六畳一間
なるほどそうきたか。それが俺の最初に抱いた感想だ。
貰えるものは貰っていくスタイルの俺。とりあえず目の前の金銀財宝は【裏倉庫】の中に収納していく。大部分は金貨なのはありがたい。贈り物は現金が一番うれしいというのは古今東西同じだろう。
そして次に多いのが宝石や魔石の類。未加工の物や指輪やネックレス、ティアラといった装飾品に加工されているものある。そして武器や鎧、ローブやドレスといったものがちらほらと。どんな効果があるかわからないし、しばらくは【裏倉庫】の肥しになりそうだな。
財宝に埋もれていてわからなかったが古ぼけた本も何冊かあった。微量な魔力を感じるので魔本の類だ。変な呪いがかかっているとか、魔物が封じてある可能性もあるのでこれもしばらくは【裏倉庫】に入ったままになりそうだ。いずれ、問題がないことがわかればモナへプレゼントするのもありかな。
「さてと」
問題はこの魔法陣である。罠かもしれないし、本当に転移魔法陣かもしれない。俺の予想では後者だ。きっとこの魔法陣を出現させた張本人は俺達にはさぞ、早く帰ってほしいに違いない。
「…戻りますか?」
まぁ、仮にこれが転移の魔法陣だろうと、なんだろうと利用するつもりはない。だって戻るなら自分の【影移動】で帰った方が自宅に直行で楽だからね。
ミトの問いへは首を横に振る。
俺が普通の冒険者なら強力なボスも倒して金銀財宝を手に入れた、やったぜ、と能天気にここから去るのかもしれない。
だが体は子供、頭脳は大人、素材は邪神の俺。そう単純には行動しない。
あの財宝を見て先ず頭に浮かんだのは、さっきの四ツ目は地下遺跡の『意思』ではないのでは、という疑念だ。
あれが『意思』としてこの地下遺跡を思いのままに操っていたのであれば、自分を倒した相手への財宝と、ご丁寧に帰りの転移魔法陣まで事前に用意していたことになる。戦闘中にも関わらず俺のことを見下すような態度を取ったり、僅かな傷に激昂したりするような幼稚なヤツがそんなことをするはずがない。
そして疑念を持った俺は魔力感知でこの階層を探った。
空間としては目に見えている二百メートル四方ほどの空間。それと上の階に繋がっているであろう階段もある。俺達は使わなかったけど。
そして発見したんだ、僅かな魔力の流れ。あまりに微量で注意深く探らないと見落としてしまいそうな綻びがこの空間に存在した。
四ツ目の魔物が最初にいた壁、その先へと続く通路が。
未だ壁には白いドロドロしたものが付着しているので手では触れたくない。そう感じた俺は片足を大きく上げ、膝を曲げたまま壁を押す。
メキメキと音を立て一枚板が倒れるように綺麗に長方形の穴が開いた。壁が倒れたというのに埃は立たない。つまり何者かの手が入っているということだ。
「隠し通路でしょうか、よくお分かりになりましたね。…この先は行き止まりのようですが」
そりゃあ、俺の中の名探偵が「あれれぇ、おかしいぞぉ」と声を上げていたからね。真実はいつだって一つなんだよ。
すかさず風魔法でこの先を調べたのかミトはそう言うが、風の動きだけだとそのように錯覚してしまうのだろう。
この先は石造りの、ゆったりとした下り坂が続いている。通路へ入り進む俺とミト、二人分の足音が狭い通路に響いている。
行き止まりまでは百メートル程といったところか。目の前は壁ではなく頑丈そうな鉄の扉が。途中でミトもこの行き止まりにある奇妙な魔力に気が付いたのか、扉自体には然程驚いてはいない。
ノブをガチャガチャと回すも、鍵が掛かっているのか開きそうにない。
コンコンとノックをしてみても反応はない。
そりゃあそうか。仮に中に誰かいるにしても、俺達を何とか追い返そうとしていたんだから素直に出てくるはずもない。
「どうしましょう、破壊しますか?」
しれっと暴力的なことを言いだすミト。いつからそんな粗野な女性になってしまったんだ…。と思ったけど、よく考えてみれば初めて会話した時から血まみれで、結構バイオレンスエルフだったわ。
「そうだね」
開かぬなら 壊してしまおう 鉄扉
ということで、魔力を込めた拳でノブを破壊。それで鍵も壊れたのか扉はゆっくりと開く。
扉の先には小さなキッチンのある、六畳一間のアパートの一室のような部屋。半畳ほどの小さな玄関があり、この世界で一般的に履かれている革靴と、前世で一世を風靡した成形タイプの丸みを帯びたサンダルが脱ぎ捨てられている。
入って右手には小さなキッチンがあり、部屋の天井にはシーリングライト。土足で上がるのを躊躇してしまったのは、俺の中にある日本人の部分がそうさせたのかもしれない。まぁ、土足で入るけどさ。
キッチンの先には木製の棚、部屋の中央にはディスプレイが三台とキーボードとマウスが置かれたコタツ。マグカップに入った飲みかけのお茶や、串焼きを食べたあとだろうか串が何本かそのまま置かれている。
ディスプレイはそれぞれ違う画面で、右のディスプレイには黒い背景に緑色の文字が映し出されている。何かのプログラムのようだが俺にはさっぱりわからない。
中央のディスプレイには全画面で先ほどまで俺達がいた地下遺跡五十九階が映り、左のディスプレイはいくつものウィンドウが開いていて、シエイラの街のあちらこちらが映し出されていた
部屋の左手にはシングルベッドがあり、ベッドの脇には女の子の萌えキャラがプリントされた抱き枕が落ちている。
違和感があるとすれば、窓が無いことか。地下だから当然と言えば当然かな。
この世界ではあり得ない光景に俺は言葉を失ってしまう。まるで前世で一人暮らしを始めた友人の家に来たような感覚だ。
コタツの周りには脱ぎ散らかされた衣類や読みかけの本、デフォルメされた女の子のぬいぐるみなどが所狭しと散乱している。
そして、この部屋の主はあれだろう。ベッドの上に布団を被りぶるぶると震える大きなケツ。「頭隠して尻隠さず」を地で行くグレーのスウェットパンツを履いた人がそこにいた。
体をかがめているせいでスウェットパンツは大きくずり下がり、前世で有名だった下着メーカーのロゴがプリントされたパンツのゴム、そしてお尻の割れ目も見えている。ミトよ、そのゴミを見るような目は止めなさい。
布団を剥ぐと、そこにはボサボサの黒髪で、モッチリとした白い肌のぽっちゃり体形の男性がいた。上半身は下半身と同じグレーのスウェットを着た、どこからどう見ても日本人。
「ヒ、ヒィ、こ、殺さないでっ!」
俺達を見て情けない声を上げる男性。失礼だな、人のことを強盗みたいに…。
いや、この人が遺跡を操作していたのだとしたら、どっからどうみても俺達は強盗だな。
とりあえず、有り金全部出させるか。
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