結成
俺とミトは金の小麦亭で朝食を済ませ、冒険者ギルドにやってきた。
ギルドに入った俺達、というか俺に向けられる視線。好奇、畏怖、羨望、嫉妬。十歳でステータスを授かって間もない子供がBランクの魔物を倒したんだ。そりゃあ、気味悪がられもするよな。
好意的な感情があるのは、元々開拓所から付き合いのあった人や、力こそ全てという脳筋的な人が多いことが理由かな。
嫉妬については、とどめを刺したのはフッサだということで、俺はそのおこぼれに与っただけ、という意見の人がいるからだな。俺としてはその意見をもっと広めてもらえるとありがたいんだけど。
「主殿」
ギルドではフッサとモナが俺達を待っていた。尻尾をブンブンと振っているフッサとは対照的にモナは少し不貞腐れているような表情をしている。
フッサにもギルドから査定が終わったら連絡がいくように俺から頼んでいた。所有権は放棄したと言ってもフッサと俺への報酬だからね、買取金額はフッサにも聞いてもらって、意志が変わったというのなら分配してもいいと思っている。
「話があるのだが…」
なんだ? 眷属化についてのクレームは一切受け付けないぞ。何せ解除方法がわからないからな。それともやっぱり分け前が欲しいとか?
声のトーンからするとなにやら真剣な話のようなので、ギルドに併設された酒場の空いている席に移動。
…。
…?
うん? どした? なんだかモジモジしているフッサ。そこにしびれを切らしたのか不機嫌そうだったモナが声を上げる。
「ちょ、ちょっと! なんで黙りこくってんのよ! あんたが切り出さないといつまで経っても終わらないだろ」
「うむ、すまない。いざこうなると緊張してしまって」
居住まいを正したフッサが俺の瞳をまっすぐに見つめる。
「主殿、我を主殿の側に置いていただけぬだろうか。獣人である我が主殿の側にいることで迷惑をかけるかもしれぬが…」
なんだよ、そんなことか。どんな話かと思ってめちゃくちゃ身構えちゃったじゃないか。
フッサが仲間になりたいと言ってくるのは想定内だ。というか眷属化しちゃっているから、どうやって誘おうかと考えていたところだ。この件についてはミトとも相談済み。
フッサが仲間になるのは全然ウェルカムだ。だけど問題はモナ。彼女は別に俺たちの仲間になる義理はないもんな。冒険者ランクも違うし。
フッサから聞いた話だと、以前怪我をしていたモナを助けたことが切欠で一緒に行動するようになったらしい。フッサとしても獣人族ということで毛嫌いされて単独行動していたから、誰かと組めるのはメリットがあるから、なし崩し的にコンビを組んだらしい。
俺としてはモナとフッサ二人とパーティを組めればいいと思っている。
モナはCランク冒険者だ。実力はもちろんのこと、冒険者としての知識も豊富だ。それに情報。俺もミトも多少は聞きかじってはいるものの、この街の情報には疎い。そしてフッサは獣人ということもあり街にいる時は人目に付かないようにしているそう。
一方モナはこの街での活動期間は長く、それなりに顔もきくし、信用もある。つまり彼女が俺達と組んでくれれば非常に心強い存在になるってこと。
それに子供と女、そして獣人のパーティになんて好き好んで入ってくれる冒険者なんてそうそういないだろう。
眷属化していないモナと行動するのは、俺が邪神の力を持っていることがバレるリスクはある。だけど、そんなことは家族と暮らしていた時だって、辺境伯邸にいた時だって同じだ。
そうそう、邪神についてはフッサにも話してはいない。フッサは「主殿の事情については必要が無ければ我に説明は不要だ」とのことだったので、俺が光魔法と闇魔法を高レベルで使え、そして黒騎士モードになると使える魔力が増えるという風に説明している。そしてその力は秘密にしているから黙っていてほしいとだけ伝えてある。
俺の邪神の力について知っているのは今でもミトだけだ。
俺は頭がお花畑ではないから、モナが仲間になったとしても彼女が信用できるとわかるまでは他の冒険者が俺について知っている以上のことは伝えないつもりだ。
心苦しいところもあるけど、自分の身は自分で守らないといけないからな。
彼女が仲間になったら【影移動】による転移が使えなくなるから、地下遺跡探索も今までのように移動をショートカット出来なくなるが、ゴブリンキングの一件で少なからず注目を集めているからこそ、普通の冒険者と同じように探索するのもいいだろう。あいつらの移動おかしくね? なんて噂が出たら困るしね。
という訳でモナがどうするか、どうしたいか、なんだけど。
「あぁ。あたしは別にフッサに助けられた恩返しがしたくて一緒にいただけだからね。フッサが本当に望むならコンビを解消してもいい。詳しいことは聞いてないけど、「主殿」なんていうくらいだ。なにかあるんだろう。あたしのことは気にしなくてもいいさ。誰かと新しく組んでもいいし、この街じゃなくて、どこか他の街に行くのもありかね。元々根無し草だからさ。これもいい機会かもしれない」
とか言いつつもどことなく不満げな表情は、やはりフッサとコンビを解消するのは嫌なのだろう。
「あのさ、確かに俺とフッサはある契約を交わしたって言っていいのかな? そんな感じなんだけど、だからってフッサとモナがコンビを解消する必要はないと思うんだ」
「しかし、主殿! 我は主殿と!」
ステイ、ステイだフッサよ。君の気持ちはスキルを通じて感じてるからちょっと黙っていておくれ。
「もし、モナが嫌じゃないなら俺達四人でパーティを組むっていうのはどうかな?」
「あたしが? あんたたちと?」
俺の提案に黙ってしまったモナ。
だがその顔は嫌そうなものではない。そうか、その手もあったか、というような表情。
「いいのかい?」
「ランクの低い俺達で良ければ、是非」
「…それも面白そうだね。ミトラはそれでいいのかい?」
「ええ、主様の意思が全てですから」
モナの件について、ミトは邪神についての心配はあるようだが、俺の意見を通させてもらった。
「主様に主殿ね、あたしもご主人様とかいったほうがいいかい?」
ニヤリと笑うモナ。
「そこは今まで通りレイブンで頼むよ」
俺とミト、フッサとモナの四人パーティ結成だ。話はひと段落着いたのでギルドのカウンターでゴブリンキングの魔石と武器の査定金額を教えてもらおう。おっとり系職員さんがいたので、彼女がいるカウンターへ。
「素材の査定金額ですねー。 お待たせしましたー」
俺たちが近づくと何やら資料をペラペラとめくる職員さん。
「えーっと、魔石と剣と盾。全部で白金貨一枚と大金貨五枚という査定結果になりましたー」
はい?
まじで?
一千五百万円!?
魔石と武器で?
「盾はミスリル製で【頑健】と【魔法防御】の効果が付与されていたのでこれだけで白金貨一枚ですねー。剣も【頑健】の効果が付与されていたので大金貨三枚。魔石は大金貨二枚の買取ですー。魔石はあまり質が良くなかったのでBランクの中としては低めの査定金額ですー」
Bランクって質が悪い魔石でも大金貨二枚で買い取ってくれるの?
「地下遺跡から出てきた腐竜の素材とかあればものすごい買取金額になったんでしょうね」
「腐竜? あぁ邪竜のことですかー?」
ん? 邪竜?
「…邪竜って?」
「おや? ご存じないんですかー? あの竜は昔、邪神が創り出した魔物の一体。邪竜ファーヴニルが不完全な形で復活した魔物だと考えられていますー。そうですねー、魔石だけでも白金貨、いや大白金貨にも届くかもしれませんねー。全部消し炭になっちゃったみたいですけどねー」
おぉーーーい! まじかよ! もったいないことしたな!
一億円だぜ、一億円。前世で何度も妄想した「一億円が当たったらどうしようかな」の一億円。それが目の前にいたのかよ! 一撃でやってやるぜ! なんて調子乗らずに魔石だけでも確保しておけばよかった。
「そりゃ、すごいですねー」と棒読みで相槌を返すことしかできなかったよ。
「フッサ、 本当にいいの?」
確認だ。お金で揉めると後々面倒だからね。
「うむ。主殿の好きにしたらいい。それに我にはこれがあるからな」
背負っている大剣のグリップを握り、そういうフッサ。それなら俺の好きに使わせてもらおうかな。そうだなぁ、装備を整えて、美味しいものをみんなで食べて。うーん、あとは何に使おうかなぁ。
「主様、お手紙を送るのでは?」
はい、そうですね。ちゃんと覚えているってば。大金貨八枚、日本円換算で八百万円の配達料金で大陸を跨いで届けてもらうことにしようか。
鞄から十通の手紙の束を取り出す。尚、内容は全く同じだ。
道中、配達人が魔物に襲われることもあるから、手紙は複数のルートで送ることになっている。これは配達料金を確認した時に予め伝えられていたことだ。同じ内容の手紙を十通したためるのは、なかなかに面倒だった。
「これをジルバンド大陸にあるイリュシュ王国の王都まで配達をお願いします。宛先はガナン辺境伯で」
手紙が着くのは何か月後かわからないが、これで俺の無事を家族に知らせることが出来る。まぁ、【影移動】で転移すればいいってのは言いっこなしだ。
「あ、そうだ、俺達四人でパーティを組むことにしたんですけど」
「レイブンさん、ミトラさん、モナさん、フッサさんでですかー? おー、これは期待のパーティですねー。パーティ名はどうします?」
ハーレムパーティのオーランドさんのところが「希望の風」って名乗っているあれか。たしかメンバー全員が風魔法スキルを持っているから「希望の風」なんだよな。
俺たちの共通点かぁ。モナを除けば邪神繋がりなんだろうけど、流石にそれはパーティ名に使えないしなぁ。
ミト、フッサ、モナの三人の視線が俺に向けられる。
俺も三人を改めて見るが共通点なんてなくね?
「うーん」
「パーティのどなたかの技の特徴を名付けたりすることもありますよー」
技ねぇ。
「紫電の一撃、なんてどうかな」
フッサが俺の魔力を使ってゴブリンキングに放った一撃。俺の中の邪神の力の影響なのか紫電を纏ったような一撃だったことは、それを目撃していた開拓所の冒険者から、増援の冒険者に伝わり、今ではフッサが放った技として定着しつつある。
フッサに目立ってもらって、俺の隠れ蓑にでもなっていただこう。
「いいじゃないか」
「さすが主様、素敵なネーミングです」
「む、いいのか?」
特に反対意見もなさそうだし。
これが伝説の冒険者パーティ「紫電の一撃」の誕生の瞬間だった。
なんてね。
俺達四人なら地下遺跡のより深い階層の探索もできるだろうし、しばらくはこの街でステータス上げに励むとしようか!
◆◆◆
以上で第二章終了となります。不定期で閑話を投稿しつつ、ある程度ストックが溜まり次第、次章を投稿させていただきます。ここまでお読みいただきありがとうございました!
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