反撃開始

 ウルタと呼ばれているマント男とソルージアが転移装置によって生み出した歪みに消えると、魔石と魔法陣の光は消えその間にあった空間の歪みも消えてしまった。


「ちっ、魔力切れか。おい、充填にはどれくらいかかる?」

「お前たちと俺の分で十五分ってとこか。こっちが充填待ちというのはウルタ様にもわかるだろうしこればっかりはどうしようもねぇ。ゆっくり待とうや。それよりも巫女様可愛かったなぁ」

「あれだろミト様って、あまりに可愛すぎて能力は程々だけど教皇様の愛人枠で巫女になったってのは」

「おい、不敬だぞ!」

「悪い悪い、けど実物見て思ったわ。あんだけ可愛ければ教皇様だって放っておかないだろ」

「いい加減にしろよ!」


 モブがいがみ合っているが気にしない。というかこの隙に少し移動して魔道具の影を【影移動】の座標に登録する。実はこっそりとガニルムの倉庫地区でも座標登録をしてある。



---------------------

影移動

・座標に指定した影と影を自由に行き来可能。

・影の座標は最大5つまで登録できる。生物、無生物のどちらでも可能。

・六つ以上登録した場合、古いものから上書きされる。

・座標指定がされていない状態で使用した場合、世界のどこかの影に移動。

---------------------



 【影移動】の座標には秘密基地、絶海の孤島ラスファルト、自分の影を登録していたのでこれで五つの座標登録をしてしまったことになる。古い座標から上書きってのは案外厄介だな。自分の影はともかくラスファルト島なんかは一回上書きしてしまうと二度と行けない気がする。人が寄り付かないあの島は結構重宝しているんだ。


「おい、もう溜まったぞ」

「ちっ、この続きは戻ってからだ」


 どうやら転移に必要な魔力が溜まり、再度転移が出来るようになったようだ。モブたちは不毛な言い争いを止めた。巫女を馬鹿にされたモブBはまだ何か言いたそうだけど。


「さぁ来い!」


 乱暴に拘束具を引っ張られて移動させられる俺。くそぅ、モブめ、マジで許さんからな。


 そのまま緑色に光る魔法陣の上を進み、空間の歪みへ。視界が歪むと次の瞬間には先ほどの半球状の部屋ではなく立方体の部屋の中心にいた。


 部屋には窓はなく壁に埋められた明かりの魔道具で照らされている。先ほどの空間と同じような転移の魔法陣と部屋の四隅にそれぞれ設置されたこれまた同様の魔道具。天井にはポータルと呼ばれていた施設にあったものに比べると一回り程小さいが、巨大な魔石が埋められていた。


 他には閉じられた両開きの扉があるだけ。先に来ているはずのウルタとソルージアの姿はない。転移先でも魔力の補充中というのはわかるとの話だったので先にどこかへ行ってしまったのだろう。


 つまりこの部屋には俺とモブBのみ。


 ちゃーんすっ!


「うぇ!?」


 身体強化を一瞬で発動し両手を拘束していた拘束具を引きちぎる、そして無防備に扉へと歩くモブAの体に近づき、全力で闇魔法の【精神操作】を放つ。


 この魔法は抵抗力の高い相手に対しては大した効果はない。だが通常発動時以上の魔力を無理やり込めて発動した場合、精神崩壊させて廃人化させることになる。


 他にも戦闘不能にする方法はあったが、魔法陣や魔道具を傷つけたくなかったし、血で汚すのも不具合が起きる可能性があると思ってこの方法で無力化した。


 とりあえず部屋の隅、魔法陣の描かれていない床までモブBを移動させてモブBが持っていた片手剣で胸を一突き。


 続いてやって来たモブAも転移直後の油断しているところを昏倒させてからサクっと殺る。


「貴族の誘拐は死罪だからね、仕方ない」


 そう、イリュシュ王国では貴族の誘拐はご法度だ。この場合問答無用で打ち首となる。


 だから俺が対処したっていいよね。うんうん。


「あっ! しまった、生かしておいて転移装置の使い方とか、他にどこにあるのかとか聞いておけばよかった。その前に組織とやらのこととか教えてもらうチャンスだったのに…」


 仕方ない、誰か他の人を見つけて教えてもらうか。【精神操作】でね。


 とりあえず誰に目撃されてもいいように黒騎士モードに換装っと。


 開放された【邪神の魔力】が俺を覆い、物質化された黒い魔力によってフルプレートメイルを着こんだような見た目になる。


 いっそのこと邪気も一気に開放してやろうかとも思ったが他にも捕まっている人がいるかもしれないし止めておこう。この場所を聖神教に特定させるのも面白いかと思ったが心優しい俺は自分以外の捕虜についても考えてあげられるのだよ。


 【裏倉庫】から抜き身の真っ黒い大剣を抜く。これはどこかの盗賊が使っていたものを何度かその後の盗賊狩りや魔物退治で使っていたら【邪神の魔力】の影響で禍々しく変貌した大剣だ。ただの鉄だったものが切れ味、強度抜群の一品になってしまった。


 俺としては父から手ほどきを受けている片手剣の方が扱いやすいのだが万が一、太刀筋から俺に行きつく可能性もあるかもしれないということで大剣を使っている。剣術スキルは大剣にも適用されるしスキル的には問題はない。


 フルプレートメイルに大剣とかカッコいいしな!


 え? 目撃者は皆殺しなんじゃないかって? いやいや捕まっていた人とか無理やり従わされていた奴隷なんかは助けてあげる意向ではある。


 扉の先にいた警備兵らしき男は俺に気づくや否や警笛を鳴らそうとしたのでぶん殴って行動不能にした。


 勢いあまって首から上が吹き飛んだ死体はとりあえず転移装置のあった部屋の隅に投げ入れておく。部屋の隅には排水用なのか溝があったので血で魔法陣が汚れることもないだろう。


 扉の前の肉片や血は生活魔法できれいさっぱり。


 【邪神の魔力】解放中の生活魔法はとてつもない威力になるが、この【清掃】も同様。


 あっという間に汚れが落ちていく。なんだか壁や扉の装飾が禍々しくなったのは気のせいだろう。


 …副作用なんてないよ。


 扉の先は廊下になっており所々の小窓からは薄っすらと明かりも差しているが、廊下を照らすのはほとんどが魔道具によって生み出された明かりだ。


 闇魔法の【隠者】で隠れながら進むが人の気配が全くない。


 魔力を広げて気配察知を試みるが何かに阻害されているようで何もつかめない。


 俺はどうにも奇妙な感じを受けながら謎の建物内を進むのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る