星空の下

 パチパチと火がはぜる焚火の音が静寂に包まれたこの空間に響いている。


 焚火の側に腰掛け、俺はいつの間にか元通りになっていた右手でステータス画面を見ている。ミトへの【治癒】の時に右手も治ったらしい。念のため確認したが変なところはない。


 …大丈夫だよな、右手が急に喋り出したりしないよな?


 女神様からもらった俺だけのステータス詳細が見られる機能。これは意識するだけでも使えるが、指でタップしながらの方がタブレットを操作するみたいで簡単にできる。


「眷属化、ねぇ」


 寝ているミトを一人にすることも出来ないので焚火の準備をしたり夕飯を作ったり。いつの間にか日が落ち、真っ暗になったラスファルト島では特にやることもないので、手慰みにとステータス画面を見てみたら新しいスキルが追加されていることに気が付いた。



---------------------

眷属化(Lv1)…レベルに応じた人数、自身の眷属にできる、生命力に+30。

▼眷属:ミト・ズゥレ・ソソララソ

---------------------



---------------------

眷属化

・使用者の魔力を肉体的、精神的に無防備な状態で受け入れた者を眷属とする。

・眷属は使用者を害する行為が出来なくなる。

・眷属の感情を読み取ることが出来る。

・眷属の位置を把握することが出来る。

・眷属との間で魔力を送りあうことが出来る。

・眷属の感覚を共有することが出来る。

・眷属を強制的に従わせることが出来る。

---------------------



 まぁ、無事だったんだし…。


 焚火を挟んで反対側、わずかに揺れるハンモックを見る。


 無事、だよね。


 眷属化の詳細説明分の最後の一文はもはや眷属というより隷属なんじゃないかと思ってしまう。意図せずになった結果ではあるが流石にミトに対して申し訳ない気持ちである。現状、邪気と俺を結び付けることのできる唯一の存在であるミトが眷属化されたのは秘密保持という点では大変ありがたい。


 だが、それはあくまで俺の立場で考えたらだ。


 怪我を治してもらったからといって、目が覚めたら眷属になってました! やったね。なんて話が通じることもなかろう。


 一応調べてみたがステータス画面上では眷属化解除の方法は見つからなかった。


 謝ったら許してくれるかな。


「ううぅん」


 ちょっと色っぽい声がしたので発せられた方向、つまりミトの眠るハンモックを見るともぞもぞと動いているので、どうやら目が覚めたみたいだ。


 立ち上がり彼女のほうへ向かい、ハンモックをのぞき込む。


「主様?」

「目が覚めた? 傷は塞がっているはずだけど…」


 体を起こしお腹をさするミト。


「はい、痛みもまったく…。ですが、これは…」

「なにかおかしなところが?」

「はい、なんというか以前よりズワゥラス様の御力が近くにあるような。というよりもこの感覚は…」


 そして虚空を見つめた彼女は呟いた。


「眷属化…」


 あー、そちらのステータスでも確認できちゃうのね。落ち着いてから説明しようと思っていたんだけどさ。


「あのさっ、そ、それは、あれだよ、あのぉ…」

「ゆ」

「ゆ?」

「夢のようです! 嗚呼、主様にお仕えすることに人生の全てを捧げてきました。それがこうして叶うなんて! 主様と笑う未来を目指してきましたが、このような、こんなに素晴らしい未来が待っていたなんて! 折角治療をしていただき大変不敬な発言かもしれませんが私はもう、今死んでもいい、それくらいに幸せです!」


 彼女は胸に手を当て話し続ける。


「ズワゥラス様の御力だけではありません。ここに感じるのです。主様との繋がりを。ステータスでは主様の眷属になったということしかわかりませんでしたが…そうですね、遠く離れていても主様のことだけはわかる、そんな感覚です。なんと、なんと素晴らしい気分なのでしょう」


 ハンモックから降り、まるで彼女の一人舞台かのように、今まさに踊り出さんというほどに語り続ける。空には満天の星空が輝き、焚火が照らす彼女はとても妖艶だ。


「幸せとはこういう気持ちなのでしょうか。あぁ、こんなに素晴らしい未来が待っていたなんて! 【夢神の寵愛】や【未来視】で視てきたどの未来よりも素晴らしい!!」


 まあ、彼女がいいならもうこれでいいのかもな。


 ちょっとメンタルヤバ目だけど俺に向けられた好意は、経緯はともかくとして本物のようだし、こうなってしまったら一蓮托生って程ではないけど行動を共にするのもいいだろう。


 彼女が所属していた邪神を崇拝している組織についてのことや、この世界のことだって百歳オーバーの彼女は俺よりも知識は豊富だろうし。


 家族には悪いがこの誘拐騒ぎを利用してしばらくはステータスアップやスキル習得に励んでみようかな。


 ってことは念願の冒険者にでもなるか。どこか魔物の狩場でひたすらステータスアップするも良し。旅をしながら強い魔物を探して狩るのも良し。いいじゃん、いいじゃん。あと四年以上は加護の力があるから多少の無茶をしてもいいだろう。


 未だに一人語り続けるミトを横目に俺はそう考えるのであった。



---------------------



 絶海の孤島ラスファルト。そこへと至る航路として最も近いとされる港がバートリア大陸にあるレックルスである。


 邪神復活の神託から数か月。邪気が発生しなくなったといってもその原因は不明のまま。


 聖神教が受けた神託によって邪気の発生源とされていたこの島を監視するためにこの港には監視するための塔が建てられた。


 この塔には聖神教の秘術により邪気を防ぐ防護が施されており、塔を中心にレックルス全体を覆うように光の結界が張られていた。


 同様の結界は聖神教を国教とする国々の主要都市や聖神教の重要拠点にも張られ、数か月前に発生した邪気と同程度のものであれば防げる、そう考えられていた。


 聖神歴六百五十五年、その全ての結界は突如として発生した強大な邪気により消滅。またこの時の邪気は多くの魔道具や魔法的技術に干渉し人々の生活に大きな影響を与えた。


 それと同時刻、日が沈む間際の夕焼け時。世界が真っ赤に照らされていたこの時、港町レックルスからは絶海の孤島と呼ばれるラスファルト島の方角から天高く立ち上がる黒い柱が観測された。神の住む地といわれる天に向かって強大な剣が付き刺さるようなその光景を見た者は恐怖に怯えるしかなかった。



 ◆◆◆



 以上で第一章終了となります。閑話を挟みつつ、ある程度ストックが溜まり次第、次章を投稿させていただきます。ここまでお読みいただきありがとうございました!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る