オーダーメイドソード

 モナの本好きの理由が少しわかった翌日。明日からは再び地下遺跡探索に向かうということでのんびりと過ごしていた俺達四人。


 明日からの探索は前回と同様に地下三十五階への到達、ヒールボアの狩猟が目的だけどあまり長期間の予定ではない。往路に三日、狩りに一日、復路に三日と短めの日程だ。


「おーい! 誰かいるかぁ?」


 ソファに寝転びモナから借りた本を読んでいると玄関先から呼びかける声。低めで粗目の太い声。どこかで聞いた声だな。


「あたしが出るよ」


 この家に来客とは珍しい。


「はーい、ってなんだ。武器屋の旦那かい」

「おう、ボウズはいるか?」


 どうやら先日剣を購入した武器屋の店主のようだ。七本購入した剣は既に四本が駄目になってしまった。ポンポン壊すんじゃねぇと言われていたので少し気まずいなぁ。


 俺に用事があるそうなので玄関へ移動し、「どうも」と会釈する。


「おう、朝から悪ぃな」


 まだ朝の九時過ぎ。確かに先ぶれもなく来訪するには早い時間だ。


「店ぇ始まる前に済ませたかったからよ。兄貴、例のボウズだ」


 振り返った武器屋の店主、俺もそれに合わせて視線を動かすと全く同じ顔がもう一人。


 うおっ!


 そこに人がいるのは気配からわかってはいたし、武器屋の店主が双子とは知っていたけど、まさかここまで同じ顔とは思わなかったから驚いてしまった。


「俺の兄貴だ、鍛冶職人でうちの店のものは兄貴が打ったもんだ」

「おや、エインスじゃないか。あんたが出歩くなんて珍しいね」


 驚く俺をよそにお兄さんとも顔見知りだったモナが挨拶を交わしている。お兄さんはエインスさんというらしい。そういえば弟さんの方は名前知らないな。


「どうも、レイブンです」

「おう、お前の話はアインスから聞いてるぜ。ホントにまだガキだったとはな」


 弟さんの方はアインスさんというのか。二人ともスキンヘッドに太い眉、ずんぐりむっくりとした体形はまるで達磨のようでアインス、エインスという響きとは程遠いなんて口が裂けても言えないけど。


「おい、変なことを考えなかったか?」


 何も言っていないのに少し目つきが鋭くなるアインスさん。おかしいな、口には出していなかったはずなのに。


「ま、まぁ、このまま玄関というのもあれなんで上がってください」

「「おう、邪魔するぜ」」


 二人をリビングに通すとそこには既に人数分のお茶が用意してあった。ミトさん、流石です。


「単刀直入に言おう、コイツのことなんだが」


 席に着くなりエインスさんがテーブルに置いたのは、先日俺が試し切りをする前に壊してしまった剣の残骸だ。


「自分で言うのもなんだがこいつは量産品としては、このシエイラで販売されている件の中では最上級だろう。柄部分には弟が仕込みをしているが、刃にもちょっとした工夫がしてあるんだ。詳しくは言えねぇが普通の鋼に比べて魔力と馴染みやすくなっている。魔力を通した時の切れ味だけじゃねぇ、耐久性もBランク冒険者にも協力してもらってあるって代物だ」


 なるほど、冒険者ギルドの副ギルド長ご推薦に恥じない逸品だ、と。


「それだけの手間をかけているから一般的な鋼の剣に比べて製造には時間がかかる。ま、その分料金も貰っているんだがな」


 エインスさんの説明の後にそう補足したアインスさんは右手の親指と人差し指をくっつけ丸い円、つまり硬貨を模したジェスチャーをしてニカっと笑う。


 笑顔のアインスさんへ隣にいるエインスさんが肘鉄砲を食らわせた。


「うちも商売だ。金さえもらえれば品物は用意するが、こいつが言ったように製造に時間がかかるから大量生産はできない。それなのにどっかの馬鹿が在庫品も全部売っちまいやがってよ」


 なんだ、なんだ? 返却ならしないぞ、というかほとんど壊したから返却するものもない。


「おっと、別に売ったもんを返せ、なんてことを言いに来たわけじゃねぇんだ。そう構えるなよ。だがな、他にもこの剣を必要としている冒険者がいる以上、お前さんへの販売はしばらくは出来そうにねぇ。使い捨てされるような戦い方をされたんじゃ供給が間に合わねぇ」


 む、販売拒否ということか? 原因は俺にあるけどなんだか釈然としないな。


「おっと、そんな顔すんな。お前の使い方に文句を言いに来たんでもねぇんだ。それに耐えられない武器しか用意出来ねぇこっちにも非がある」


 そこでだ、と話を一旦区切ったエインスさん。これまでの話は前置きだったってことか?


「おまえ専用の剣を作ってみねぇか?」


 な・ん・で・す・と! 専用の武器とかテンション爆上げなんですけど!!


「お願いします! 」


 嬉しさのあまり、思わずエインスさんの手を取ってしまった。


「お、おう。出来合いのものに比べたら値は張るが、おまえの魔力に耐えうるもんをつくってやる」


 金? 金ならある! もちろんこれに関しては自腹で払おう。なに、足りないようなら【裏倉庫】に眠っているものをいくつか換金すればいいだろう。流石に冒険者ギルドを通すのは難しいだろうけど、怪しげな魔道具店のウェディーズさんを頼ればなんとかしてくれるはずだ。


「でだ、ここで相談なんだが、素材が無ぇ」


 素材?


「そうだ、お前が魔力を込めたこいつを調べて確信したが、普通の材料じゃお前の魔力に耐えることは不可能だろう」


 確かに、俺のスペシャルでデンジャラスな魔力に耐えるほどの素材となると、そんじょそこらの金属じゃ無理だろう。


 因みに、以前黒騎士モードで使っていた大剣。俺の邪気の影響で変質してしまい、その強度はかなりのものとなっていた。アルブムとの戦いで爆散させてしまったが、あれと同じように邪気で普通の剣を変質させれば魔技にも耐えられるかと試してみたが駄目だった。普通の剣と同様に粉々になってしまったのだ。


「でだ、ミスリル合金なら十分な強度を確保できるはずだ」


 ほうほう、ではミスリルを調達してくればいいんですね。


「いや、ミスリルは値が張るがある程度安定して市場に供給されている。問題はミスリルと合わせる金属のほうだ。鋼じゃ強度が足りねぇ。アーメリア鉱っつーのがあるんだが知ってるか?」


 知りませんので詳細プリーズ。


「この大陸の名を冠していることからわかるように、このアーメリア大陸でしか産出がされない金属だ。魔力を流すと強度が高まる性質がある。こいつ単体だと武器としてはいまひとつなんだが、ミスリルとアーメリア鉱の合金は剣の素材としては最上級のものになる」


 つまり、それを持ってこいと。でもこの大陸の名前がついている鉱石ならカンタンに手に入るんじゃないか?


「本来、ミスリルと同様に値は張るが手に入れられないようなもんじゃなかったんだ。ところがこの鉱石が採掘される唯一の鉱山が数か月前に閉鎖されちまった。市場に出回っていた分も国や冒険者ギルドが独占しちまって今は手に入らない」


 なんだか話がきな臭いな。


「いくらギルドと懇意にしていても所詮俺たちは部外者だ。だが、冒険者ギルドに所属し、尚且つ開拓所を護った英雄のお前たちなら手に入れられるんじゃないか?」


 英雄ね、フフン、悪い気はしないかな。


「わかりました、ギルドで聞いてみます。でも本当にその合金で本当に耐えられるんですか?」

「ああ、理論上は問題ないはずだ。なんなら試してみるか?」

「現物あるんですか?」


 とても武器を持っているようには見えないけど?


「そこの獣人の兄ちゃんが使っている大剣があるだろ、ゴブリンキングが使っていたってのが。あれの素材もミスリルとアーメリア鉱の合金だ」


 そうだったの?


「なんでフッサの大剣の材質なんて知っているんです?」

「そりゃあ俺も鑑定に加わったからな」


 ああ、なるほど。そういえば売却した剣と盾の査定の時に大剣も変な呪いがかかっていないか確認してもらったんだったな。その時の鑑定チームのメンバーだったのか。


「では持ってこよう」


 話を聞いていたフッサが大剣を取りに向かうため立ち上がる。


「えっ? いいの? もしかしたら壊れるかもしれないよ?」


 俺なら渋るけどな。


「うむ、主殿のためなら例え砕けたとして、剣も本望だろう」


 俺なら渋るとか考えていた自分が恥ずかしくなるくらいにあっさりと大剣を貸してくれたフッサ。中庭に出て試すと、なるほど、今まで魔技の練習で使っていた剣とは大違いだ。魔力の流れ方、維持、変化、その全てがまるで違う。魔技を解いた後でも大剣に変化はない。


 どうやら本当にミスリルとアーメリア鉱の合金なら魔技に耐えられそうだ。


 俺から返却された大剣の隅々までチェックしているフッサには触れないでおこう。やっぱり気が気じゃなかったのかよ!

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