終わらぬ混乱
「こっちだ」
俺の前を歩くマッスル職員さんに案内されてギルド内に繋がる、以前俺が通ったルートではない通路へ案内される。
「あれ? こっちじゃないんですか?」
ギルド内に繋がる扉を俺が指さす。
「ああ、今はギルド内もだいぶ混乱しているみたいだからな。こっちの職員通用口からギルドカウンターの方に直接行っちまおう」
しれっとそう言うが、それっていいのか? 機密情報とかあったりするんじゃあ?
「流石に冒険者から丸見えのカウンター内にはそこまで重要な情報はおいてねぇよ」
俺の疑念を払拭するように答えたマッスル職員さんが扉を開けるとギルドの受付カウンターの内側に出た。いつものギルドのはずなのに視点が違うだけでなんだか違う場所みたいだ。
「邪魔するぜ」
ギルド建物内では外よりは人が殺到していないが、冒険者とそれの対応をする職員さんで騒がしく、このカウンター内の職員さんも何やら慌ただしい。
「ほらな、こんな状況じゃあ行方不明者リストどころか、取り次いでくれる奴を探すのだって一苦労だ」
「でも、ギルドも情報はないって言ってましたよね? 皆さん何をしているんですか?」
「だから、だよ。こうやって騒ぎを目撃した冒険者から情報を収集してるってこった。外にいる奴らは何が起きたか知りたい奴だが、その中から冒険者ランクの比較的高い奴を中にいれて情報を聞き出してるんだ」
なるほどな。前世と違って映像や写真が気軽に撮影出来ないから、情報を集めてそこからより正確な情報を精査してるってことか。
「レイブンさんじゃないですかー、どうしてこんなところにー? ここはギルド職員以外立ち入り禁止ですよー」
入った扉の前に突っ立っていると俺に気が付いたおっとり系職員さんに注意されてしまった。やっぱり入っちゃダメな場所じゃんか!
「俺が連れてきたんだ、行方不明者リストを確認してぇっていうからよ。今の状況じゃそうもいかねぇだろ」
「あっ! そんなこと言っても規則は規則ですよー」
「うるせぇなぁ、責任は俺がとる」
「もうー、ギルド長には報告しておきますからねー」
俺のせいで揉めてしまって申し訳ないな。
「なんかすみません」
「あ? 気にすんな。それよりも、ほらっ」
手渡された犠牲者兼行方不明者リストを確認すると、フッサのモナの名前の横には丸印、つまり生還と記されていた。
「どうだ?」
心配そうな顔のマッスル職員さん。
「はい、無事に戻ってきたみたいです」
「そうか、よかったじゃねぇか」
「ありがとうございます!」
無事に戻ってこられたみたいだ。腐竜が地下遺跡を破壊したブレスに巻き込まれていなくてよかった。
「モナさん達ですかー?」
「はい、地下遺跡内で良くしてもらったので心配していたんです」
「でしたら、お二人とも怪我もなくお元気でしたよー。モナさんは少しお疲れのようでしたが、今はギルド長とお話し中ですねー。不審な一団と接触したということで詳しくお話を伺っている最中ですよー」
そうか。黒騎士のこと触れないでもらえると助かるんだけどな。一応それとなく頼んだけどどうだろう。
仮に黒騎士のことが伝わっても冒険者のヤマダと名乗ったってことくらいしかわからないだろうけど。
二人の無事も確認できたし、宿に戻って朝食済ませたらひと眠りしようかな。流石に十歳児に徹夜は良くない。
二人の職員さんにお礼を伝えて帰ろうとしたその時だった。
表から馬の嘶き声と叫び声が聞こえる。
「どけ! どけ! いいから! 早くっ!」
余裕のない、切羽詰まった声。
閉め切られた扉が開くと、頭に巻いた包帯に血を滲ませた人が建物の外にいた職員さんと冒険者に担がれて入ってきた。どこかで見たような顔。
「ドッチェさん!?」
そう、冒険者の割に少しひょろっとした体形。包帯で半分隠れているがあれは開拓所でナルダさんと共に門番をしていたドッチェさんだ。
体中傷だらけなのか担いでいた二人の手は血で真っ赤になっている。他にもギルド内に知り合いがいたようで、近くにいた冒険者が傷薬を振りかけ、また他の冒険者は魔法をドッチェさんにかけている。ギルド内の人込みをかき分けて俺が近づいた時には傷は粗方塞がったようだ。とはいっても完治ということではなく、容態が安定したという程度だ。
「おい、ドッチェ! 一体何があったんだ!」
「か、開拓所が魔物の群れにお、襲われて…。き、救援を」
ドッチェさんからのその言葉で冒険者ギルドは更に混乱に包まれた。
混乱に乗じてドッチェさんに近づき【治癒】をかける。誰にも気づかれないようにこっそりと。全力とはいかないが、心なしかドッチェさんの顔が安らかになった気がする。お世話になったからね、この人には。
しかし、開拓所が魔物の群れに襲われた、か。あそこには一週間の滞在だったけど、本当にお世話になった。素性の知れない俺とミトに優しくしてくれ、この街での繋がりも開拓所の人達がいたからこそ。
腐竜を倒してひと段落かと思いきや、一難去ってまた一難とはまさにこのことだな。
このまま何もしないほど、俺だって恩知らずじゃない。
宿に戻るのはまだ時間がかかりそうだな。
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