領都へ

 初めての盗賊討伐で味を占めた俺はその後も盗賊退治に精を出すことにした。だが最初の盗賊ほどお宝を貯めこんでいる賊はおらず、規模も精々十人程度の盗賊団しか相手にすることはなかった。やっぱり田舎だからかな。


 ちなみに遺体はゾンビ化したらいけないのでしっかりと処分しているので、兵士や討伐を依頼された冒険者が住処を見つけても血痕があるだけでもぬけの殻。ガナン辺境伯の一部領地では助け出された人の証言から、黒騎士と呼ばれる謎の盗賊殺しの噂がまことしやかに囁かれているとかなんとか。


 盗賊以外にも魔物を見つけたら討伐するようにはしており、半年間、いや実際に狩り始めたのはここ数か月のことか、で俺のステータスも少し変化している。



---------------------

名前:レイブン・ユークァル

年齢:10


加護:

・死と再生の神による加護…成人するまで運に限定補正、闇系統、光系統の魔法適性に補正、前世の経験を持ち越し

・邪神の恨み…魔物に襲われやすくなる、闇系統の魔法適性に補正


(カッコ内の+がスキル補正で加算されている数値、表示はスキル補正が反映されたもの)

生命力:450/450(+300) → 482/482(32 up)

魔力:1,730/1,730(+730) → 1,746/1,746(16 up)

力:420(+330) → 457(37 up)

精神:10,350(+850) → 10,352(2 up)

素早さ:410(+330) → 430(20 up)

器用さ:1,470(+870) → 1,479(9 up)

運:100(+∞、成人までの限定補正) → 101(1 up)


スキル:

剣術(Lv1)…剣を用いた攻撃に補正。力に+30。

体術(Lv1)…体捌きに補正。素早さに+30。

武術(Lv10 Max)…武芸全般の習得、実行に補正。生命力、力、素早さ、器用さに+300。

生活魔法(Lv1)…生活魔法が使用可能。

植物魔法(Lv1)…植物魔法が使用可能。魔力、精神に+30。

闇魔法(Lv10 Max)…闇魔法が使用可能。魔力、精神に+300。

邪道魔法(Lv1)…邪道魔法が使用可能。魔力、精神に+100。

光魔法(Lv10 Max)…光魔法が使用可能。魔力、精神に+300。

統治(Lv4)…自領を発展させる行動、部下の人心掌握に補正。精神、器用さに+120。

算術(Lv10 Max)…計算に補正。器用さに+300。

言語(Lv5)…言語習得に補正。器用さに+150。

ちーと(Lv1)…ちーと☆。


ユニークスキル:

邪神の魔力…開放時に邪神の力を纏う。魔力を無限に使用可能。

---------------------



 微増。


 微妙。


 備考、スキルレベルは変化なし。


 はい、ということでね。思ってたよりも全っ然上がらないんだよ。


 そもそも、他の人が魔物を倒したときにどれくらい上昇するのかってのがわからないからなぁ。せめて他の人の数値が知りたかったから両親のステータスを聞いたことはあるんだけど教えてくれなかった。


 どうやら他人のステータスを聞くのは失礼にあたるらしい。鑑定的なスキルか魔法はあるはずなんだけどなー。


 そうそう、ステータス関連でいうと、【邪神の恨み】の魔物に襲われやすくなる効果は異常だった。


 気付かれなければ問題はないけど、視覚でも嗅覚でも魔力でも、何かしらでこちらの存在を知った魔物は問答無用、他に獲物がいようと、魔物同士で争っていてもお構いなしで俺に向かってくる。いくら傷つけてもその敵意は収まることはなく、命の限り俺に襲い掛かってくる。まさに狂気。


 おとりとしては有能だな、俺。


 そんなことを思いながら、外の景色を眺める。相変わらず面白みのない景色が馬車の車窓を流れている。ガナン辺境伯が住む領都は俺が住む村からは馬車で四泊五日の旅路である。途中の村々に視察で寄らなければいけないので通常の旅程よりも時間がかかるのは貴族だから仕方ないか。


 ちなみに魔法を使った早馬で一日半程度。【影移動】が使えれば一瞬だ。


 そしてまだ家を出て二日目、あと三日もあるのだ。父と四六時中行動を共にしないといけないのでこっそり【影移動】でラスファルト島に行くことも出来ない。せめて盗賊襲来などのイベントが起きてくれないだろうか。


 と、淡い期待を抱いてたのだがアクシデントは起きないまま領都への到着となった。


 領都は十メートルほどの城壁に囲われている城郭都市だ。城壁の上には大砲のようなものが設置してあり、兵士が巡回している。


 その入口は巨大な門となっており、入都審査を待つ人が列を作っていた。


 城壁の外側にもいくつか宿や兵舎があり、宿は開門時間に間に合わなかった人向け、兵舎は魔物退治のために周辺を巡回している兵の為のものらしい。城郭都市を珍しそうに俺が見ていたら父が教えてくれた。年甲斐もなく、いや子供だから問題ないのか、御者の横に座らせてもらい間近になるにつれその存在感を増す城壁に目を奪われていた。


「おお、なんて立派な…。あれ? 並ばないんですか?」


 行列を無視して進む御者に尋ねる。


「ええ、大きな街には貴族様用の受付がありますのでそちらへ向かいます」

「へぇ」


 権力万歳。田舎貴族とはいえそれなりに恩恵はあるんだな。


「レイブン、珍しいのもわかるが、そろそろこちらに戻れ」

「はぁい」


 そうだよな、流石に貴族のお坊ちゃんが御者席にいるのはみっともないか。


「ユークァル男爵家、タトエバン男爵様とご子息のレイブン様である」


 御者がそう門番の人に告げると周囲でざわつきが起きた。ちなみにうちの馬車は貴族用に誂えられたものだが家紋は小さく目立たないように刺繍されているのでぱっと見はどの貴族か、そもそも貴族が乗っているかわからない。


「おぉ、タトエバン様ですか、遠いところよくいらっしゃいました。拝謁願えますか」

「よろしいでしょうか?」

「あぁ、構わない」


 順に門番、御者、父の発言だ。貴族が来た時用のよくある流れというやつなのだろうか。皆慣れた感じだ。


 馬車の扉が開けられ、金属製の軽鎧を身につけた青年が父を確認し敬礼をした。


「タトエバン様、ようこそ領都ガニルムへ! ご無沙汰しております」

「トムか、息災のようだな。稽古は欠かしていないな?」

「はっ、長旅でお疲れのところ申し訳ありませんが、このまま辺境伯様の元へ案内するよう申しつかっております」

「そうか、では案内頼む」

「はっ」


 トムと呼ばれた兵士は扉を閉じると、出迎えで来ていたのであろう馬に乗った騎士に「タトエバン・ユークァル男爵様のご案内を」と伝えて駆け足で去っていった。


「お知り合いですか?」

「領兵に剣術指南を定期的にしているからな、大体の兵は知っている。それにあれの父も兵士でな、トムのことは小さい頃から知っている」


 騎士上がりの貴族である父はその能力を買われて剣術指南という役職でもある。皆、あの地獄のような訓練をしているのだろうか。兵士すげぇな。


「あぁ、お前への稽古は特別だからな、剣術指南として兵にはあまり過酷な訓練はさせていないぞ」


 俺が日々の稽古を思い出して遠い目をしていると、何かを感じた父がそう訂正してきた。


 左様でございますか。


 大型の馬車がすれ違っても余裕のある道幅の石畳で舗装された大通りを直進する。正面から見えるのはこの領都の象徴ともいえる濃紺の石材で建てられた砦だ。


 領都ガニルムの近くでのみ採掘される特殊な希少鉱石であるガニルム鉱。硬度は低いが魔法抵抗が非常に高い。これを細かく砕いた塗料は特殊な魔道具の材料として使われている。非常に高級な塗料をふんだんに外壁に使用したこの砦はガニルム辺境伯領の名所としても有名である。因みにこの砦の隣には大きなお屋敷があり、辺境伯はそちらに住んでいる。


 砦は二重の壁で囲われており、馬車が入れるのは外縁の壁まで。そこで馬車を降りた父と俺は案内係の騎士に連れられて内壁に設置された門を通る。砦の中は特に装飾はなく所々に鎧が置かれていたり武器が立てかけられていたりするだけ。すれ違うのは明らかに文官らしき人と兵とみられる体格のいい人が半々といった割合か。


 辺境伯が治めているこの土地は、南西部に広がるダイベル山脈と麓に広がるダイベル大森林、南東部を隣国に囲まれたイリュシュ王国の要衝。ダイベル大森林には多くの魔物が住み着いており、隣国とは不可侵条約を結んでいるものの油断はならない関係だ。


 因みに俺が住んでいる村は辺境伯領の中心に位置するここガニルムから北西にあり、村の西側にはダイベル山脈が広がっている。辺境伯領の南に広がるダイベル大森林と違い、ダイベル山脈から東に広がる山林にはあまり魔物は生息していない。魔物被害という面では比較的安全な地域である。まぁ、その所為であまり魔物を狩ることが出来ずステータスアップが捗らないのだが。


 いかにも質実剛健といった内装の廊下を進み、入口を青い鎧に身を包んだ騎士が護る部屋に通された。開け放たれた扉の先にはこの砦が似合う顔に無数の傷跡を持つ白髪の男性とその脇に立つ三名の文官が何か話をしていた。


「タトエバン・ユークァル男爵とそのご子息をお連れしました!」


 辺境伯との面会に十歳の跡継ぎでもない俺を同席させるのは通常はありえない。だが今回、俺と父がこの領都を訪れたのは辺境伯への俺のお披露目が目的である。


 特別な事情がある、ということではなく領内の貴族の子が十歳を迎えステータスを授かったら辺境伯へ紹介するというのがしきたりとしてある。ただ会って終わりではなく辺境伯邸で会食をしたり各所へ挨拶したりする。貴族としての自覚を身につける云々。面倒くさいことこの上なしだ。領によってはお披露目パーティーが催されることもあるそうなのでまだマシと思うしかない。


 本来は十歳になって早い段階でお披露目があるはずなのだが、邪神復活のゴタゴタがあり先延ばしになっていたのだ。原因の身としては関係各所に労いの言葉でもかけて回りたいものである。嘘です、黙秘します。


 案内役の一言でこちらに気が付いた辺境伯。


「よく来たタトエバン。それが例の子供じゃな」

「はっ、ダンテ様。ユークァル家の三男のレイブンです」


 緊張しているというよりかはどこか仲のいい友人のような雰囲気の二人。母の話だと父が男爵位を叙爵した際もこのダンテ・ガナン辺境伯の強い推薦があったそうだ。


 ズブズブの関係というやつですな、父上。


 山賊と見紛う我が父と比べても遜色のないその筋肉。数々の武勲を立ててきたと言われるその剣技は未だ健在なのであろう。気配察知を頻繁に使っているからか最近はなんとなくの力量というか、こやつ出来る、みたいな感覚がわかるようになってきた。


 うん、こやつ出来るな。


「タトエバン・ユークァルの子、レイブンでございます。ダンテ・ガナン辺境伯様」

「ふむ」


 俺のことを興味深そうに見つめた辺境伯は口角を上げ、その直後魔力を全身に巡らせた。


 うぇっ??

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る