圧倒

「危ない!」


 念のため辺りを警戒していた俺はそう叫ぶや否や黒髪の巫女ミトを抱き寄せ、突如放たれた魔力の塊から彼女を守る。


 ミト目掛けて放たれていた魔力はそのまま壁に激突し轟音とともに爆発をする。


 粉砕された壁の破片で塞がれる視界。いや、それだけじゃないな。何かの魔法か? 埃と煙に包まれて数メートル先は見通すことができない。


 間髪入れず、ミトを抱き寄せたままの俺に向かって今度は複数の炎が向かってきた。


「くそっ! 【魔結界】! 【光弾】!」


 俺たちの周囲に結界が張られ、炎を防ぐとすぐに消え去った。


 【魔結界】、魔法系のスキルを覚えると使えるようになる防御魔法。その属性により多少異なるが基本的には込められた魔力と同程度の魔法を相殺できる簡易結界を作り出す魔法だ。


 そしてお返しとばかりに光魔法スキルの【光弾】を炎が放たれた方向に向かって放つ。光魔法スキルの中でも低位に属する魔法で光エネルギーを圧縮した攻撃魔法だが、黒騎士モードの俺が放てば謎の黒い稲妻のエフェクトが追加され威力もアップ。魔法抵抗が無ければ体に風穴が空くぜ。


「視界を確保します」


 【光弾】を打ち返しても依然視界は塞がれたまま。俺に抱き寄せられたままのミトが風魔法スキルで視界を遮っていた土埃を吹き飛ばした。


 なかなかいい動きじゃないか。


 クリアになる視界。するとそこには転移してきたであろう大柄で白銀の全身鎧を着た男と、白銀の鎧を着た男が二人いた。


 いや、正確には三人の白銀の鎧を着た男がいたのだろう。


 残りの一人は頭を掴まれ、大男の盾にされていたその腹部分の鎧は大きく凹んでひび割れており、手足はだらんと力なくぶら下がっているだけだ。


 おいおい、味方を盾代わりにするとはな。悪役っぽくて手加減の必要を感じないからありがたいぜ!


「【光弾】」


 こういう場面なら「何者だ!」と言うのがセオリーなのだろうが、どうせ謎組織の関係者だろうし問答無用で追加の反撃。


 しかし今度はお供Aが張った防御魔法によって防がれてしまった。


「あ、あれは。まさか、そんな」


 視界が晴れて相手が明らかになった途端に動揺し始めるミト。どうしたんだ。


「お気を付けください。あの鎧はカーディナルナイトの称号を持つ聖典四騎士のアルブム。その力量はAランク冒険者にも匹敵すると言われています。炎竜討伐で不在のはずだったのに…」


 Aランク冒険者、冒険者の中でも最上位の実力者。Aランクの魔物が都市を壊滅させるほどの強さなので、そのランクの魔物を討伐できる冒険者ってことだ。


 それ以外の単語はよくわからん。君たちが日常的に使う単語が世間の常識とは思わないでいただきたい。カーディナルナイト? 聖典四騎士? 中二が泣いて喜びそうな単語だな! 俺もわくわくしちゃうぜ!


 その男は白銀の鎧に二刀の剣を腰に下げている。二刀流とか格好いいじゃないか。


 怯えるミトを庇うように立ち、大剣を【裏倉庫】から取り出し構える俺に向かって、全身鎧を着ているとは思えないほどの速さで近づいてくる男。その両手にはいつの間にか鎧同様に輝きを放つ片手剣が握られている。


 衝突する白と黒。二振りの剣と打ち合う黒く染まった俺の大剣。


「ぐぅっ」


 一撃一撃が重い。【邪神の魔力】で強化されていても受けるのがやっとだ。しかも二刀流ということで手数が多い。


 昨今のラノベじゃお前みたいな見た目のやつは噛ませ犬程度の実力ってのが流れなんだよ! 強キャラ感を出すんじゃない!


 たまらず魔力を叩きつけ一旦距離をとる。魔法スキルを使う余裕なんてなかったので、ただただ雑な一撃。それでも無限の魔力を使える俺の一撃だ。


 多少の傷は与えられればと思っていたが相手は無傷だった。単純な一撃だけに避けられてしまった。


「なるほど」


 俺の攻撃を避けた男は何か納得したようにそう呟いた。


「おい、お前たちは装置が傷つかないように結界を張れ。いいかお前たちが身を挺してでも傷一つつけるなよ」


 俺の相手は自分ひとりで十分ってことね。


「貴様は何者だ! その女は我らを裏切り逃亡を図った者。邪魔をするならただではすまさんぞ!」


 渋めだが響くいい声でこちらに問いかけるアルブムという男。くそっ、せめてめっちゃブサイクであれ。もしくはめっちゃ体臭きついとか欠点があってほしい。


 っと。いかん、いかん。卑屈モードになってたぜ。


 まぁ、そんな感じで現実逃避したいくらいにはヤバいってこと。


 数合打ち合ってわかったが、剣の実力じゃ到底敵いそうにない。魔法攻撃も低位の魔法じゃ避けられて無駄撃ちになりそうだし、強力な魔法は溜めが必要なので隙ができてしまう。いっそのこと転移装置に魔法打ち込んで嫌がらせしてやろうか。


 いや、そんな余裕もなさそうだな。


「黙秘か。聖神教の回し者か、どこかの国の騎士か。まあいい、運よく生かして捕獲できればその体に聞いてやろう」


 俺が心の中で悪態をついていたら、死 or 拷問が彼の中で決まったらしい。なんて物騒なやつなんだ。


 恐らくアルブムの剣術スキルはかなり高いのだろう。それに対して俺の剣術スキルはレベル1。それでも先ほど打ち合えたのは武術スキルがマックスだからだ。前世の経験をもとに付与されたこのスキル。



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武術(Lv10 Max)…武芸全般の習得、実行に補正

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 転生チート様様だぜ。だがこのスキル以上にぶっ壊れてるのが闇魔法と光魔法スキルのカンスト兄弟と【邪神の魔力】による魔法コンボだ。


 【死と再生の神による加護】もあるからこの場で命を落とすってこともないだろう。


 ということでこいつでどうだ。


「【暗黒星雲】」


 闇魔法による全方位からの攻撃だ。大技ではないがこれだけ打てば避けることも出来ないだろう。距離をとったことを後悔するがいい。フハハハハハッ!


 俺の周囲に生まれる無数の黒い魔力。


 あれ、これってついでに転移装置も破壊出来て嫌がらせも出来るんじゃないか。やったぜ!


 黒の奔流が放たれる。これで全身穴だらけになるといい!


 だがそうは問屋が卸さないらしい。


「【絶対防壁】!」


 アルブムが叫ぶと彼を中心に光り輝く魔力が渦巻き、球体状に広がっていく。それは彼だけでなくお供AB、そして転移装置をも覆っていく。


 その光と接触した俺の黒い魔力は何の抵抗もなく消え去ってしまった。

 はっ?


 なんだよ! あれは! 魔法の無効化空間か? 剣技も強くて魔法が効かないとか無敵じゃないか! 反則だぞ!


「スキルか?」

「貴様に教えてやることなどなに一つもない!」


 俺の呟きにご丁寧に答えると一気に距離を詰めてきて再び剣戟を放つアルブム。なんとか防いでいくも浅いダメージをくらっていく。


 俺を覆うこの全身鎧風の物質化した魔力。本来であれば傷がついてもすぐに自動修復されるのだが何かのスキルの影響なのか、傷が直ることはない。


 おいおい、なんだよ、こいつ。めっちゃ強いじゃんか!


「それだけの魔力を帯びているからミスリルかと思ったがその強度、まさかミスリル合金か? 一体何の金属と。これだけの硬度と魔力を両立できる金属など聞いたことはない。一体どこで…。いやいい。殺すのは止めだ。貴様の正体、洗いざらい吐いてもらおう!」


 残念でしたー! 金属じゃありません。バーカ、バーカ!


 殺しにかかってくるのは止めてくれるらしい。これも加護のおかげなんだろうか。


「【煌円光破】」


 一歩距離が空いてラッキー、この隙に距離をとろう、そう思った矢先にアルブムが二振りの剣をクロスさせると光魔法の極大エネルギーが一瞬にして俺を包む。後ろに距離をとることしか考えていなかった俺にそれを避けることなんかできなかった。


「がはっ」


 【邪神の魔力】越しにでも伝わるその圧力。全身が押しつぶされるみたいだ。あっという間に肺から空気がなくなり指一本すら動かすことがままならないほどの威力。


 数メートル吹き飛ばされて壁に全身が埋め込まれる。


 こんなに実力が乖離した相手じゃなければマンガでよく見る光景だぜ、とはしゃげたがそんな余裕もない。


 全身に力が入らず、崩れ落ちるように倒れる俺の身体。


 くっそ、ここまで手も足もでないのは父の稽古で手を抜いたのがバレて「その根性叩きなおしてやる」とかいってコテンパンにされた時以来だ。


 いや、あの時の方が黒騎士モードではなく生身の身体に剣戟をくらっていたから、まだ今の方がマシかな。


 そう思ったら、なんだかまだやれそうな気がしてきたぞ。


 ありがとうパパ!


「うぐぅ」


 なんとか力を振り絞って体勢を立て直す。


 こうなりゃ、俺の奥の手の一つでこの施設ごと吹き飛ばしてやる。


 右手を前に突き出し、魔力を集中させる。


「まだ抵抗するか!」


 !


 突き出していた俺の右手。その手首から先は一気に距離を詰めてきたアルブムの剣技によって消失してしまった。

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