Eランクの魔物

「獣道?」

「獣というより大蛇が這って出来た道のようですね。どうします? 方角はこちらですが」


 道なき道を進んでいた俺たちの前に、何かの生物によって草木が倒されて、まるで道のようになった空間が現れた。俺たち二人が並んで歩ける程の道幅だ。真っ直ぐに俺たちが進む方向に続いている。


「植物の潰れ具合から数日前のものだと思います。この道を作った生物とすぐに鉢合わせることはないとは思いますが…」

「それじゃあこのまま行こう。歩きやすいのは助かるしさ」


 魔力で身体強化をしているといっても、いい加減草木をかき分けながら進むのはうんざりしていたところだ。それに今は【邪神の魔力】を使った黒騎士モードではないので魔力も有限。ミトも同行しているため彼女に合わせたペースで移動している。


 黒騎士モードは例の組織に対して悪目立ちし過ぎた気がするのでちょっとばかり控えるつもりだ。それに既にスキルレベルが上限に達している闇魔法と光魔法も極力戦闘では使わないでおこうと思っている。


 スキルは使えば使った分だけ成長に繋がる。だから既に成長限界を迎えているスキルではなくまだ成長の余地があるスキルを使っていくことにした。



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スキル:

剣術(Lv1)…剣を用いた攻撃に補正。力に+30。

体術(Lv1)…体捌きに補正。素早さに+30。

武術(Lv10 Max)…武芸全般の習得、実行に補正。生命力、力、素早さ、器用さに+300。

生活魔法(Lv1)…生活魔法が使用可能。

植物魔法(Lv1)…植物魔法が使用可能。魔力、精神に+30。

闇魔法(Lv10 Max)…闇魔法が使用可能。魔力、精神に+300。

邪道魔法(Lv1)…邪道魔法が使用可能。魔力、精神に+100。

光魔法(Lv10 Max)…光魔法が使用可能。魔力、精神に+300。

統治(Lv4)…自領を発展させる行動、部下の人心掌握に補正。精神、器用さに+120。

算術(Lv10 Max)…計算に補正。器用さに+300。

言語(Lv5)…言語習得に補正。器用さに+150。

ちーと(Lv1)…ちーと☆。

眷属化(Lv1)…レベルに応じた人数、自身の眷属にできる、生命力に+30。

▼眷属:ミト・ズゥレ・ソソララソ

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 武術スキルは意識的にオンオフすることは出来ないし、邪道魔法は使用可能な魔法の効果が物騒なので育てる気も使う気も一切ない。


 つまり今後は剣術と体術、植物魔法スキルをメインに戦っていくつもりだ。つまり魔法寄りではなく近接戦闘メインになるってこと。どうしても勝てそうにない時には戦闘時に光魔法も闇魔法もバンバン使うし、戦闘以外では【治癒】や【裏倉庫】なんかの便利な魔法も制限する気はないけどな。


 そういう訳で戦いやすいように腰にはショートソードを下げて、誕生祝に送られたお子様サイズの革鎧を着こんで移動中だ。黒騎士モードでは身バレを防ぐために大剣を使っていたが日頃から稽古で使っているのはこのサイズの剣なので、こちらのほうが扱いに慣れている。


 革鎧は元々オークの革で作られたものだったが、【邪神の魔力】を試したときに黒く染まり魔力を帯びてしまったものだ。【裏倉庫】にしまい込んでいたが軽いし、固いし、なによりサイズがぴったりなので身につけることにした。


 汚れや露濡れによる体温低下防止のために盗賊さんからいただいフード付きのマントを上に来ているので、幸いなことに鎧の厨二っぽさは隠れている


 ミトは魔法による攻撃や支援が得意ということなので、戦闘時には俺が前衛、ミトが後衛という配置になる。この一週間、たびたび魔物と戦闘にはなったがEランク程度のウルフやゴブリンといった魔物がほとんどだったので危なげなく倒せた。割といい感じのペアではある。


「主様、お気を付けください」


 横を歩くミトが立ち止まり注意を促してきた。俺も周囲には気を配っているがなんもないぞ?


「どうした?」

「微かに、微かにですがこの先から腐臭が漂ってきています」

「そう?」


 クンクンと意識して匂いを嗅いでみるが深い森独特の匂いがするだけだ。そもそも森の中には動物や魔物の死骸もたくさんあるものだ。異常な腐臭なんてあるのか?


「何か大きな生き物の死骸が近くにあるのかもしれません。であればそれを狙う肉食獣や魔物が集まってくるでしょう。折角の道でしたが迂回したほうが…」

「いや、このまま進もう」


 彼女の提案を却下し道なりに、ミトが感じる腐臭の発生源の方向に進むことにする。だってもううんざりなんだよ、草をかき分けながら進むのは。


 それに魔物が集まってくるかもしれないといっても、この辺りの魔物なら難なく倒せるのは実証済み。いるならいるで俺のステータスの糧になってもらおうじゃないか。


 道を進むこと十分程、何かが腐った匂いが俺にもわかるくらいに漂ってきた。身体強化をしているのでかなりの距離をこの十分で進んでいる。これだけ離れた場所の匂いがわかるってすごくないか? エルフってみんな鼻がいいの?


「どう、でしょうか。父と母はそんなことは無かったとは思います…。両親の元から離されてからは他のエルフと親交を深めることも無かったので…」


 少しばかり伏し目がちで答える彼女になんだか申し訳ない気持ちになってしまった。いつかエルフの里にも行ってみようか。


「ヴゥ、グルルルゥ」


 さらに道を行く俺たちに対してか獣が威嚇するような唸り声が聞こえてくる。この先に何かいるようだ。ミトが推測していたように死骸を漁る魔物だろうか。


 【邪神の魔力】を解放していないので、魔力は有限だ。そのため魔力を広げてレーダーのように扱うことはしていない、というか出来ない。ごりごっりに魔力を消費するんだもん、あれ。


 気配察知のスキルとかないんだろうか。あれば便利だよな。


 一応なんとなく魔力を感じることは出来るので魔物から不意打ちを喰らうことはない。ミトもなにかの魔法で警戒はしているし。というか素の状態だとミトの方が索敵能力には優れているんだよな。


「主様、この先にウルフが十二体、それとウルフよりも強い魔力の魔物が一体です。上位種かと。魔物間で争っている気配はないので」

「統率しているってことか」


 Eランクのウルフを統率できるってことはDランクかな? Cランク以上だと小物であるEランクと群れるなんてことはないだろうし。


 ちょっと厄介だな。小物だからかステータス上昇の恩恵も少なそうだし旨味もないな。やっぱりミトの言う通り迂回すればよかったかな。


「いや、塵も積もればなんとやらか」

「塵も?」

「なんでもない。先に雑魚を倒してからボスを倒そう」

「失礼ながら助言いたしますと、ウルフ系の魔物の集団はある程度の数が減ると逃げ出すものです。統率している魔物の知能が高ければこちらを執拗に付け狙うこともあるかと。先にボスを倒すべきではないでしょうか」

「いや、大丈夫。雑魚もボスも逃げはしないさ。それにミトじゃなくって俺が狙われるはずだから援護頼んだよ」


 こちとら邪神に逆恨みされているせいで魔物に問答無用で標的になるありがたーい加護持ちだからな。その証拠にここまでの道中も狂ったようにどの魔物も俺を狙ってきたしな。


「来ます!」

「ああ、わかってる」


 急速に近づいてくる気配にミトが警鐘を鳴らしてくれるが流石にこの距離なら俺でもわかるさ。道の先から六体のウルフが猛スピードでやって来た。どいつもこいつも魔物特有の赤い瞳をギラギラさせて、歯をむき出しにしてやがる。大型犬ほどのサイズが六体。一般人ならちびっちゃうな、これは。


 俺もミトが巻き添えをくわないように剣を抜きウルフたちの方に走り出す。六体が一斉に飛び掛かかろうとしてきたが流石に一気に相手にするのは大変なのでこちらも手を打たせてもらう。


「【草搦】」


 植物魔法スキルによる低級の魔法。近くの植物の強度を上げ少し動かせるだけの魔法だ。巨体の何かに押しつぶされていた雑草が動き飛び掛かろうとしたウルフの足を搦めとる。


 飛び掛かろうとしていた二体が俺の魔法に足をとられてもがく。そして飛び掛かって来た四体だが、その中の一体の眉間に風の矢が付き刺さる。


 ミトが放った攻撃だ。弓術スキルを風魔法スキルの複合技の【風の矢】。複数スキルを使いこんでいくと複合技が使えるようになるんだってさ。つまり俺もゆくゆくは光魔法を乗せた剣技かっちょいい技が使えるようになるかもしれないってこと。


 そういえばポータルで戦った白銀鎧がそんな感じの技を使っていたような…。


 っと、いけない。戦闘中に余計なことを考えていたら危ないな。


 本来は六体で一斉に襲い掛かることによって避けられにくくするんだろうが、これで飛び掛かって来たのは三体。父に叩き込まれた剣技で難なく一体の首を撥ね、さらにもう一体の胴を深く切りつける。


 「ギャンッ」と甲高い声で倒れるウルフ。倒し損ねたもう一体が俺の背後から、そして【草搦】を振り切ったもう二体が俺の前方から襲い掛かってくるが、連携の崩れたEランクの魔物なんか脅威でもなんでもない。


 前方の二体は俺の剣技で、後ろから襲いかかって来た一体はその無防備な背にミトの攻撃を受けて息絶えた。


「さて、残りはどう動くかな」


 六体が来た道の先にはもう六体のウルフの気配とさらに強力な魔物の気配がする。


「主様! お怪我はございませんか?」

「ああ、大丈夫。ナイス援護だったよ」

「ありがとうございます。しかし今回に限ったことではありませんがどの魔物も主様に向かっていきますね。私としては動きが読みやすいので簡単に攻撃できるのでありがたいのですが…。何故なんでしょう?」


 それはあなたが信仰する神様から恨まれているおかげですよ。



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加護

・死と再生の神による加護…成人するまで運に限定補正、闇系統、光系統の魔法適性に補正、前世の経験を持ち越し

・邪神の恨み…魔物に襲われやすくなる、闇系統の魔法適性に補正

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 ステータスを表示させてちらっとその項目を確認する。



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邪神の恨み

・魔物に襲われやすくなる。魔物に視認されると執拗に狙われる。

・闇系統の魔法適性に補正。威力増。消費魔力減。魔力操作補正。闇魔法を極めると邪道魔法を解放。

・毒物の効果時間増加。あらゆる毒物の効果時間が二倍となる。

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 …。魔法適性補正なんかはありがたいけどさ。いや、いい。この件についてはもう何も言うまい。


 さて、残りの七体もサクっと倒してしまおうか。

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