特化型

 俺と対峙するリザードマン型のゴーレムが四体。そして、その様子を上空から見つめるおチビリザードマン。


 剣を振りかぶったゴーレムAが俺に斬りかかってくる。ゴーレムというと動きが遅いイメージだが、その動きは中々に速い。リザードマンナイトよりも素早いのは触媒として使われた魔物よりは能力が高いゴーレムということか。


 速いといってもリザードマンナイトに毛が生えた程度じゃ俺に当てることなんて無理なんだけどね。


 それを避けたところに剣を持ったゴーレムBが攻撃をしてくる。重心を移動させた直後、こちらが避けにくいタイミングでの攻撃。仕方なくジルバンド鉱の剣で受け止めると槍を持ったゴーレムCとゴーレムDが息を合わせた様にユニゾンした動きで突きを繰り出してくる。


 ゴーレムBの攻撃を払いのけて、ゴーレムCとゴーレムDの突きを寸前でギリギリ回避する。回避しながら【光弾】をゴーレム達の足元で爆発させて追撃を妨害。


 生意気に連携攻撃かよ、しかもその精度は異常に高い。


 【光弾】はどさくさ紛れでおチビリザードマンにも放つが瞬時に張られた【魔結界】で防がれてしまう。


 このゴーレム四体を先に倒したほうが良さそうだな。


「一気にいくぜ、魔技…ってアブねっ」


 魔技の為に魔力を集中させようとしたら上空から魔力弾が撃ち込まれた。俺の魔技に溜めが必要なのを理解しているのか? だとすれば【審判の光 神光】も邪魔されそうだな。


『ニンゲン、コロス』

『ニンゲン、コロス』

『ナカマ、フヤス』

『ニンゲン、コロス』

『シジ、ナケレバ、ニンゲンノマチ、オソウ』

『ニンゲン、コロス』


 同じ言葉を馬鹿の一つ覚えみたいに呟き続けるおチビリザードマン。呟くのはご自由にしてもらって構わないんだけど、頭に響かせるようにするのは止めてほしいな。


「オマエ、キモチワルイ」


 と、俺のお気持ちを表明したところで何も変わらないか。


 おっとゴーレムの攻撃が少しばかり激しくなったような気もするな。聞こえてはいるのかもな。しかし、いい連携だ。ゴーレムにこれほどの動きをインプットしているとも思えないし、あのおチビリザードマンが操っているんだろうな。上空から戦況を見下ろしているだけあるな。いい動きだ。


「危ねっ」


 避け損ねたゴーレムの槍は俺の黒鎧をガリっと削る。そんじょそこらの魔物相手には無敵の強度を誇る俺の黒鎧を削るとは攻撃力も高いってことか。クリーンヒットを頭に喰らったら即死もあり得るか。


 俺の加護【死と再生の神による加護】さんよ、信じているからな!


 ゴーレムの攻撃を防ぐだけではなく反撃もしているが、攻撃を受ける直前に黒曜石のような鱗を発動するゴーレム相手に決定的なダメージを与えられずにいる。魔技を妨害されてしまう以上、俺の通常攻撃は魔力込めただけの斬撃。それだけでもそれなりに高威力だと自負している俺の攻撃だが、ゴーレムの特殊な防御の前には決定力に欠けてしまう。今の俺は牙を抜かれたワンコのように非力。


 となれば、牙を抜かれたワンコが勝利できる土俵に相手を引きずり込むのがいいだろう。


「【絶望の衣】」


 結構集中力が必要だから、【絶望の衣】を展開中に魔技や大きな魔法を使うとなると他のこと、警戒や索敵なんかが疎かになってしまう。それもあって解いていた【絶望の衣】を再び展開させる。どっちみち使わせてもらえないんじゃ関係ないし。


 【絶望の衣】の効果で著しく動きが悪くなるゴーレム。操っている思念波的な何かを妨害でもしているのかな。思ったより効果が出ている。そして先程以上に俺と距離をとるおチビリザードマン。


 なるほどね、【絶望の衣】は嫌と見える。嫌だ嫌だと言われたら、試してみたくなるのは人の性というものだ。とりあえず効果範囲に入ってもらおうかな。


「【大樹の怒り】」


 お馴染み、植物魔法スキルの【大樹の怒り】。大地から巨大な木の根が生えてくる。これも結構な集中力が必要なんだけど、操りにくい地下遺跡で散々使ったからか片手間でも結構操れるようになったんだよな。


 動きが目に見えて悪くなったゴーレムを【大樹の怒り】で雁字搦めにする。全身から黒い棘を生やして抵抗しているけど、動きが冴えないからか踠だけのゴーレム。


 チャーンス!


 勢いよく天に向かって伸びる木の根。水色の球にしがみつくように浮かんでいるおチビリザードマンの動きを…、動きを拘束…、動きを…。


 ってちょこまかと上手いこと躱しやがる。小さい上に思ったよりも素早くて捕まえにくい。ああ、今もあと一歩のところだったのに魔力弾で弾かれてしまった。


 どうにか隙を作らなくちゃいけないな。【大樹の怒り】を維持しながら【光弾】を何発か放つ。ヒョイヒョイと躱しながら、当たりそうな【光弾】を【魔結界】で防ぐおチビリザードマン。俺が放った【光弾】の最後の一発も正面に張られた【魔結界】で防がれてしまう。


 その瞬間に辺り一面を眩い光が包み込む。実は最後の一発は【光弾】に見せかけた光魔法の【閃光】だ。無論こうなると知っていた俺は目をガードしていたが目の前で浴びた本人は苦しそうに悶えている。


「ほいっと」


 動きに精彩を欠いた相手を捕まえることなんて造作もない。【大樹の怒り】で身動きを封じ、止めを刺すべく新たに生み出した木の根に乗り、おチビリザードマンの元へ。【絶望の衣】の効果は目に見える形では現れない。そりゃ身動きを封じているんだからそうだよな。


 水色の球が光り、魔力弾を打ち出してくるが【閃光】の影響でその狙いは悉く外れている。生み出したゴーレムや俺に影響を与える程強力な精神攻撃には驚かされたけど、思ったよりあっけなかったな。魔力は強い割に、こいつ自体の戦闘能力は高くないってことか?


 ま、並みの冒険者じゃ最初の精神攻撃で手も足も出ないって考えれば厄介な相手だったのかもな。特殊能力に特化ってのはハマった時は強いけど得手不得手がはっきり分かれすぎるからなぁ。


「相性が悪かったね」


 一思いにその眉間へ剣を突き立てる。想像以上に軽く、抵抗は無い。しがみつく力を失ったおチビリザードマンの手足は水色の球からズルリと落ちて垂れ下がる。


 こいつが口にしていた言動。『シジ、ナケレバ、ニンゲンノマチ、オソウ』


 何者かに操られていたのだと思うと、ちょっとだけ可哀そうでもあるかな。水色の球は光を失い灰色になってしまった。こいつの素材に価値があるかはわからないけど、とりあえず死体は【裏倉庫】に格納する。しばらく日の目は見ないだろうけど。もちろん灰色に変化した球も一緒だ。


 地上から五メートル程の高さにいる俺。この位置から辺りを見渡すと俺の周りの魔物以外は散り散りに動いているので、どうやら統率は解かれたみたいだ。こいつが元凶とみて間違いないだろう。


 地上に降りた俺は【邪神の恨み】で集まってくる魔物を適当に【絶望の衣】で間引くが、こちらに向かってくる冒険者を感知したので直ちに【影移動】で自宅へ帰還。巻き込んでしまったら一大事だ。


 その後は大急ぎで西門に移動し、何故か白いパラソルの元、兵士達から接待をされているミトを回収。


 再び【影移動】でタイスケの元へ転移して、軽く雑談タイムだ。街の外の様子をタイスケは知ることが出来ないので事態が収束に向かったことを教えてあげる。


「そうなんだ! よかったぁ。二人とも疲れたでしょ。はいこれ、どうぞ」


 俺とミトが地下遺跡にアリバイ作りで入ったことを考えると、戻る時間はもう少し経ってからの方がいいだろう。ということで出されたお菓子をつまみながら、めちゃめちゃ気になっていたことを確認しよう。


「ミト、なんで接待されてたの?」

「ああ、あれですか。主様のご命令通りに兵士の皆さんをサポートして、危なそうな戦いでは私も戦いに加わったりしていたのですが…。領主様の元へ戻りましたらいつの間にかあれが用意してあって」

「へぇ」

「魔物も落ち着いてきたのでお言葉に甘えてお飲み物を頂いておりました。偶には他の方が淹れたお茶をいただくのもいいものですね」


 手配書が出回っている俺と違い、好感度爆上がりのようでなによりです。領主や兵士達からすれば救世主だもんな。手配書の件は仮面を被ったミト経由で取り消しをお願いしてもらおうかな。


 その後も三人で雑談をし、頃合いを見計らって魔道具の力で地下一階まで移動。冒険者バージョンのレイブンとミトラに戻った俺達は何食わぬ顔で地下遺跡から出ればアリバイ工作は完璧だ。


 「魔物? 入ってすぐには沢山いましたけど地下二階以降はむしろ少ないくらいでしたよ。偶々集まっていただけなんじゃないですかね」っつってね。

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