邪神復活だってよ

 凄いっちゃ、凄いし、確かに俺Tsueeeeee!だけどさ。


 …これじゃないんだよなぁ。


 それにいくら【邪神の魔力】が凄くても、スキルレベルが高くても、魔力や精神が高くても、俺の生命力は一般人に毛が生えた程度。


 そもそもステータスの生命力はただの指標にすぎない。この数値が高ければ強い攻撃にも耐えられるが、それは意識して防御した場合に限る。不意打ちで急所に攻撃をくらえばいくら生命力が高くても即死は免れない。数値は高いに越したことないので今後上がってほしいところではあるけど。


 まあ、あの霧の孤島にたどり着けたのは幸運か。今日は【邪神の魔力】の異常さに驚きすぎて早めに切り上げちゃったけど、まだ検証しなくちゃいけないスキルや魔法はたくさんある。


 歩きながらチラリとステータスを見て、とあるスキルの説明文を注視する。



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ちーと

・ちーと☆

・異世界召喚の為に創られたスキル。

・安易に「チート」を欲しがる愚者に与えられる。

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 これな。


 神様からの手紙では元々この世界に存在していたスキルということだ。この説明文からわかるのは、異世界召喚があるということ。そしてスキル自体は愚か者呼ばわりされるだけで効果がないということ。


 このステータス画面での説明文表示は俺だけに与えられた特殊なもの。


 つまり、この【ちーと】スキルを与えられた召喚者はどんな効果かわからないはず。異世界に召喚しておいて、安易にチートくれって言ったら役に立たないスキルを与えるってこの世界の神様、性格悪くない?


 いや、そりゃ異世界召喚イコールチートスキルって安直に考えすぎかもしれないけどさ。それくらいいいんじゃねーの?


 とにかく死にスキルだってことはわかる。無害なのが幸いか。


 そんなこんなでようやく屋敷の門が見えるところまで帰って来た。そろそろおやつの時間かな。


「レイブン様!!」


 門の前には護衛騎士のカッツが立っている。出迎えご苦労。


 だが、いつもと様子が違う。顔色もよくないし何か慌てて魔道具を操作している。あれは屋敷に何かを知らせる魔道具だったはずだ。


「ご無事ですか? 体調は大丈夫ですか?」


 魔道具を操作した後、こちらに駆けつつ尋ねてくる。護衛騎士のカッツは父タトエバンの騎士学校時代の同級生。つまりそこそこのおっさんだ。そんなおっさんが心配顔でこちらに駆けてくる。変な迫力があるな。


 一体どうしたんだ? 別に体調を心配されるようなことはないはずだ。屋敷を出る時も「遊びに行ってくるねー」とお子様スマイル全開で挨拶したし。


「えっ。うん、大丈夫だけど。何かあったの? カッツこそ顔色がよくないみたいだよ」

「なんと! あの邪気を受けて平気とは! 流石です。しかしご自身で気が付いていない不調があるかもしれません。お屋敷でお休みください」

「あ、あぁ。ありがとう?」


 うん? 邪気? 


 なにやら不穏な単語が出てきたな。


「ねぇ、邪気って…」

「レイブン!」


 邪気についてカッツに尋ねようとしたら、玄関から出てきた母に遮られてしまった。


 カッツほどではないけど母の顔色も少し悪いみたいだ。


「お母様? どうかしました?」

「無事? 何もない?」


 そういって俺の顔や体をぺたぺた触って何もないことを確かめている。


「カッツにも聞かれたけど何かあったの?」

「あなたは邪気を感じなかったの?」

「奥様、邪気と言ってもレイブン様には伝わらないのかもしれません」

「あぁ、そうね。そうよね。この子は邪神が封印されてから産まれたのよね。ねぇ、レイブン、あなたがお屋敷をでてからしばらくして気分が悪くなったりしなかった? 急に怖くなったり震えたり何か無かった?」

「…二時くらいのこと?」

「えぇ、そうよ」


 あー。あれだ。どちらかというと浮かれ気分になってましたね。すぐに精神的な疲労感でいっぱいになったけど。


 【邪神の魔力】の説明分を思い出す。


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邪神の魔力

・開放時に邪神の力を纏う。魔力を無限に使用可能。

・開放中、世界に邪神の存在を示す。

・生物を殺害した時にステータスアップ。

・一定期間開放しないと暴走し、その身を邪神の魔力に滅ぼされる。(残り…

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 これかな? この「世界に邪神の存在を示す」ってやつかな? うん。それ以外に考えつかないな。俺はてっきり、「この世界の神様にどこそこで邪神が復活したようだ、精鋭部隊を送り込んで討伐するのじゃ!」的なイメージで位置情報を神様的なサムシングに送るGPSみたいなのを想像していたんだけどな。どうも思っていたものと効果は違うらしい。


「ぁ、あぁ、そういえば木陰で昼寝をしていたんだけど、気分が悪くなって目が覚めたんだ。それで屋敷に戻って来たんだけど…」


 真っ赤なウソである。


「それが邪気よ」

「邪気?」

「そう、邪神が発する特殊な魔力のことよ。邪神が封印される前は不意に発するこの邪気で多くの人が体調不良になっていたの。封印されてなくなったと思っていたのだけど…」

「奥様、しかし邪神の封印はまだ」

「封印が解かれるのは数百年先、そのころには邪神は封印の力で弱体化しているはずだった…。ここで私たちが気にしても何も変わらないわ。なにか辺境伯様経由で情報が来るでしょう。カッツ、レイブンも戻って来たことですし、あなたは村を回って異変が無いか確認してきて頂戴」

「かしこまりました」


 カッツは門を閉じると駆け足で去っていった。


「邪神が復活したってこと?」


 恐る恐る母に尋ねてみる。


「まだわからないわ。邪神の眷属かもしれないし。きっと聖神教へ神託が下りているはずよ。大丈夫、邪気の発生場所はすぐに特定されるはずだもの」


 位置情報は発信していたのか。邪神GPS機能はあり、と。ここから遠く離れた場所で試して正解だったな。


「姉様やライアンは?」

「ライアンはしばらく泣きっぱなしだったのだけれど、泣き疲れたのか今は夢の中よ。ハンナは邪気を感じはしたようだけど体調は問題ないみたい。今はタトエバンと二人で村を見回っているわ。やっぱり【神聖魔法】スキルがあると違うのかしらね」


 そっか、と気の無い返事をした俺は母に連れられて屋敷の中に入る。メイド長のヘンリエッタは気分が悪く休んでいるそうで、サブルスが入れたお茶を飲みながら邪神について母から話を聞いて過ごす。


 邪気について、邪神の討伐についてなど。うちの両親は邪神を封じた勇者と面識があったようで本よりもいろんな話を聞くことが出来た。父のタトエバンと母のソンナの馴れ初めや父が爵位を授与された話にも繋がっていたので、日が暮れて父と姉が帰宅するまでその話は続いた。


 最終的にはいかに父が素敵だったか、という惚気話を延々と聞かせられてうんざりしたが。


 村人のほとんどが邪気によって体調を崩していたらしく、症状の酷い人へ神聖魔法の【浄化】をかけて回ったそうでいつも元気な姉が珍しくグッタリとしていた。


 父に抱きかかえられながら帰ってきた様子は、まるで誘拐された娘と攫ってきた山賊のようだったことは心の中にしまっておくとしよう。




 それから二日後の早朝、辺境伯から早馬で報せが来た。




 聖神教から全世界へ通達。邪神復活を確認。全ての国家、および組織はこれを討伐すべく協力されたし。



 ━━━━━邪神認定いただきましたー。

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