商売上手

 なんだコイツは!?


 何故俺が地下遺跡に入りたいと知っている? フッサとモナが行方不明のままだからか? いや、モナとは一度ギルドで接点はあったがあの場では少し絡んだだけだ。そして地下遺跡内での出会いは俺たちしか知らない。フッサもモナもあれから地上に戻って来ていないから誰も知らないはずだ。あの二人が地下遺跡内で他の冒険者に話したか? いや、だとしてもミトが言ったように少し話しただけの冒険者をこの状況下で助けに行こうなどとこの世界の人が考えるか?


「あんた、何者だ?」


 いつでも戦闘が出来るように警戒度を最大限まで上げる。


「フフフ、何者か、ですか。これはおかしなことを仰りますな。私はしがない魔道具屋の店主。と言いたいところですがあなたはそれでは納得されないでしょう」

「当たり前だ! ミトに、いや俺たちに何をした!」


 俺の直感が告げている。この男と同じテーブルを囲むのは危険だと。しかし席を離れようとするが体が思うように動かない。そしてミトは先ほどからピクリとも動かない。


「この金の小麦亭は私の店のお得意様なのです。ここの場で暴れられたら宿に迷惑が掛かってしまいますからね、少しだけ、そう少しだけ動きに制限をつけさせていただきました」


 懐から防音の魔道具をちらりと見せ、怪しい笑みを浮かべる。単なる防音の魔道具じゃなかったってことか。


「本来であればこちらのミトラ様のように意識も停止するのですが、流石レイブン様。私の予想通り只者ではないですね。さて、先ほども申し上げた通り時間があまり残されておりません。おっと、私が何者か、でしたね。強いて言えばこの世界においては何者でもない、というか何者にもなれない、が正解でしょうか。ご安心ください。私はあなたに敵対する者ではありません。あまり肩入れすることも出来ませんが」


 それに、とつけ加える。


「情報をお渡しするのは何もあなたの為だけではありません。私もあまり事が大きくなると店の売り上げにも関わってきて困りますからね。これはそう、ウィンウィンの関係ということで、どうでしょう。あなたは地下遺跡に入る方法が見つかる、私は魔道具の販売で利益が出ますし店の危険を排除できる。レイブン様ならご友人を助けるだけではなく、その原因となったものの排除もしてくれると期待しております。そうすれば地下遺跡への入場制限はなくなります。私は引き続き冒険者の皆さまへ魔道具を販売できる、ということです」


 目の前の男は不敵な笑みを浮かべる。


 おいーーーー、絶対ヤバい奴だよこの人。「この世界において何者でもない」とかめちゃめちゃ強者のいうセリフじゃんか! そうじゃなきゃただの痛々しいおっさんだよな。


 世界の管理者とか神の座を奪われた元神様とか別世界の関係者とか、物語終盤で関わってくるようなタイプのキャラだよ、これ。こちとら物語序盤の【お家に手紙を送ろうクエスト】をやってる最中なんだよ。出てくるタイミング間違えていませんかね?


 とんでもなく胡散臭いがなぜか俺に敵意が無いというのは信じられる。ここでこの人に敵対しても勝てる見込みはなさそうだし、ここは素直に情報を聞いておくべきか。


「さて、どうしますか?」

「まぁ、マリカちゃんのおねしょなんて随分おかしな情報ですね」


 どうするか決断したと同時にミトが動き出した。ウェディーズさんは口に人差し指を当て俺にウインクをする。余計なことは言うなということだろうか。ミトが停止していたのは地下遺跡の入り口について言及する直前から。彼女にとっては情報通の魔道具店主という認識のままだろう。あぁ、胡散臭いって形容詞もつくかな。


 仕方がないのでこの場に出された魔道具は全て購入することにした。そのお値段は大金貨一枚! 百万円だよ、百万円。俺の冒険者プレートをカードリーダーのようなものでスキャンしていたので、あれが冒険者ギルドから貸し出されているという魔道具なのだろう。


 支払い時に俺に渡された一枚の紙。そこには冒険者ギルドの受付嬢が狙う冒険者やこの街の領主の情報、マリカちゃんだけのものではなくかなりプライベートな情報がいくつか書かれていた。そしてそこには地下遺跡の秘密の入り口の情報も。


「それでは私はこれで失礼いたします。なにかご用命があれば、いえ、何もなくともまた当店にお越しください。そうそう、なにがとは言いませんがお急ぎになられた方がよろしいでしょう」


 後半の一言はすれ違いざま、俺にだけ聞こえるようにつぶやいたものだ。助けに行くならさっさと行けということか。つまりまだ二人は無事ということなのだろうか。用は済んだとばかりにウェディーズさんは去っていった。


 ウェディーズさんから渡された情報に目を通したミトも入口の情報に気が付いたようだ。


「これは…」

「ミトも気が付いた? 思わぬところで情報が手に入ったよなぁ」


 とりあえず偶然俺が欲しい情報が手に入った風を装う。実際はこの情報を俺に売りつけるために来たんだろうけど。ウェディーズさんが内緒にしろとジェスチャーで伝えてきたのは何か意図があるはずだ。魔道具でミトが停止していた間のことは黙っておいたほうがいいだろう。


「助けに向かわれるのですか」

「うん、今思えばミトの占星術が何も導かなかったのは、この場にいれば助けるための手がかりが手に入るってことだったのかも」

「では私もお供します」


 彼女の申し出はありがたい。占星術による【探索】は二人を探すのに役立つに違いない。


「だが断る」

「え?」

「いや、なんでもない。一緒に来てくれるのはありがたいんだけど、地下遺跡内は黒騎士モードで一気に進むつもりだし、二人を助け出すのも俺ではなくて謎の冒険者ってことにするつもりだから、ミトが一緒に行動していると不自然なんだ。だから俺一人で行ってくる」


 流石に一緒だと黒騎士と俺が結びついてしまうからね。Cランク冒険者も手にかける冒険者狩りの犯人、だが【邪神の魔力】を解放した黒騎士モードの俺なら負けることはないだろう。


 さぁ、二人の救出に向かうとしますか!

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