冒険者ギルドへ
どもども。週刊シエイラと名乗る集団にインタビューをされた少年です。
咄嗟のことで不自然な言動が無ければいいけど。インタビューで答えた内容をそのまま記事にすることもないだろうし、名乗ってないし問題ないでしょ。
いやぁ、終わってみると呆気ないものなんだけどさ。
地下遺跡でデズラゴスが持っていた本を媒介に誕生した腐竜。腐竜は地下遺跡の天井を吹き飛ばし自由になった翼で飛び立ちながら、俺に照準を定めてブレスの第二射を放とうとした。咄嗟の判断で植物魔法による蔦を生み出して奴の尻尾に括りつけ、俺も一緒にフライアウェイ。
腐竜自身もそのまま攻撃したら自分の尻尾も焼いてしまうことを悟ったのか、なんとか第二射は免れることができた。
さてどうしたものかと考える暇なく、腐竜はそのまま地上へ。
あのブレスが街に向かって放たれたら、とんでもない被害を出すのは明白だ。そして、腐竜と共に地上に現れた怪しい黒い全身鎧の人物。これって、どっからどう見ても俺がコイツを呼び出したみたいに思われないか!?
いかんいかん、ただでさえ黒騎士モードは邪神を崇める組織に狙われているんだ。それなのに街を破壊したなんてレッテルが張られたら冒険者ギルドや各国からもお尋ね者になりかねない。
黒騎士モードは俺の戦闘形態として防御力も高いし、正体も隠せる。無論魔力も無限に使えて、使い勝手が非常にいい。邪気を漏らさないように操作したり、魔力を金属のように凝縮したりと俺の類まれな才能と努力で成り立っている戦闘形態。その状態がお尋ね者になるのは避けたい。
ここはこの腐竜を俺がド派手に倒して見せるべきだろう。
それに、なによりもこの街には多くの知り合いができた。その人たちを守りたい。
腐竜に連れられ、というか吊られて戻ってきた地上は日が昇り始めていた。ゾンビは陽の光に弱いってのは万国共通、光に当たった箇所から灰になったりしないかなと期待してみたものの腐竜には関係ないようだった。
絡みついた蔦が煩わしいのか、俺を振り落としたいのかは知らないがその尻尾を大きく振る腐竜。フフフ、俺の植物魔法はそれぐらいでちぎれるほど柔じゃねぇぜ!
なんて考えていた時が俺にもありました。
大きく揺れた尻尾、その衝撃で蔦が絡みついていた箇所の腐肉が剥がれ落ちる。すかさず更にきつく締めなおしたが、尻尾の骨に蔦が触れるとあっさりとちぎれてしまった。竜の骨とか武器の素材であるもんね。
そして大きく投げ出される俺。
人の目もあるだろうから建物に激突、なんて格好悪い姿は晒したくない。
投げ飛ばされながらも程よい建物を見つけて、その屋根に着地出来るように魔力を放出しながら微調整。そして完璧な着地。
どうやらスラム街にある地下遺跡への入口付近のようだ。見たことのある冒険者達が腰を抜かしている。そりゃあ、あんなのが地下から出てきたら驚くよね。
辺りを見回すと、腐竜が出現した場所は俺がウェディーズさんに教えてもらった入口の真下だったようで、廃屋は跡形もなく消え去り、大きな穴がぽっかりと開いている。
あの辺りなら人の気配はなかったから被害は少ないのかもしれない。よかった。
ということでこれ以上の被害が出ないようなるべく早く、そして明らかに黒騎士が倒したとわかるように腐竜の処理をしなければいけない。
目撃者がいることは確認した。そして被害が出ないようにするためには一撃で倒すのがいいだろう。幸いにもあいつは空高く舞い、俺を睨みつけていて狙いをつけやすい。そして先ほど放とうとした光魔法最上位の魔法の残滓がまだ残っている。
これを利用すれば。
腐竜が攻撃態勢をとる。
しかし腐竜がブレスを放とうとするよりも、俺の魔法構築の方が早かった。
【審判の光 神光】
光魔法最上位の魔法。【邪神の魔力】の恩恵により、それに込めた魔力はかなりのもの。腐竜を一撃で仕留めるには念には念をいれてのことだ。
そして放った瞬間眩い光がシエイラの街を照らす。
射線上に腐竜の跡形は無く、空にかかっていた雲に巨大な穴が開いていた。
と、こんな感じで腐竜を消滅させた俺はこっそりとその場を去り、誰にも見られていないことを確認して黒騎士モードを解除。この場を立ち去ろうとしたところ週刊シエイラと名乗る集団にインタビューされたってわけだ。
「ふわぁ」
思わず大きな欠伸が出てしまう。結局一晩中戦いっぱなしだったからな。
このまま金の小麦亭に戻って眠りにつきたいところだけど、冒険者ギルドに寄って行こう。フッサとモナが戻っているか確認しておきたいからね。
…腐竜のブレスに巻き込まれてないよな?
一瞬嫌な想像が頭をよぎったが大丈夫なことを祈ろう。
冒険者ギルドへの道すがら、街の人は具合の悪そうな顔で道に出ては近所の人と先ほどの光景について話している。大地からの光線、巨大な竜、それの消滅。皆が目撃したわけではないようだが、目撃した人が興奮気味に話しまわっている。
週刊シエイラの人達の話では邪気も発生したと言っていた。具合が悪そうなのはその影響なのだろうか。俺はデズラゴスに向けてほんの少し邪気を解放したけど、あれは限定的だったから地上に影響はなかったはず。戦闘時も邪気は完璧にコントロールしていたから俺から漏れ出たものではないはずだ。多分、きっと、メイビー。
つまり邪気を放つ何者かがいたってことか?
うーん。わからん。宿に戻ったらミトに聞いてみよう。
そんな街の様子を観察しつつ、のんびりと冒険者ギルドに向かう。街の皆さんはまだ何か起きるのではないかと不安そうだ。
心配ないさー、とリズムに乗せて叫んでみようかな。なんて。
そして到着した冒険者ギルドの前は情報を求める冒険者と市民の皆さんでごった返している。それを遠目から見て、表から入るのを諦めた俺は納品所のある裏口に向かうことにした。あちらからも中には入れるし。
と、納品所に来てみたものの残念ながら、その城門のように大きな扉は閉まっていて中には入れなさそうだ。
「こりゃあ、諦めて宿に戻ろうかな」
誰に当てたわけでもなく口から出た独り言。
だが、物陰から俺の言葉に反応する声があった。もちろん、そこに人がいるのは知っていたけどね。
「お? 剥ぎ取り上手なボウズじゃねぇか」
声をかけてきたのはタンクトップでその筋肉を露わにしている納品所の職員さんだった。煙草を片手に持っているということは休憩でもしていたのかな。
「どうした? あの竜と光のことならギルドも情報を集めているところだから何にもわからねぇぞ」
まぁ、この状況でギルドに足を運ぶ冒険者は皆それが目当てだよな。
「いえ、地下遺跡での行方不明者に何か変化がなかったかと思って。知り合いが行方不明のままなので」
「そうか…」
俺の言葉で神妙な顔つきになるマッスル職員さん。
「それなら、変化があったかどうか中で確認して…って、表の状況じゃ中には入れねぇか」
表の状況を分かっていて喫煙休憩とは中々のワルだな、この人。
「おっと、なにか勘違いしているようだが、表の対応は俺達の仕事じゃねぇからな。俺なんかが出ていくと反って騒ぎをデカくするってんで、表には出ねぇようにギルド長からも言われてるんだ」
騒ぎをデカくするってこの人どんな対応するんだ? 俺が納品した時は砕けた対応だったけど、おかしなところは無かった。
「なんだよ、その目は。まぁいい。お前は他の職員からも評判がいいみたいだしな。中に入れてやるから確認してこいよ」
他の職員の評判? なにそれ、めっちゃ気になるな。今度ウェディーズさん経由で情報仕入れてみようかな。
気になる言葉を貰いつつも、大きな扉の脇に設置された職員用の通用口からギルドへ案内してもらうことになった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます