素材入手クエスト
「この剣を溶かして再利用できないの?」
なんだか愛おしそうに大剣を抱えるフッサに意地悪がしたくてそんな質問を投げかけてみた。
「ちょっと、あんた正気かい?」
その発言に非難するような目で俺を見るモナ。いや、冗談で言ってみただけだよ。
「一度仕上げた合金の再利用は強度が下がるから止めたほうがいいだろう」
俺のおふざけとは思わなかったのか、少し考えてから真面目に返答してくれたエインスさんだった。その後は二人とも店があるからとすぐに帰ってしまったので、アーメリア鉱について調べようと俺達四人で冒険者ギルドまで向かうことになった。
ギルドへカチコミじゃあ!
「アーメリア鉱ですかー。そうですねー、鉱山が閉鎖されて半年程でしょうかー、ギルドとしても困っているんですよねー」
おうおう、限られた資源を買い占めとはやることが卑怯なんじゃないのか、とばかりに意気揚々と受付に乗り込んだ俺達。だが待っていたのは予想外の返答だった。
「市場に出回っていたものは全て国や冒険者ギルドか回収したって聞いたんですけど、融通してもらうことってできません?」
「買い占め、ですかー? 確かに一時期そんな噂が流れましたねー。ですけど少なくともこのシエイラ支部にはアーメリア鉱はありませんよー。もしかしたら冒険者ギルドの総本部に在庫はあるかもしれませんがー」
まじですか?
「シエイラ地下遺跡は冒険者ギルドという組織の中でもそれなりに重要視されていますからねー、資材関連は比較的優先的に回されているのですよー。あ、そうそう、モナさんとフッサさん、お二人とも開拓依頼が受注可能になっていますので予定決めておいてくださいねー」
「あちゃー、もうそんな時期かい」
「うむ、わかった」
そうか、二人はCランク冒険者。この大陸独自の開拓依頼を受ける必要があるのか。しかしまさか冒険者ギルドが買い占めたという話がデマだったとはな。
「どうですー、パーティを組んでいる方達は皆さんご一緒に受けられることがほとんどですよー。この際レイブンさんとミトラさんも昇級して、ご一緒に行かれたらどうでしょうかー?」
むっ、これにかこつけて俺とミトをCランクへ昇級させようとするお誘いが来たな。
だが断る!
Cランクなんて指名依頼や開拓依頼なんかの面倒なしがらみが増えるだけで、メリットとしては受注可能な依頼ランクが上がることと、ギルドで便宜が図られるってことくらいだ。地下遺跡の探索に冒険者ランクは関係ない、つまり地下遺跡探索をメインに活動している俺達にとって前者のメリットは無いに等しい。そして後者だが、パーティに二人Cランク冒険者がいるので俺とミトはそのおこぼれに与ることで恩恵を得ている。
つまり俺が昇級するのはデメリットしか発生しないんだよ!
「アハハ、考えておきます」
暗にそのつもりはないという返答だ。この数か月で何度も同じようなやり取りはあった。
「むー、駄目でしたかー」
ぷくーっと頬を膨らます職員さん。かわいい。
「話を戻しますけど、ギルドを通してアーメリア鉱を手に入れるというのは無理ってことですね?」
「納品依頼ということで依頼を出すことは出来ますけど、難しいでしょうねー」
参ったな、魔技を練習するにも剣はあった方がいいし、なにより魔技が個人での地下遺跡探索で苦戦している魔物への対抗策になると思ったんだよな。戦闘の度に剣を使い捨てるわけにはいかないからなぁ。
「なんだ、お前ら。雁首揃えて。ギルドにクレームかぁ?」
さて、どうしたものかと悩んでいるとギルド長がやって来た。カウンターの奥からではなく、俺たちの背後、つまりギルドの正面入り口からだ。重役出勤ってやつか。
「なんだ、その顔は。言っておくがギルドは一日中開いているんだ、人によって出勤時間は違うんだよ」
「ギルド長ー、そんなこといって今朝のミーティングはギルド長も出席の予定でしたよねー」
「お前、今ここでそれを言うか?」
なんだ、ただの遅刻かよ。
「レイブンさん達、アーメリア鉱が必要だそうで、ギルドに在庫が無いかとお問い合わせをいただいていたところなんですよー」
「あぁ、アーメリア鉱か。…おい、ちょっと来い」
職員さんから俺達がアーメリア鉱を探していることを聞いたギルド長は何か考えた後、俺達に別室に来るようにと言ってきた。
別室に移動した俺達、対面するギルド長は先ほどまでの職員さんとおちゃらけた顔ではない。
「お前達がアーメリア鉱を求めるのはなんとなく想像がつく」
ちらりとフッサをみたギルド長。彼ならフッサの持つ大剣がミスリルとアーメリア鉱の合金で作られているのも知っているはずだ。フッサの大剣がその素材で作られているのは、俺がアーメリア鉱を探している直接の理由ではないのだけど何か勘違いをしているのか。ま、訂正はしないけどね。
「だが、アーメリア鉱についての協力は出来ない」
なんだ? 随分と切り捨てたような言い方だな。今まではなんだかんだと俺には親切な印象だったギルド長。だがこの件についてはあまり関わり合いになりたくないような雰囲気を感じる。
「俺から言えるのは、どうしても欲しいなら現地に行ってみろ、ということだけだ。ああ、もし本当に行くのならモナとフッサ、二人は同行したほうがいいだろう」
それがどういう意図なのかを質問する間も与えず、ギルド長は部屋から出て行ってしまった。
わざわざ別室に移動する必要があったのかどうかすら疑問に思えるほど短い時間だった。
うーん、やっぱり何かきな臭いな。
アインスさん、エインスさん兄弟の話から一連の流れに何か意図的なものを感じる。これはもう少し多面的な情報を得たほうがいいかもしれないな。
これ以上冒険者ギルドではアーメリア鉱についての有用な情報を得ることは出来ないと思った俺は皆と別れてある場所へ向かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます