武器屋にて その2
ぶつくさ言いながらも前回と同じタイプの剣を二本持ってきてくれた店主。二本じゃ足りないんだよなぁ…。
「地下遺跡の魔物と戦って壊したって言ってたな。ボウズがそこそこ深く潜ってるってのは聞いてるが、そんな固い魔物いたか? まさかビートルマンの甲殻に魔力強化もなしで斬りかかってるってわけでもねぇだろ」
「いやぁ、あはは…」
ここは笑って誤魔化すか。流石にAランクの魔物と戦ったなんて言っても信じてらえないだろうし。
「おい、笑って誤魔化せると思うなよ」
ギロリと俺を睨みつける店主。残念ながら有耶無耶にして話を流すことは失敗してしまった。
「ちょっと魔力を込めすぎちゃいまして」
「魔力をだぁ? 嘘つくんじゃねぇよ! 売る時にも行ったがこいつの柄には魔石を加工した触媒を使ってある。その効果は魔力を武器に流し込みやすいようにしてるだけじゃねぇ。武器に負担が掛からないよう、流される魔力が一定量を超えた場合はストッパーの役目もしてるんだ。おい、本当のことを言えよ!」
この剣、そんな効果があったのか。確かに他の剣よりもお高めだとは思っていたけど、それは剣自体の質がいいからだと思っていたが、それだけではなかったようだ。流石副ギルド長お薦めの店だな。
とはいえ、嘘つき呼ばわりされるのは俺も不本意だ。
「嘘じゃありませんよ、なんなら実演しましょうか?」
「おう、やってみろやっ!」
壊れても弁償しないからな!
店主が持って来た剣を鞘から抜く。うん、やっぱりいい剣だな。
正眼に構えて剣に魔力を通す。確かに言われてみれば他よりも魔力の流れがいいような、そんな気がしないでもない。…ような気がする。
その触媒とやらの効果は置いておいて、剣に留めている魔力の性質を変化させる。魔力に触れたものを斬る、そんなイメージで。
十秒ほどあれやこれや魔力に干渉した結果、消費する魔力が一気に増えた。よし、成功だな。あとはこれでAランクの魔物でも一刀両断すれば粉々に砕けると思うんだけど。
「何か試し切りできるようなものありますか?」
驚いた顔をしている店主に尋ねる。嘘じゃないって証明して差し上げましょう。
「ちょ、ちょっと待て。おま、ボウズ、お前そりゃなんだよ。いや、も、もういい、わかったからそのおっかないのは止めてくれ!」
なんだよ、やってみろって言ったのはそっちじゃないか。
「お、おい! そんな物騒なもんを俺に向けるな!」
なんだよ、これじゃあ魔力強化で武器が壊れたってことが証明できないじゃないかよ。とはいえ店主に止めろと言われれば止めるしかない。魔力を流すのを止めて正眼の構えを解く。
パキパキ。
あれ? 何も斬ってはいないのに刀身にヒビが入ってしまった。斬性を持たせた魔力を流したのは数十秒。衝撃を与えずとも武器に与えたダメージは相当だったようで刀身に入った亀裂は一気に広がり砕けてしまった。
「まぁ、こんな感じです」
言ったよね、俺は弁償しないって言ったからね!
「ちょ、ちょっとよく見せてみろ!」
鍔と柄だけとなった剣を俺から奪い取るように取り返しカウンターに置くと、エプロンのポケットから繰り出しルーペを取り出して何やら一心に見つめている。わずかに魔力を感じるので何かの魔道具かな?
「…魔力供給を抑える部分が焼き切れてやがる」
その後もなにかブツブツと呟いてはメモ帳になにか書き記している。ちらっと内容を盗み見てみたものの、何かの回路図のようなものに聞いたことのない用語が書かれている。なるほど、わからん。
「おっと、すまなかったな。というか、なんなんだよ、ありゃあ」
ぼりぼりと頭を掻きながら眉間にしわを寄せた店主。なんなんだよと言われましても。
「なんというか魔力を変化させる、みたいな? 俺も原理はよくわかってないんですよ。なにせいろいろと試行錯誤して最近使えるようになったもので」
試行錯誤したのはこの技術を編み出した先人たちだけど。この技はフッサの師匠が誰かから教わったものってことだし、知っている人は知っている技術なんだろう。なので特に隠すこともない。
「まぁ、ボウズが言ってることが嘘じゃないってのはわかったが」
うむ、平伏して謝罪してもいいんだよ。
「なんだよ? その目は?」
…いえ、なんでもないです。
「ちょっと待ってろ」
さっきも聞いたよ、そのセリフ。再び店の奥に消えた店主。しばらくすると台車に乗せた樽を押してきた。樽の中には同じ剣が六本。
「うちにある武器じゃどれも今の技には耐えらんねえだろうよ。とりあえず同じ剣でいいってこったら、今ある在庫はこんだけだ。どうする」
「もちろん全部いただきます!」
「おう…」
なんだか奥歯にものが挟まったようなすっきりとしない感じの店主。
「まぁ、あれだ。俺としてもこうポンポン壊されたんじゃ、一人の職人としての矜持ってもんがな…」
あれ? この剣作ってるのって双子のお兄さんじゃなかったっけ?
「おい! 今、作っているのは別の人間じゃねぇかって考えたろ! 細かい装飾やなんか、それに柄の加工だって俺がやってんだよ!」
なにやらブツブツ言いながらもお会計だ。この店は冒険者ギルドの提携店なので支払いは冒険者プレートでの引き落としで完了。モノがモノだけに安い買い物ではないけど仕方ない。命を預けるものだからね。
「まぁ、うちの兄貴にも相談しといてやるよ」
はぁ、とため息交じりに店主が言う。口うるさい所もあるけど、いい人なんだよな。
「あと、いくら稼いでいるからってあんまり無駄遣いすんじゃねぇぞ」
傍からみたら十歳の子供だもんな。剣の代金は子供が即決して支払うような額ではない。そう注意する気持ちはよくわかる。
「毎度ありぃ!」
店を出た俺達の背中にそう声がかけられた。いくら片手で取りまわせる剣だといっても七本ともなればそれなりに重い。人目の付かない路地に入って【裏倉庫】に六本をポイっとして、残った一本を腰に下げれば買い物の完了だ。
「俺の買い物は終わったけどどうする? 何処か寄る?」
お供をしてくれているミトに尋ねる。何もなければどこかでランチかな。
「あまり時間はとりませんのでリクトエルさんのところへ寄ってもよろしいでしょうか?」
そんなミトの提案で、ここからあまり離れてはいないリクトエルさんの店に向かうことになった。
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