ありさ!」

「あ、何?りゅうがじゃん」

ありさたちに男の集団がやってきた。似たような雰囲気で、似たような聞き心地の悪い嘲笑をする。教室の雑音を聞く時間はここまで。耳にイヤホンをさし、誰かの作ったプレイリストを適当に流す。別に好きな曲でもないけれど、この聞き心地の悪い嘲笑を聞いているよりはずっといい。それに、この間は世界から隔離され誰も侵入してくることはない。まぁ、そんなことをしなくても私が関心を向けないように、関心を向けられることなんてないんだけど。

そういえば、感情を交え誰かと話すことを、もうどれくらいしていないかな。いつからかその必要性さえも感じない。


梨本ミナハは黒い長髪に大きな瞳をもち、まるで小説の表紙に書かれているような少女である。だが、気配を消すように過ごしていることと仮に見つけたところで誰も受け入れない、寄せつけたくないオーラを放ち誰からも関心を向けられることはない。


いつのまにかイヤホンは3曲目の流行りのバラードを歌い始めた。Aメロで別れの情景を歌い、Bメロで寂しさをそして、大サビで未練や希望を歌う。割と普遍的な歌詞とメロディ。目を閉じてじっくりと音楽を聴いていた。ここ最近の曲はダンス曲か普遍的な恋愛ソングが増えてきているようにも感じる。きっとどこかのヒットメーカーがこのジャンルが金脈なんだって考えて乱発したいるんだろうな。なんて考えているうちに少しだけイヤホンの音楽が何だか少し小さくなった気がした。


「へぇーお前ってこんな音楽聞いてるんだ?」


突然の声にパッと目を開くとそこには、私の左耳のイヤホンをいつのまにか自分の左耳にさした彼がいた。

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