それからのこと

 Eランク冒険者である俺がゴブリンキングを討伐という異例の事態は、とどめの一撃を放ったCランク冒険者のフッサにその全てを丸投げしたことで闇に葬られた。…はずだ。


 ゴブリンナイトだと思っていた魔物はゴブリンキングだったという驚きの事実。いやぁ、苦戦するフリをしていてよかった。そしてフッサよ、ありがとう。君のおかげで俺のやらかしは誤魔化された。多分。


 Bランクの魔物相手に「へへ、楽勝だぜ」とか調子こかなくて本当によかった。あの時苦戦する芝居を選択した俺、グッジョブ!


 時が過ぎるのはあっという間だ。あれから一週間が過ぎた。いろんなことがあった気もするし、気がついたら一週間が経過していたような気もする。


 あれは、ゴブリンキング討伐直後のことだ。


 ゴブリンキングに率いられていたゴブリンは散り散りに森に逃げることはなく、俺目掛けて殺到した。勝利の余韻に浸る時間をくれることもなく、次々と森から出てくるゴブリン。


 本来なら上位種がいなくなれば、好戦的な魔物以外は自分の命を守るため、上位種を倒した者から逃げるように行動する。だがそこは俺の加護【邪神の恨み】が仕事熱心なため、俺とゴブリンキングの戦いに注目していたゴブリン、つまり森に隠れていたほとんどのゴブリンが俺に敵意むき出しで襲い掛かってきた。


 まぁゴブリンなんて、いくらいたところで俺の敵じゃない。


 なんて油断は禁物だ。ただひたすらにゴブリンだけを狩る専門の冒険者も世の中にはいるとかいないとか。


 魔力による身体強化で身を守ってはいるものの、急所に攻撃をくらったらステータス関係なく死んでしまうからな。


 気を引き締めていざ迎え撃とうとしたのだが。


 ゴブリンキングを倒したことにより、勢いづいた開拓所の冒険者の皆様。そしてなにより、俺を守ろうとするフッサの活躍によって、俺は突っ立っているだけでその場の戦いは終わってしまった。


 「主殿には指一本触れさせはしない!」と右へ左へと大剣を振り回し、ゴブリンをミンチにしていく様は鬼気迫るものがあった。家のワンコは怒ると怖いんだぞ。


 開拓所の皆はゴブリンキングを倒された逆恨みで俺とフッサに向かってきている、と勘違いしてくれたみたいだった。問答無用で魔物に襲われる加護を持っているなんて知られたくないからね。その勘違いは訂正することなくそのままにしている。あのゴブリンたち、随分と忠誠心が高かったんですねー、なんつってね。


 それからは負傷者の手当てを手伝い、そして残念ながら亡くなってしまった人を埋葬した。


 その中には何度か模擬戦をしてくれた冒険者や、面白おかしく体験談を語ってくれた冒険者の姿も。


 助けることが出来なかった人たち。切なく悲しい気持ちにはなる。だが、俺が助けた命もあることを忘れちゃいけないというフッサの言葉で切り替えることができた。


 日が暮れると始まった酒宴。助かったことへの感謝、そして死者への弔いを込めた馬鹿騒ぎ。賑やかに笑って死者を送る、なんとも冒険者らしい考えだ。


 俺も見習わなきゃな。


 そこからは飲めや、歌えや、踊れやの大騒ぎ。


 翌日まで続いた宴。それは開拓所襲撃の報せでシエイラから急いでやってきた増援の冒険者が来ても終わることはなかった。


 駆け付けた冒険者の反応は様々だった。唖然とする者、魔物が撃退されていたことを喜ぶ者、死者に想いを馳せる者、問答無用で宴に参加する者。


 まぁ、結局は皆を巻き込んでの宴となり、その翌朝、つまり一日半もの間続いた結果、開拓所の酒がなくなり強制的に終了した。


 どうにも他の冒険者と距離のあったフッサ。人族と獣人族の隔たりはそう簡単になくなるものではないが、お酒の助けもあり多少は仲良くなったようだったのはこの宴会の一番の成果かもしれない。


 開拓所を発つ際に、シエイラに戻る冒険者とは反対に、酒の在庫がないことに絶望する居残り組の表情はなかなかに愉快なものだった。やたらと明るく振舞うのは仲間を失った悲しみを紛らわすためでもあるんだろうけど。


 タダ酒を飲みに来ただけとなった増援と共にシエイラの街に戻った俺。そんな俺にはゴブリンキング討伐の功績への称賛ではなく、ギルド長はじめ多くの人からのお説教が待っていた。


 尚、勝手に開拓所への助けに向かった俺にペナルティはない。ただただ小言を言われ続けただけだ。


 一番堪えたのはミトの一言かな。


 「私はもちろん主様を信じておりましたが、宿で主様の帰りを待つだけの日々は辛かったです」という一言。


 ほんっっっと、すんません。


 念話的なサムシングがあると便利なんだけどね。残念ながら眷属化スキルにはそんな効果はない。


 開拓所への救援にペナルティは無かったが報酬もない。なにせ勝手に俺達が向かっただけだからな。だが単にただ働きとはならない。ゴブリンキングの魔石と装備していた剣と盾、そして大剣は俺とフッサのものとなったからだ。


 フッサは「主殿のおかげです」と、その所有権を放棄。だが、なんだかお気に入りようだった大剣はそのままフッサに使ってもらうことにした。ゴブリンキングを一刀両断したあの技、かっこよかったしね。


 そして魔石と剣と盾はギルドに買い取ってもらうことになったのだが、剣と盾はなにやら魔法が付与されている特殊な武器だったらしくその査定に数日かかるということだった。


 しばらく地下遺跡は封鎖されたままなので、のんびりと過ごすこと、数日。


 ようやくギルドから査定が終わったという連絡があり、翌日に来るように言われたのが昨日のことだ。


 そうそう、腐竜のブレスで地下二十三階から天井をぶち抜き、開けられた大穴。あの大穴は俺とフッサが街を離れた後に塞がったらしい。地下一階と地上の間に開けられた穴はそのままだが、地下二階の天井から地下二十三階の天井までは何事もなかったかのように復元されていたそうだ。


 現在は地上部分の大穴をどうやって塞ぐか、領主とギルド長で協議している最中らしい。


 ゴブリンキングを倒してからの一週間はこんな感じで、あっという間に過ぎていった。

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