明かされた秘密

 リクトエルさんに頼まれた届け物。その配達先はなんと邪神を崇める組織の関係者宅だった。様子見ということで周辺を探索した後は少し離れた食堂で昼食がてらミトと作戦会議だ。


 もぐもぐ。


 適当に入った食堂だったが肉野菜炒めがドンとのった皿にパンが添えられたランチプレート。シャキシャキの野菜に脂身多めの薄切り肉がたっぷり。ちょっと濃い目の味付けだけどこれがまたパンに合う。うん、中々に美味い。


 お腹が満たされたところで本題に入ろうか。


「なんで組織に関係しているってわかったの?」


 俺がドアをノックしてセレラさんがドアを開けるまでの間にミトは物陰に隠れた。つまり家の外にその目印があったってことだ。


「組織の関係者であることを示す目印はいくつかあるのですが、あのお宅のドアノッカーとドアの四隅の装飾、それがそのうちの一つと合致していました」


 ドアノッカーとドアの装飾か、どちらも印象に残るような特別なものではなかった気がするけどな。ドアノッカーは鳥の頭が丸い輪っかを加えた金属製のもので、装飾も木製のドアに打ち付けられた何の変哲もない、ドアノッカーと同じような金属板だったはずだ。どちらもよくある形だと思うけど。


「あの鳥は鴉を模したものです。鴉は死肉を喰らう姿から争いを生むズワゥラス様の象徴とされております。そしてドアの装飾にあったのは古代語で聖神教の神を記したものです。これだけでは一見聖神教徒のように思われますが、扉に鴉を配置することで聖神教の神々を束ねる、つまり聖神教の神々よりも上位の存在としてズワゥラス様を称える意味になるのです。もちろん組織の者にしか通じませんが」


 なるほどね、あのドアにそんな意味があったなんてな。


「あのお宅の他に組織の関係者とわかるような目印は周辺の住宅にはありませんでした。ですが…」


 だからといって他に関係者がいないと思うのは早計だろう。ミトが知らない目印があるかもしれないし、俺たちが見逃した目印があるかもしれない。関係者であってもそれを伏せている可能性だってある。


「というかなんでわざわざ組織の関係者だなんてのをわかるようにしているんだ?」

「そうですね…、単に自分の信じている神を示しているだけの場合もありますがそのほとんどは組織の者が協力を求めるときにわかりやすいようにするためでしょうか。すみません、私もあまり活動については…」


 それもそうか、ミトはそのスキルで巫女という特別な立場にあったからか内部事情については結構詳しいけど、細かい活動については知らないことも多い。


 邪神を崇める組織は壊滅させたいが今のところ彼等の実態に迫るような情報はない。これを機に何か拠点なりなんなりの情報が得られればいいんだけどな。


 セレラさん宅を監視すればいつかは関係者が誰か、そして邪神を崇める組織への手がかりも掴めるかもしれないけど四六時中あの家を監視するなんてことは無理だしなぁ。


「とりあえず帰ろうか」


 これ以上この場にいてもしょうがないし、何より食事も終わったのでこのまま席を占領するのも店に悪いしね。


 店を後にした俺達は、市場に寄って夕飯の食材を買い揃えて帰宅をした。そして夕食後、ダイニングテーブルを囲み食後のお茶でくつろいでいる時。


「フッサ、モナ、お二人に聞いてほしいことがあります」


 改まった態度でミトが話す。内容を知っている俺はともかく、二人は急なことに戸惑っている様子だ。ズズっ。お茶が美味しいなぁ


「どうしたんだい、急に?」

「む」


 ミトが黒い長髪を耳にかける。露わになったのは彼女の耳だ。魔道具の効果でその形は人族のものに偽装している状態。


 しかし彼女が装着したイヤーカフを外すと、本来の耳の形へと変わった。エルフであることを証明する耳の先が尖った形へと。


「御覧の通り、私はエルフです。この大陸に主様と転移した時に無用なトラブルを避けようと種族を偽ることにしたまま、今日まで過ごしていました。お二人にはずっと嘘をついてきてしまい申し訳ありません」


 頭を下げたミトを見て、慌ててモナがそれを止めさせた。


「ちょ、ちょっと! 確かに驚いたけど、あんた達の事情は分かってるつもりだよ。…それに」


 それに?


「…いや、なんでもないよ。と、とにかく頭上げておくれよ」


 今、何か言いかけたよな? モナも何か秘密にしていることがあるのかな? まぁ、俺の秘密に比べれば可愛いものだろうし、今の感じだといつかは打ち明けてくれそうだ。追及は止めておこう。


「しかし、凄いもんだね! 随分一緒にいるのに全く気が付かなかったよ。魔道具の性能かねぇ、特注品かい?」


 どこか話を逸らすように、魔道具に食いついてきたモナだが、残念ながら魔道具の出所については教えるわけにはいかない。ミトが邪神を崇める組織の巫女という立場だったことまでは流石に明かせないからね。


「ええ、特注品、なのでしょうか。随分昔にある方からいただいたものなので、私もこの魔道具については詳しくは存じ上げないんです」

「そうなのかい。発動しているかどうかも感じさせないなんて、随分と腕のいい職人だろう。もしそんな魔道具職人と知り合いってなら紹介してもらおうと思ったんだけどね。…エルフか、そうか。でもなんだか納得したよ。あんた若い割には妙に物知りだし。ほら、地下遺跡で邪神について話したことがあったろう。あの時も聖神教が隠しているはずのことも知っていたし…。エルフは精霊信仰だから聖神教の広めている教えを鵜呑みにしなかたってことか」


 どうやら魔道具については上手く躱せたみたいだ。それにミトが邪神について詳しかったのもなんだか勝手に勘違いしてくれたみたいだし。邪神について詳しいのは全く別の理由なんだけどね。


 それにミトは俺と同じくジルバンド大陸出身だ。仮にその職人と知り合いだったとしても流石に紹介は出来ないだろう。


「む、しかしエルフということは見た目通りの年齢ではないのか?」


 しばらく黙って話を聞いていたフッサだったがとんでもないことを言いだした。


 フッサいけない!


 女性に年齢のことを聞くなんて。あっ、ほらミトとモナの視線が冷たくなった。まるで氷魔法でも所持しているかのような視線。凍てつく波動を浴びてしまっては全てのバフが消し飛んでしまうぞ!


「うっ、いや、すまない。なんでもない」


 迂闊な発言によりフッサへのお小言が始まってしまった。そのお陰と言うべきか、ミトがエルフであるということについてはこれ以上話が続くこともなく、無事に公表することができた。


 みんなどこかスッキリとした表情だ。仲間内で秘密なんてない方がいいよね!

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