宴、そして

「結果発表―――――!」

「な、なんだ、なんだ!? 地下遺跡から帰ってきたと思えば、急に。で、どうだったんだ?」

「すみません、注目されていたので、つい」


 北門の内側に設置されたギルド本部のタープテントの正面で落ち着かない様子で俺達を待っていたギルド長。ギルド職員や冒険者達も皆が俺達に注目している。リザードマンの大群についてはここにも連絡来ているようだが、地下遺跡にまで異変が起きているとなると街の安全が確保されたとは言えない。地下遺跡については公にはしないで俺がこっそりと確認しに行ったんだけど、あの状況で完全に秘密に出来るはずもない。地下遺跡の異変についてはこの場の皆が知っているみたいだ。彼らが緊張の面持ちで俺達を見るものだから、ついついふざけてしまった。


「言われた通り地下十階まで潜ってきました。入ってすぐにはスケルトンが沢山いましたけど地下二階以降はむしろ魔物が少ないくらいでしたよ。偶然集まっていただけなんじゃないですかね」

「ほ、本当か!」


 嘘です。


「そうか、ご苦労だったな…。いや、念のため何人か職員も派遣するか。まぁ、お前の報告だから間違いはないだろう」


 俺の行動は信用してないみたいなことを言っていた割に報告は信用するのか。人を見る目があるのかないのか。俺の仕込みで苦労をかけてしまったことは申し訳ないと思うが、おチビリザードマンは俺でなければ対処できなかっただろう。冒険者や兵士が精神攻撃にやられて全滅にならなかっただけ感謝はしてほしいかな。


 肩の荷が下りたのか、天を仰ぎ片手で顔を拭うギルド長。


 そして嵐のような歓声。


 ほぼ同時に門も開かれた。周辺の魔物の討伐に目途がついたのかな。大門脇に備え付けられた小門からの出入りはあったみたいだけど、スタンピード開始以降閉じられたままだった門。時間にしては僅かだったけど、待ちわびたような皆の顔が今日という一日がどれだけ長かったのかを表している。


 疲労困憊のCランク以上の冒険者達はどこかやり切った顔だ。少しだけ切ない表情なのは犠牲者がいなかったわけではないからだろう。


 門の内と外。門の外にいた者からはどのような戦いだったか、門の内にいた者からは地下遺跡の異変についての話が交わされる。勝利を喜ぶ者達、死者を尊ぶ者達、仕事に追われる者達、各所へ報告をする者達。


「また黒騎士が出たって。西門の兵士の何人かは直接話したらしいぜ」

「その話、俺も聞いたよ。仮面被った派手なねーちゃんと一緒にいたとか。そのねーちゃんがまたえれぇ強くって、西門に流れた魔物をほぼ一人で倒したとか」

「領主を顎で使って、戦場で寛いでいたってあたしは聞いたよ」

「そうなのか。領主のやつ操られていたんじゃねぇか?」

「腕を一振りするだけでいくつもの竜巻を生み出して魔物をミンチにしていったとか」

「Aランク冒険者級の補助魔法で兵士達を強化したって」

「黒騎士は?」

「戦線からいなくなったって話だ、逃げたのか、何か目的があったのか…」


 冒険者達の話に耳を傾けていると、その話題は仮面の女についてが多いようだ。人の目が多い所での行動だったから仕方ないか。西門からの連絡を聞いた人から始まった話はこの短時間で尾ひれをつけて広まっていく。


 隣に立つミトもその話を聞きながら恥ずかしさでいたたまれなくなっている。火の無い所には煙は立たないというし、結構大暴れをしたようだ。


「主殿!」


 そんな人混みをかき分けて、うちのワンちゃんがモナを引っ張るようにやって来た。大きな怪我もなく、無事で何よりだ。


「二人とも大活躍したらしいね。お疲れ様」


 スタミナ知らずの獣人が大剣を一振りで魔物を薙ぎ倒していったとか、モナ姐さんのおかげで命拾いしたとか、そんな話もちらほらと聞こえてきている。俺も鼻が高いぜ。


「ちょ、ちょっとミトっ! 何だいあれは? あんな危険な物だなんて聞いてなかったよ! 投げる前に爆発でもしたら大事故になるところだったじゃないか!?」

「申し訳ありません、そんなに強力だとは私も思わず…」


 例のバクレツ草うんたらのやつか。もの凄い音だったもんな。


「ま、あれに助けられたっちゃ助けられたんだけど…」


 素直に謝罪するミトに、そこまで責め立てるつもりもなかったモナが動揺している。


「あら、でしたら問題なかったということでしょうか」

「あんたねぇ」

「ウフフ」


 顔を上げたミトの顔はケロッとしている。爆弾みたいなもんだったのかな。魔力いらずの攻撃方法か、俺もいくつか作っておいてもらおうかな。


「フッサ、お疲れ様」


 褒めてもらいたそうな顔をしていたフッサの腕にちょんと触れるとわかりやすく尻尾がゆっさゆさと左右に振れる。自宅ならわしゃわしゃと褒めちぎりたいけど人前なので自粛する。


 俺達が再会を喜んでいると、一部の冒険者達が急に静かになった。今回の戦いで犠牲になった人達が担架に乗せられて運ばれているようだ。皆が手を合わせ祈りながら一行を見送る。この後は聖神教の教会で弔われるのだろう。


 しばらくすると冒険者達も冒険者ギルドに向かって大移動を開始する。その頃には住民の避難指示も解けて、安堵の表情を浮かべる住民とすれ違うことも。間違いなく今回のヒーローは冒険者。住民たちからは感謝や労いの言葉がかけられる。


 戦いも終わり、住民からの声で気分の上がった冒険者達のやることといえば唯一つ。


 宴の始まりだ。


 シエイラで活動するほぼ全ての冒険者が参加する宴はギルドの酒場では到底賄いきれない。解体所を解放し、それでも入りきらない冒険者達は近隣の飲食店も巻き込んでの大宴会が始まる。


 いつもは地下遺跡の入り口付近で出店する屋台も急遽店を構えて、まるでお祭りのような光景が広がっている。


 いつもの料理や、今日という日を記念しての特製料理に舌鼓を打つ。特に美味しかった料理や珍しいものは協力してくれたタイスケへもデリバリー。彼の助けが無ければ上手いこと抜け出せなかったからね。


 明け方まで続いた宴会。お子様の俺は途中で抜け出そうと思ったんだけど、地下遺跡の異変を迷うことなく調べに向かった勇気ある冒険者ってことで、いろんな人に絡まれ、もとい話す機会があり、結局解放されたのは空が白み始めた頃だった。楽しかったからいいんだけど。


 そんな訳ですっかり寝坊してしまった俺が目覚めたのは昼もだいぶ過ぎた頃。階下から漂う美味しそうな匂いにつられて、腹の虫に起こされたかたちだ。


 なにやら楽し気な話し声が聞こえる一階に下りた俺。扉を開けると飾り付けされた室内とダイニングテーブルを埋め尽くす料理の数々。そのどれもが俺が大好きだと公言しているものだ。


「すごっ、どうしたの一体? 昨日の続き?」


 フッサとモナの二人は大活躍だったし、表沙汰にはできないけど俺もミトも昨日は頑張った。三人が浮かれる気持ちもわかるけどさ、いつまでの余韻に浸っていないで気持ちの切り替えってものをだねぇ…。


「何を仰っているのですか」

「そうだよ、まったく」

「うむ、主殿を祝うためであろう」


 Me?


「ほら、これ」


 呆れたミトが指さした壁の装飾。そこには「お誕生日おめでとう」の文字が。


 そっか、バタバタしていて忘れていたけど今日は俺の誕生日か。


「おめでとうございます!」

「子供は子供らしく祝われておきな」

「さっ、主殿。準備は既に終わっているぞ」


 思い返せばステータスを授かってからの一年はあっという間だったな。あの日の俺はこんな未来が待っているなんて思ってもいなかった。何せ家族にどうやって隠すかに必死だったしな。


 いい思い出も、大変だった思い出も一年で沢山できた。


「みんな、ありがとう。すごく嬉しいよ!」


 席に着いた俺の言葉に三人とも笑顔だ。このままこうして、この街で過ごすというのも一つの選択肢かもしれない。


 だけど十一歳になったということは、成人まで残り四年となったということでもある。十歳、いや十一歳として考えれば俺は世界最強かもしれないし、全体でみてもそれなりに強いとは思う。だけど、俺が目指している強さはもっと圧倒的なものだ。ヨツメ相手にもおチビリザードマン相手にも一歩間違えれば命を落とす危険はあった。そんなのを吹き飛ばすくらいの強さが欲しい。


 まだまだ伸びしろはあるはずだ。


「みんな聞いてほしい。これからのことなんだけど…」


 今後の活動方針について。


 それを聞いた三人は俺の提案を了承してくれた。ミトとフッサはともかく、モナも二つ返事で了承してくれたのは意外だったな。


 四人だけの静かな宴は遅くまで続いた。といっても俺も含め前日の疲れが抜けていないので日付が変わる前には皆が就寝することになった。


 深夜、ベッドで横になって明日からのことを考える。


「十一歳か。…そういえば結構な数の魔物を倒したし、ステータスも上がっているかな」


 ステータスと念じ表示された俺のステータスに目を通す。



---------------------

名前:レイブン・ユークァル

年齢:11


加護:

・死と再生の神による加護…成人するまで運に限定補正、闇系統、光系統の魔法適性に補正、前世の経験を持ち越し

・邪神の恨み…魔物に襲われやすくなる、闇系統の魔法適性に補正

▶ New ・反逆者の烙印…神域を侵す危険人物と神に見做された証。因果律を操作されない


(カッコ内の+がスキル補正で加算されている数値、表示はスキル補正が反映されたもの)

(上昇値はガルラ討伐前の時点からスキル補正を除いた値)

生命力:4,698/4,698(+360) →(3,333 up)

魔力:6,870/6,870(+1,110) →(3,333 up)

力:1,635(+480) →(526up)

精神:11,051(+1,230) →(204 up)

素早さ:2,035(+450) →(784 up)

器用さ:2,846(+960) →(645 up)

運:116(+∞、成人までの限定補正) →(8 up)


スキル:

剣術(Lv6)…剣を用いた攻撃に補正。力に+180。

体術(Lv5)…体捌きに補正。素早さに+150。

武術(Lv10 Max)…武芸全般の習得、実行に補正。生命力、力、素早さ、器用さに+300。

生活魔法(Lv5)…生活魔法が使用可能。

▶ Up植物魔法(Lv7)…植物魔法が使用可能。魔力、精神に+210。

闇魔法(Lv10 Max)…闇魔法が使用可能。魔力、精神に+300。

▶ Up邪道魔法(Lv3)…邪道魔法が使用可能。魔力、精神に+300。

光魔法(Lv10 Max)…光魔法が使用可能。魔力、精神に+300。

統治(Lv4)…自領を発展させる行動、部下の人心掌握に補正。精神、器用さに+120。

算術(Lv10 Max)…計算に補正。器用さに+300。

言語(Lv5)…言語習得に補正。器用さに+150。

ちーと(Lv1)…ちーと☆。

眷属化(Lv2)…レベルに応じた人数、自身の眷属にできる、生命力に+30。

▼眷属:ミト・ズゥレ・ソソララソ、フッサ・ンモゥカキ

解体(Lv3)…生物の解体作業に補正。器用さに+90。


ユニークスキル:

邪神の魔力…解放時に邪神の力を纏う。魔力を無限に使用可能。

---------------------



 なんか変な加護ついてるんですけどーーーーーーーーー!






 ◆◆◆



 以上で第三章終了となります。不定期で閑話を投稿しつつ、ある程度ストックが溜まり次第、次章を投稿させていただきます。ここまでお読みいただきありがとうございました!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る