[映画]トラペジウム
元乃木坂46の髙山一実さんが乃木坂46の現役時代に執筆した小説『トラペジウム』が原作のアニメ映画です。
とりあえずアイドルが書いたアイドル小説を有名なアニメ会社が映画化したという事で、特に期待しないで観に行ったのですが……物凄く自分好みの映画でした。
主人公、東ゆうはアイドルが好きでアイドルになりたい夢を持ちながら、その事を他人には言えずにいる高校生の女の子。
よくある設定ではあります。
と言うか、アイドルマスターです。
ですが、アイドルになる為の手段として、地域の東西南北それぞれの高校から可愛い子と友達になってアイドルグループを結成しようと企みます。
かなりの行き当たりばったりな計画です。
が、結果的に上手くいってしまいます。
自身がアイドルになりたいから、きれいどころと友達になって、人目を惹こうとしているのです。
つまり自身の目的のために友達を選ぶんです。
更に、アイドルとなった時に印象が良くなる様にしたい為だけにボランティアをやったりするのです。
主人公ゆうの身勝手さが垣間見えます。
でも、この映画はそこが良いのです。
主人公は決して、単なる良い人では無いのです。
そして、これを書いているのは、リアルに日本のトップアイドルグループでアイドルをしている本人なのです。
だからこそ、中途半端に良い人の主人公ではないのがリアルなのです。
ずるいですね。
それに、やっている事がそこまで自分勝手かと言うと、そうでは無いと思います。
例えばアイドルマスターだとプロデューサーさんから言われてやる事を、主人公が自らやっているだけです。
バンド物だったら、自身の打算の為にバンドメンバーをバンドメンバーを集めてるようなものです。
それがアイドルグループだからきれいどころを集めてみましたと言うだけなのです。
そもそも、普通はそう計画したとして、そんな簡単に計画通りに行きません。
主人公ゆうの付け焼き刃でのロボット知識を、くるみちゃんは見抜いてました。
おそらく蘭子さんも、ゆうの下心は分かっていたのでしょう。
それでもくるみちゃんは既に高専のロボット大会で人気を得ていて、ゆうと出会った時には既に校内で浮いている存在だったので、ゆうのような友達がいて嬉しかったのではないかと思うのです。
蘭子さんは蘭子さんで、ゆうと出会うまで周りとは浮いていた様に思います。
テニスの試合では鉄砲玉にされてましたし、髪が縦ロールですし、周りの人には扱いづらい立ち位置だったと思われます。
ちょうど朝ドラ、虎に翼での涼子さん的な立ち位置だったのでしょう。
だからこそ、ゆうの様な人に無理やり連れ回される事を楽しんでいたのかもしれません。
実際、前半部分はみんな楽しんでいたように見えます。
もう一人の美少女、美嘉ちゃんは、自らゆうと友達になろうとしてきます。
美嘉はゆうと小学校が同じでしたが、その時は印象に残らない子です。
ですが整形して顔を変えて美少女になって、高校デビューしたのです。
そして何故かゆうの事を慕っています。
美嘉ちゃんは美嘉ちゃんで、高校デビューに成功したのに上手く行っていません。
その理由は後から分かりましたが、それ故にきっと彼女もまた、ゆうの事をよく理解していたのです。
ゆうと美嘉の関係性は今までのアイドル物にあまり無い感じで新鮮でした。
そう考えるとそもそもゆう自身が一番分かっていなかっただけで、他の三人は最初からゆうの事を分かっていてくれていたんだと思います。
(そうじゃなかったとしても、流石に友達としてずっと一緒にいたら分かるだろうし)
ボランティア活動を、自身のイメージアップの為にやるのですが、それも良いと思います。
例え打算があるとしてもやらないよりやる方が良いし、アイドルがボランティアをするたびにうるさく文句だけ言う人より、打算があってもボランティアやってるアイドルのほうが自分は好きです。
もう一人、ゆうと仲の良い男の子がいます。
写真が趣味の工藤真司。
ゆうは彼にだけ秘密を打ち明けています。
ゆうとの会話で、一枚の写真でアイドルになる事もあると言っているのは、Rev.from DVL時代にたった一枚の写真が奇跡の一枚としてバズって今や知らない人はいない存在にまで上り詰めた、橋本環奈さんのデビューのエピソードを思い出します。
真司とは良い関係を続けていますが、ゆうはアイドルになる事が一番大事なので恋愛には発展しません。
美嘉との会話で恋愛なんてそんなに良いの?と言うセリフがあったので、真司はともかく、ゆうの方は本当に単なる男友達以上には見てなかった気もするのですが。
彼の撮った写真の星座が、タイトルとなっているのトラペジウムなのですが、トラペジウムは不等辺四角形という意味なのだそうです。
つまりは主人公たち四人の関係性そのものの象徴でもあります。
後半、まさに
くるみちゃんの精神が狂っていく様はなかなかにヤバくて、あれ、さっきまでアイドルマスターを見ていた筈なのに気がついたらパーフェクトブルーになってるんだが……と言う感じでした。
パーフェクトブルーは最後まで狂ったままでしたが、この映画はその後あっさりと正常に戻ります。
くるみちゃんは、なんなら良い思い出だったねくらいの事を言ってくれます。
そこに理由はありません。
普通の映画だったら、説明不足なんだけど……と言いたい所なのですが、この映画、原作は現役アイドルが書いているのです。
作者がリアルにアイドル活動をしながら書いてる部分であるので、アイドル活動の描写には、どう考えても作者の実体験が入っていると思うのです。
つまり、これがリアルなのです。
くるみちゃんはパーフェクトブルーの未麻やボヘミアン・ラプソディのフレディ・マーキュリーばりに気が狂いそうになるのですが、何の説明も無く普通に戻れて、四人の関係性も、特に説明も無く戻れています。
でも、これを書いてるのは本物のアイドルなのです。
だからこそ、こちらの方がリアルなのです。
まさにこの映画が描きたかったのはここだと思うのです。
芸能界に入った主人公たちが、世間の感覚と少しずつズレていっているのに、それに誰も気づかない。
それでも世界は今日も周り続けている。
そう言う事なのです。
成り上がって行くバンドのマネージャーを描いた映画『バンデイジ』では、実際の映画監督が実際にリアルで音楽プロデューサーをしている方だったのですが、あの映画も世間と自分たちの感覚のズレが大きなテーマでした。
現在進行形でアイドルをしている方が、自身と同じアイドルを描く事でしか、この感覚は描く事が出来ないのです。
我々一般人には、その感覚は想像する事しかできないのです。
だからこそ、結果的に彼女達が普通の生活に戻って、でもまだ夢を諦めないゆうの姿に感動するのです。
もしかしたら、ゆうは夢を諦めたくなかったのでは無く、アイドル以外に他に好きなものがあない、まさに主題歌の『なんもない』だからこそ再びアイドルを目指す事を選んだのかもしれません。
でも、一度でもあの世界を経験して知っている仲間達には、その決断がどれだけの覚悟があったのかを知っています。
だからこそ、再びゆうの元に集まってきたのです。
たぶん。
あと、ゆうが単なる承認欲求や自分が目立ちたいと言うだけで他の子を利用しようとしているる訳ではなく、本当にアイドルが好きなんだと言うのが(直接言ってはないにしろ)伝わっていたのが大きいのかもしれません。
ゆうは部屋の中でずっと女性アイドルの曲聴いてるくらいな上に他の趣味は皆無っぽいので、四人でいる時とかもずっと他の女性アイドルの話ばっかりしてた可能性があります。
映画ポスターのキャッチコピーだってゆうの「はじめてアイドルを見た時思ったの。人間って光るんだって」というセリフがコピーになってるのです。
本当にアイドルの事しか考えていないのです。
くるみちゃんなんかはおそらく、ゆうがロボット好きと言ってたのは嘘だとバレバレだけどこの子がアイドルオタなのは本当なんだろうなと言う所で信用してしたと思うのです。
女性が同性のアイドル好きは昨今では珍しい事ではなくてK-POPでは女性が憧れるアイドルをガールクラッシュと呼んだりなんかしてますが、日本でも全然松岡茉優さんとか同性のドルオタを公言する方は多くなっています。
だから友達なんだし言っちゃえば良いじゃんと思うのですが、それでもやはりゆうは、同性のアイドルが好きなのを言えなかったのでしょう。
ゆうはあくまで自分の夢の為に三人を利用していると言う後ろめたさがあったのかもしれません。
でも皆は、そう言う所も含めてゆうのことを分かっていたから、ずっと友達でいてくれていたのです。
朝ドラだと主人公が自分でそのことに気がついて自分で関係修復をしようとしてしまうのですが、無理に主人公が全てを背負う必要は無いのです。
主人公が何もしなくても何とかなる時だってあるし、何の理由もなく関係性が修復する事だってあるのです。
(多分、ゆうと美嘉ちゃんが仲直りした後で美嘉ちゃんが何とかしてくれてたんでしょうきっと)
現実のアイドルは今も激しい競争を繰り広げています。
現在Abemaで放送中の『I-LAND2 : N/a』では今まさにアイドルになりたい研修生達が死闘を繰り広げていて、仲の良い子同士で争ったり下剋上したり憧れたり憧れられたりを繰り返しています。
そしてデビューできる子がいれば、必ず落ちる子もいるのです。
デビューできても人気が出ないと解散なのです。
アイドルはいつも過酷なんです。
結局、ゆうは最後幸せなのかどうなのかよくわかりませんが、そもそも作者の方が現役時代に書いた小説なので、現実に追いつく方になって終わるのは理想的です。
ずるいですね、でもこれ以上ない終わり方です。
そしてまさに、この人のこの時にしか書けない作品になっていると思います。
観る前はあまり期待していなかったのですが、自分には物凄く刺さりまくりの映画でした。
凄く良かったです。
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