ゴブリン(ちょっと大きめ)
レイブン…、なのか?
この開拓所に突然現れた少年。魔道具の暴走による転移で飛ばされてきたという、別の大陸出身の少年。実はやんごとなき身分なのではという噂もあったが、礼儀正しいが人懐っこく、それでいて与えられた仕事は真面目に取り組む少年だった。
剣術スキルを授かったばかりということで、せがまれて模擬戦をしたが十歳とは思えない剣筋と立ち回り。話を聞いてみると父親が元騎士ということで幼い頃から稽古をつけられていたらしい。
しかし、あくまで十歳にしては、だ。この開拓所にいる冒険者とはステータスが違う。
そんな少年が魔物の投げた剣を叩き落したのか?
仮にシエイラの地下遺跡で活動していくらかステータスが上がったとしても、そんなことあり得るか? 地下遺跡の魔物といったって精々十階未満の雑魚だろう。
いやいや、あり得ない。
それじゃあいったいこの少年は?
…、とか思われていそうだよなー。
あー、失敗した!
うっかり飛び込んでしまったけど、今の俺は黒騎士モードでもなんでもない。ただのレイブンだ。しかも助けたのは開拓所滞在中にお世話になったナルダさん。
間一髪の状況だったから助けられてよかったけど、もっと方法はあっただろう。俺の馬鹿馬鹿!
状況はよくわからないが、この大きめのゴブリンしか戦ってないのはなんでだ? 他のゴブリンは遠目にこちらを見るだけ。問答無用で魔物に襲われる【邪神の恨み】を持っている俺に向かってこないというのは上位種によって支配されているからか。
目の前にいるゴブリン以外にも森の奥に数多くの気配。これだけのゴブリンを従えられるってことはただの上位種じゃないはずだ。
目の前のゴブリンは体も大きいし、その身が放つ魔力も大きいが腐竜に比べたらちっぽけなもの。たぶんコイツ以外に上位種がいるはずだ。ゴブリンキングとかそんな感じの魔物が。
こいつは…。
そうだな、差し詰めゴブリンナイト的な何かだろう。
…あれ? ということならCランクの魔物か。
俺は地下遺跡でDランクの魔物素材を納品している。ってことはその一ランク上のCランクの攻撃を往なしても変じゃないか。
うんうん、なんだ、問題解決じゃないか。
とは言ってもEランク冒険者の俺がCランクの魔物を圧倒するのもおかしいか。おかしいよな。
よし、ここは苦戦したフリをして、なんとか偶然の一撃、クリティカルヒット的な何かで倒すというストーリーでいこう。
「ギャ!」
ゴブリンナイト(仮)の一鳴き。森からゴブリンが出てきて剣と盾を持ってきた。ゴブリンが持つにしては不釣り合いな立派な剣と盾だ。
再び武器を手にして何やら得意げなゴブリンナイト(仮)。だが甘い、剣と盾を扱う相手は俺が最も得意にしている手合いだ。幼い頃から騎士に稽古させられてきたからな。
これなら苦戦している芝居も楽勝だ!
早速、グギャグギャ言ってる隙に一撃。
うんうん、これは盾で防ぐよな。防ぎやすいように打ったからな。奴が持つ剣で俺に切りつけてくる。思ったよりも早い斬撃だが、技も何もない力任せの攻撃なんぞに当たる俺ではない。
接近してわかったが、このゴブリンナイト(仮)、首元に黒いチョーカーのようなものを身につけている。上位種ともなるとおしゃれに気を使うんだろうか。
「おらっ」「グギャア」「あらよっと」「ギャギャ」「よいしょっ」「ギギ」
その後も俺の攻撃を盾で防がせ、ゴブリンナイト(仮)の攻撃を俺がギリギリで避けるという展開を続ける。
どこからどう見ても苦戦する俺。誰の目にもそう映っていることだろう。
「主殿!」
それに痺れを切らしたのかフッサが【獣化】を解き、俺が最初に払い落とした大剣を拾い、ゴブリンナイト(仮)に斬りかかる。丁度俺が奴の攻撃を避けたタイミング。そのがら空きの右肩に大きな傷をつけた。
ナイス!
「フッサ! 助かった!」
この後の展開をどうしようかと考えていたところだったんだ。これを切欠にコイツを倒してしまおう。
俺が攻撃をひきつけ、フッサがその隙に大剣による攻撃をくらわせていく。
眷属化スキルの効果もあり、初めての連携の割に呼吸が合わせやすい。獣人の膂力から繰り出される一撃は確実にゴブリンナイト(仮)の体力を削っていく。俺も徐々に攻撃を当てていく。
しかしどうにも決め手に欠ける。気が付けばフッサが最初につけた傷は塞がりつつあり、俺のつけた浅い傷は既に塞がっている。
再生能力か?
これはもっと強力な一撃が必要だな。…そうだ、眷属化のスキルを試してみるか。
「フッサ!」
一旦距離を空けてフッサに耳打ちをする。
「…、わかった。主殿を信じよう」
俺の提案を二つ返事で承諾したフッサ。
再び距離を詰めてゴブリンナイト(仮)の攻撃を俺が引き受けフッサがその隙に攻撃を当てていく。先ほどと違うのは徐々にフッサの与える傷が深くなっていることだ。
眷属化スキルの「眷属との間で魔力を送りあうことが出来る」を利用して俺の魔力をフッサに分け与えている。獣人は魔力が少ない。フッサもそうだからか先ほどまでの攻撃には魔力は込めておらず、純粋な膂力のみで攻撃を与えていた。そこへ俺の魔力を送り攻撃に乗せている。
普段やらないことをやるのは無理だろうと、こちらも眷属化スキルの「眷属の感覚を共有することが出来る」を利用して、俺が魔力操作を担っている。
フッサからしたら違和感のある状態だろうが、なんとか合わせてくれている。
「どうだ?」
「問題ない」
ここまではお互いの感覚を慣らすための準備運動だ。
「いくぞ」
先ほどよりも少し強めに俺がゴブリンナイト(仮)の盾に打ち込む。力はやや俺の方が上。
ゴブリンナイト(仮)が持つ盾を弾き、そのまま剣を持つ手を狙いその動きを封じる。
がら空きになった正面。そこへフッサの攻撃に俺の魔力を込めた一撃が放たれる。
顔面を二つに割り、なおもその剣は止まらない。
ゴブリンナイト(仮)を真二つにし、その先の森の木々をもなぎ倒すほどの強力な一撃だった。
「むぅ」
ちょっと魔力を込めすぎたかな。自分の繰り出した攻撃に戸惑っているフッサ。
「主殿…、今のは…」
「俺とフッサの絆が生んだ協力技だね」
その一言でフッサの尻尾がとんでもないスピードで揺れる。
千切れないよね? まあ、最悪千切れても治せるけどさ。
すると後方、つまり開拓所から雄叫びと共に俺達に駆け寄ってくる冒険者のみなさん。
ゴブリンナイト(仮)を倒しただけで喜び過ぎじゃない?
え? あれゴブリンキングだったの?
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