エルフ
「あら、その美しいズワゥラス様の魔力を纏っていても、主様の魔力はしっかりと感じ取れます。そんなに驚くことではありませんよ」
俺の魔力を感じ取る? 確かに俺も以前父のことを魔力で判別したことはあったが、あれは日々の鍛錬でその魔力を感じ取っていたからだ。
それに俺だって馬鹿じゃない。黒騎士モードでは俺自身の魔力が【邪神の魔力】スキルの影響でバレないかどうかは盗賊さんの協力で確認済みだ。しっかり精神支配してから確認したので嘘つかれたこともないだろうし。
大体、俺の魔力なんて数分同じ空間にいたくらいで覚えるわけがない。俺だって未だに戦闘モードの父以外の魔力は誰が誰なんてわからないし、家でくつろいでいる状態では父かどうかもわからない。それくらい魔力で誰かを判別するってことは難しいものだ。
というわけで、そんなの嘘だ! きっと何かのスキルだろう!
俺に近づいて何が目的だ? おう、なんだやるか、こら。
警戒する俺をよそにミトは敵意の無い笑みを浮かべている。
「ふふっ、そういった反応をされるとわかっておりました。どうぞこちらをご覧ください」
彼女が何か念ずると俺の目の前にステータスが現れた。
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名前:ミト・ズゥレ・ソソララソ
年齢:107
加護:
・夢神の寵愛…稀に自らが望む未来を夢に視ることができる
生命力:821
魔力:2,834(+540)
力:301(+90)
精神:945(+540)
素早さ:1,194
器用さ:267(+60)
運:200(+120)
スキル:
弓術(Lv3)…弓を用いた攻撃に補正。力に+90。
風魔法(Lv4)…風魔法が使用可能。魔力、精神に+120。
植物魔法(Lv5)…植物魔法が使用可能。魔力、精神に+150。
闇魔法(Lv6)…闇魔法が使用可能。魔力、精神に+180。
精霊魔法(Lv3)…精霊魔法が使用可能。魔力、精神に+90。
占星術(Lv4)…星詠みによる占術が使用可能。運に+120。
薬師(Lv2)…薬品の生成に補正。器用さに+60。
ユニークスキル:
未来視…稀に世界のどこかで起きる未来を視ることができる。
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「ひゃ、百七歳!?」
表示された年齢に驚いた。だって百七歳って。目の前でほほ笑む彼女はどっからどう見ても二十歳くらいにしか見えない。
そういえば初めて他人のステータスを見たな。この数値って平均的に見てどれくらいなんだろう。魔法系のスキルが四つもあるためか魔力と精神に補正がかなりかかっている。
スキル数は七つか。一般的には多才な人で生涯に二桁の隙のスキルを取得できるかどうかってことだからそれなりに多い方なのか。それとも年齢的に考えればそうでもないのか。
スキルレベルは高いもので六。これが凄いことなのかどうかはよくわからん。
加護の【夢神の寵愛】とユニークスキルの【未来視】。なんとも巫女っぽいというか。いや、このスキルがあるから巫女なんだろうな。
聞いてみたいことはたくさんあるが、やはりこの年齢が気になってしょうがない。
改めて彼女、ミトに視線を向けると相変わらずの笑みを浮かべたままその黒髪を耳にかけた。
この世界にも異世界ファンタジー定番のエルフと呼ばれる人々が存在する。人という種の中でも特に魔力の扱いに優れたもの同士による選民思想によって生まれたのが彼等だ。魔法を扱える者達が婚姻を重ね、その末に神からの祝福を受けてエルフという種が生まれたと言われている。
魔力の感覚器官として尖った耳を持つ以外は外見での判断は難しい。いや、意図的か偶然かは不明だがその遺伝的要因によってその誰もが魅力的な外見をしている。
高い魔力の影響で寿命が格段に長く、成長が遅い。また遺伝的欠陥によるものか、子を成しにくい体質で人類全体に対する割合は低い。
排他的で自然崇拝主義の為、エルフ種以外の人と関わることが少なく、大都市でも見かけることは多くない。田舎に住んでいる俺も話には聞いたことはあったが実際にエルフを見たことは無かった。
なんで急にエルフについて説明しているのかって?
だって目の前にいるんだもの。尖った耳をもつ美女が。
そう、黒騎士モードの俺に対してレイブンと邪神を結び付けた発言をした邪神教の巫女。ミトと呼ばれていた女性がその長い黒髪を耳にかけると、明らかに俺とは違う尖った耳の持ち主だった。
「エルフを見るのは初めてですか?」
エルフというからには金髪や銀髪をイメージしていたんですが。いや、まあ、黒髪エルフもいいとは思うよ。うん。それに彼女はエルフのイメージとして半ば定着しつつあるまな板装甲ではなく、ローブを着ているのにもかかわらずその膨らみがわかる程度には胸部装甲をお持ちなので、まさかエルフだとは思わなかったのだ。
エルフなら年齢については納得だ。だけどステータスを開示したからといって俺が警戒を解く理由にはならない。なんでミトは俺にステータスを見せたんだ?
「私は聖神教の神官見習いでした」
唐突に始まる自分語り。それ長くなります?
「私の両親はエルフとしては変わり者で、エルフの集落ではなく人族とともに暮らしていました。私たち家族が住んでいたのは聖神教徒が多く住む地域でしたが精霊信仰のエルフも快く受け入れてくれていました。ですが私が十歳でステータスを授かると、どこからか私の加護とユニークスキルが聖神教の耳に入ったのでしょうか、私は半ば強引に家族から引き離され保護という名目で聖神教の聖地へと連れていかれ、神官になるための教育を施されました」
つらつらと話はじめる彼女。へぇー、そうなんですね。
聖神教といえば人族の中でも唯一教だもんな。実際神様からのお告げもあるみたいだし多少強引な手段を使ってももみ消したりできるんだろうな。
「しかし突然両親と離されたことが引っかかってしまい、聖神教そのものに疑念を持つようになってしまったのです」
聖神教も甘いな。無理やり連れてきたんなら子供だとしても洗脳くらいしなきゃ。というか価値観の凝り固まった大人に比べて子供なんて洗脳しやすいもんじゃないのかな?
今までも有能なスキル持ちを囲い込んでいたのだろうけど、そもそも「教え」という名の洗脳済みな聖神教の教徒から引っ張ってきていたから改めて洗脳するなんてことはしなかったのかな。
「そんなある時に私の加護である【夢神の寵愛】の効果が発揮したのです。この加護は私が望む未来を視ることができるというもの。そこで視たのはある人物と幸せそうに笑いあう未来の私。そしてその時にこの加護についての天啓を得たのです。この加護は本当に望むものがないといけない、また私自身の意思で発動させることはできないという制約があり、確定した未来ではなく導き出せる可能性の一つであるということを。家族から引き離され悲しみに暮れていた私にとって幸せな未来の可能性は甘く、逃すことのできないものでした。それからの私はあの光景を現実のものにするために、ユニークスキルの【未来視】を使い組織内で上手く立ち回り、稀に起きる【夢神の寵愛】による夢や占星術スキルで夢に視た人物の手がかりを求め続けました」
へ、へぇ。夢に一度だけ出てきた人を探し続けるというのは一途というか、凄い執念というか…。
「そしてある時に判明したのです、その男性が我らが神の生まれ変わりであるということが! その時に私は気が付きました。その男性に心身ともにお仕えするのが私の幸せなのだと!」
「それって…」
「はい、主様。もちろん貴方様のことです。お役に立てるように主様の好きな食べ物からお召し物の好みまでスキルを用いて出来る限り把握しております」
どことなく狂気を感じさせる笑みのまま、ミトはそう答えた。
あかん、あかん! めっちゃ美人さんだけどその行為と好意はストーカーに通じるものがあるぞ。
そのうち包丁持ち出して来て、あなたを殺して私も死ぬとか言い出さないか。
…いっそのこと消すか?
「ちなみに俺のことは誰か他の人に伝えた?」
「いえ、理由までは把握しておりませんが、主様はご自身の御力を隠したいご様子でしたので今日、この場に至るまで私の想いは胸に秘めたままです」
情報の漏洩はないと。ステータス的にも全力で襲い掛かれば…。
って、俺は何考えてるんだ! ちょっと怖いけど俺に好意を持ってくれている人を自分に不都合そうだから殺すなんておかしいだろ。
エルフとしての能力やこいつらの属している組織についての情報という点においても彼女とは良好な関係を気づいておくのがいいだろう。
彼女が俺に好意を抱く理由はとりあえず把握したがまだまだ聞きたいことはたくさんある。砦への転移が出来なくなったことや彼女が浴びていた大量の返り血、そもそも組織とはなんなのか等、盛りだくさんだ。
「ポータル」と呼ばれていたこの場所にいつまでもいるのも危険だし、とりあえず場所を移動するか。完全に気を許すつもりはないがミトのことはある程度は信用できそうだしな。
「とりあえず場所を移そうか」
そう俺が言った直後、ポータルに発生した歪から高出力の魔力がミトに向かって放たれた。
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