状況整理
ズズズとお茶をすする音がテントの中に響く。
なんだか言いたいことだけを言い残して消えてしまったモナ父。アルブムに続いて三人目の【影移動】の術者、希少だと思っていた転移術者が意外に多くてしょんぼりな俺である。
あれから一時間程、未だにモナが目覚める気配はない。地下水道での一件の後、ラスファルト島へ転移した俺達。尚、初めてここへ来るフッサへはこの気味の悪い島のことは秘密の修行場的なものだと説明してある。蠢く木々が目に入ると気が散るので大きめのテントを組み立て、ミトの淹れてくれたお茶で一服。
「ちょっと整理しようか」
というのもポルトアリアでの邪神復活の儀に関して、なんだか色々な勢力が出た上に情報もごちゃごちゃしてきて頭の中がこんがらがってしまったからだ。
「まずは邪神を崇める組織のポルトアリア支部、ここは組織の幹部からの命令ではなく独自に邪神を復活させるための魔法陣を街中に仕掛けた。それが発動すると街に住む人々を犠牲にして邪神が復活すると信じている。そしてこの街の信者たちは発動に合わせて魔法陣がより大きな規模で発動させるために家族や友人を巻き込もうと洗脳されている」
「む? 信じている?」
おっと、いけない。まだフッサには俺と邪神については話していないんだった。邪神なら目の前にいるよ☆なんて言えない。邪神ちゃうけどね。
「聖神教によればズワゥラス様は既に復活されているそうです。この上何を復活させようとしているのか、と主様は仰りたいのです」
「む、そうか」
「ゲフンゴホン、そうそう。そんで邪神を崇める組織はこの動きを調査しようとしていた。本来調査するはずの人を俺が殺しちゃったから、多分別の人が派遣されているんだと思う」
俺の予想ではあの集会場で見たアルブムがその役目なんだと思う。特に動きもないし邪神を崇める組織としては傍観するつもりなのかもしれない。
「んで、邪神を崇める組織に敵対する勢力。仮に反邪神とでもしておこうか。反邪神はこの儀式を防ぐために計画と組織に関係する拠点、魔法陣の一部の場所をギルドや領主に知らせた。俺が潜入した集会で偉そうな神官っぽいひとが言っていたネズミってのは彼らのことだと思う」
「敵対するといっても情報を流しただけで大きな動きはないですよね」
「うん、ギルドや領主を頼るとこからも戦力的にはあまり大きくないんじゃないかな」
「あとは、領主や冒険者ギルド。ここは反邪神からの情報提供での調査や関係者の捕縛・尋問を進めているけど今のところ対して成果は上げられていない。街の有力者には邪神を崇める組織の息がかかっているのか、単に経済的な損失を嫌がっているのか住民の全避難には消極的な人もいるらしい。調査に協力していたから聖神教も今のところここに属しているのかな。なんにせよこれだけ大規模な儀式だし、ここがどれだけ動けるかってとこだろうけど…」
「圧倒的な情報不足ですよね」
「だね。魔法陣についても結局無効化方法はわかっていないし」
ふう、と一息。
ここまでで勢力としては四つ。
「そしてモナのお父さん。何かの目的の為に動いているらしいけど、その目的は不明。魔法陣についての情報や無効化方法は詳しいみたいだけど行方は分からない。それに偽装中のミトがエルフだっていうのも見透かしていたし、俺についても何かを感じ取ったみたいだったよね」
「あの瞳、でしょう」
「モナの意識を奪った金眼、そして俺達を見たあの銀眼。あれってもしかして…」
「魔眼と呼ばれるものでしょう」
魔眼キターーーーーー!
そうだよね、なんかそんな感じだったもんね。いいなぁ、魔眼。憧れるよなぁ。
この瞳がマルっと全部お見通しだぜ、ってやつかな。
「主様、なんだか嬉しそうですね」
「そ、そうかな、ところで魔眼ってやっぱりスキルの一種?」
「ええ、魔眼系のスキルは後天的に得ることが難しいスキルの一つですね。魔法スキルのように家系で受け継ぐことが多いそうです。スキル内容は千差万別、使用に魔力は消費するそうですが魔法スキルのように体系化はされておりません。瞳を起点に発動するスキルで、現在確認されているそのどれもがかなり強力な効果を持つということくらいしか私も知りませんが」
「そっか、それじゃあ瞳の色とかで効果は…」
「モナのお父様がどのような魔眼かは本人に聞くしかないでしょうね」
目を覚まさずに寝かされた状態のモナに三人の視線が集まる。無表情で規則正しい呼吸、それだけ見ればただ眠っているようにだけど、いくら起こしても目覚めることはない。解呪や解毒の魔法、ミトの薬なども試したが効果はなかった。これが金色の魔眼の効果であることは間違いないと思うんだけど、その効果がわからない以上は施す手がない。
「ですが銀眼の方は恐らく…」
「鑑定や解析系だろうね。でもステータスを見抜くような能力じゃないと思うんだよね」
俺のステータスにかけた【隠匿】を看破したとは思えない。何しろ「使用者の闇系魔法レベルよりも高い闇系魔法を所持していないと看破不可能」という代物だ。【影移動】が使えるといっても、その上位魔法である邪道魔法を所持している俺よりも闇系魔法が高いということはないだろう。
「どっちみち俺達じゃ正解かどうかはわからないから、ここで話していても仕方ないよ。そんで後はコレね」
俺が取り出したのは一通の封筒。封蝋で閉じられていた封筒は俺達が手に入れた時点で既に開封されていた。その中にあったのは一枚の地図。
ポルトアリア市街地の地図にいくつものバツ印が書き込まれている。その数百八つ。
手元にあった反邪教からもたらされた魔法陣の場所とも一致しているし、モナ父が魔法陣は百八つと言っていたことからも街に仕掛けられた魔法陣の場所だろう。
「でも場所がわかってもなぁ」
破壊すればAランクに近い魔物が出現し、それを倒しても他の魔法陣によって復元されてしまう。一度に半数以上の魔法陣を破壊すれば復活も阻止できるのだろうけど。
「街の至る所で発生した五十四体のAランクの魔物を同じタイミングで倒すなんて無理だよなぁ」
せめて一か所に出現だったら俺の魔法でまとめて倒せたんだろうけど。
この地図だけを落とした、なんてことはないだろうから、モナ父は敢えて俺達にこれを渡したんだろうけどその真意もわからない。
「このよくわからない五つ目の勢力。無駄足を踏んだ、みたいなこと言っていたし、モナのことはしばらく預けるとも言っていたからしばらくは介入してこないよね」
「エッジが組織の拠点にいたことを考えると、組織と関係がないというのを信じるのは尚早かもしれませんが、主様のお仰る通りこの件へは関わってこないとは私も思います」
「そうだよなぁ。アカラサルマ商会とは裏か表かわからないけど何らかの取引はあるんだろうし。モナのお父さんの発言が真実とは限らないもんな」
状況を整理したところで、この件の解決策が見つかったわけでもない。
「とりあえずこの地図はギルドに流すとして…」
もう一点。
「あの魔法陣のことですね」
そう、アカラサルマ商会の地下で俺とミトが見つけた魔法陣。その光も大きさも図柄も百八つ仕掛けられている魔法陣とは別物だったんだ。モナ父が残した地図にもアカラサルマ商会付近に印はない。
邪気含んだあの魔法陣。空間に固定されている点は同じなので全くの無関係ということもないだろう。
「起動の始点か効果の集約か」
俺が聞いた話では各所に仕掛けられた魔法陣は時限式ということだったが、それは嘘で起動用の魔法陣に連動している可能性、それから各所の魔法陣が発動した後、邪神を復活させるためのエネルギーを集約させるための魔法陣の可能性。
俺が思いつくのはこの二つ。俺の意見にミトもこくりと頷いた。フッサ? あいつなら途中で話についてくるのを諦めて大型犬のように丸まって尻尾をパタパタさせてますよ。
「とはいえ俺達じゃ解析できないしなぁ」
「モナのお父様なら解析できたのでしょうけど」
「あとはジョン・ドゥの解析系のスキルか…。そういえばあの人エルフじゃないかと思っているんだけど、ミトはどう思う?」
「ジョンさんがですか!?」
「そうそう、あの前頭マスクは耳を隠す為なんじゃないかなって思ってさ」
「うーん、老齢のエルフならば同族がわかるそうですが、私には…」
シエイラのリクトエルさんでも連れてくればわかるんだろうけど。あの男がエルフかどうかはどうでもいいか。
「先ずはこの地図をギルドに届けて、どうにかしてジョン・ドゥにあの魔法陣を解析してもらう。俺達ができることはこのくらいかな」
住民の避難やなんかは街の有力者に任せる他はないし。
状況を整理した俺とミトは眠り続けるモナをフッサに任せて再びポルトアリアに戻ることにした。
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