家族とステータス

 ユークァル男爵家。この小さな村を治める貴族。貴族と言っても村人よりも少し大きな家に住み、この村を含め周辺の農村をガナン辺境伯の名代として治めているだけの田舎貴族。


 家長はタトエバン・ユークァル男爵。元は平民出身だが王国軍での活躍により爵位を授与された元騎士。筋骨隆々な体に髭面強面のまるで山賊のような風貌だ。四十二歳となる今でもその強さは衰えることはない。


 そしてこの家の影の権力者、もとい、タトエバンの妻であるのがソンナ・ユークァル。結婚前はどうやら魔導士として活躍していたらしい。


 長男はオルチジャン・ユークァル。十八歳。現在は父タトエバンの後を継ぐためガナン辺境伯の元で文官として働いている。


 次男はセッテイン・ユークァル。十四歳。父の才能を色濃く継いだ彼は王都にある騎士の養成をしている騎士学校に在学中だ。


 長女であるハンナ・ユークァル。十一歳。神聖魔法という非常に稀なスキルを持つ彼女はこの春から魔法研究が盛んな都市にある魔法学園に通うためこの家を離れることが決まっている。


 そして三男である俺。明日には十歳になる。そう、この世界に転生してから早くも十年の月日が経とうとしている。余談だがこの世界の一年は地球と同じだ。時間の経過や四季の訪れも同様。唯一の違いは夜になるとわかる月(この世界でも衛星を月と呼んでいる)が二つ並んでいるくらいだ。それぞれ赤き月と青き月と呼ばれている。


 ちなみに生まれてからしばらくして記憶が戻った、とかではない。おぎゃあと生まれ出でた瞬間から記憶はありましたよ、この野郎。恥辱にまみれた乳児期を耐え、異世界からの転生者であるとバレないよう、怪しまれないように細心の注意を払って幼児期を過ごしたこの十年。長いようであっという間だった。


 剣と魔法の世界であるこの世界で十歳まで生きるというのは大変らしい。死と再生の神が別れ際に言っていたように、この世界の平均寿命は短い。それは主にこの世界にいる魔物のせいだろう。


 王都や大都市は別として、王国に点在する村々には魔物と戦えるような人材は精々数名程度。どこそこの村が魔物に襲われて壊滅した、なんて話は珍しいものではない。


 この世界で生きるには魔物に負けない力が必要なんだ。


 魔物はその生態や強さによってランク分けされている。


Fランク…スライムや虫型の魔物など武器さえあれば一般人でも怪我はするが対処可能


Eランク…ゴブリンやウルフなど知恵を持つ魔物。一般人は逃げることが推奨されている。


Dランク…特殊な能力や魔法を扱う魔物。戦闘訓練をした一般兵でも数人がかりでないと討伐できない。


Cランク…Dランク以下の魔物を従えることが出来ほどの力を持った魔物。実力者でないと太刀打ちできない。


Bランク…強大な力を秘めた魔物。討伐には多くの犠牲を伴う。


Aランク…一つの都市が壊滅するレベルの魔物。数体現れれば国家の存続にも関わる。もはや天変地異レベル。


Sランク…大陸が滅亡する可能性を秘めた魔物。現在も数種類の存在が確認されている。


EXランク…魔王級とも呼ばれ、世界が滅亡に瀕するレベルの魔物で過去出現がされた場合、人類はその文明を大きく後退させるほどの損害を被ったらしい。


 こんな感じだ。魔物の討伐や未開の地の探索を生業にしている冒険者も存在している。うちの村にも稀に冒険者がやってくるときがある。どうやら両親と知り合いらしく、数日間我が家の客間に泊まっては何かを探しに村の西にある森を探索していたりする。


 そしてこの十年というのは大きな意味を持っている。この世界では皆十歳になるとステータスが見えるようになる。そして生まれながらに持つスキルが開花する。スキルは後天的に覚えることも可能だが、多才と呼ばれる人でも生涯に二桁のスキルが取得できるかどうかだ。そのため、多くの人は十歳で授けられるスキルに関係した生き方を選ぶことになる。


 ハンナ姉さんなんかはいい例だ。お転婆で兄さん達に混じっては剣術稽古をしていた姉さんだったが、十歳の時に神聖魔法のスキルが開花してからは魔法の修行一辺倒だ。神聖魔法は非常に珍しいスキルで回復の他、バフや攻撃など多彩な魔法を高威力で放つことが出来る。後天的に得ることが非常に珍しいとされていてこの魔法が使える人はそういない。


 あまり詳しくは知らないが、父さんは剣術や体術、母さんは水魔法と風魔法、兄さんたちは剣術のスキルを持っているらしい。


 戦闘に関するスキル以外にも、鍛冶などの生産系のスキルや統治といった文官系のスキルもあったりする。魔法はスキルが無いと発動できないが、剣術や鍛冶などスキルが無くても剣は振れるし鉄は打てる。しかしスキルがあれば補正が入るのでやはりスキルがあったほうがその職に向いているのだ。


 一般的なスキルを加味しない成人男性のステータスはこんな感じだ。


生命力:100/100

魔力:40/40

力:30

精神:20

素早さ:30

器用さ:40

運:20


 そして剣術スキルをもつとこうなる。


生命力:100/100

魔力:40/40

力:60(+30)

精神:20

素早さ:30

器用さ:40

運:20

スキル:

剣術(Lv1)…剣を用いた攻撃に補正。力に+30。



 こんな感じで関係するステータスにプラス30の補正が入る。元々力が30だった人はスキル補正によって60となる。十歳という年齢でこの上がり幅は大きい。だからこそ十歳の時に得たスキルを活かせる職に就くのだ。


 ステータスの各項目は生命力が高ければその分強い攻撃に耐えられる、前世のゲームでいうところのHPと体力が合わさったようなものだ。まあ、いくら生命力が高くても心臓を一突きにされたり、首をはねられたりすれば即死してしまう。魔力は高ければそれだけ多くの魔法が使えるし、力が高ければ物理ダメージが高くなり、素早さが高ければ早く動ける。精神はいわゆる心の強さだ。器用さが高ければいろんなことをそつなくこなせるようになる。運がいいと致命的なダメージでもかすり傷で済んだり、勝負事で自分に有利な結果を引き寄せやすくするらしい。


 ステータスを上げるにはいくつかの方法がある。一つは先に述べた様にスキルを取得する方法だ。スキルによる補正は重複する。剣術スキルと体術スキルがそれぞれレベル1あれば、剣術で30と体術で40の合計70が力のステータスに補正される。しかし後天的にスキルを習得するには膨大な時間と鍛錬が必要だ。


 もしくはスキルレベルを上げる。剣術スキルがレベル1だと力への補正は30だが、レベル2になれば60の補正がつく。


 そしてもう一つは魔物を倒すことだ。魔物を倒すとその力を取り込みステータスが微増することがある。上級貴族なんかは冒険者を雇ってパワーレベリングでステータスを無理やり上げるそうだ。


 あとは日々のトレーニング。これでもわずかながら上昇するらしい。


 そして明日は俺の十歳の誕生日。神様の言う通り、この十年は大きな問題もなく過ごせた。この世界の成人は十五歳だ。恐らくあと五年は神様の加護があるはずだ。


 この十年、どうやったら神様に言われた五十年を生きられるかを考えてきた。もちろん危険な目に遭わないようにするのが一番いい。だが、魔物が溢れるこの世界。それは難しい。だったらどうすべきか。


 そう、どんな魔物が来ても勝てるくらいに強くなればいいんじゃないかって。


 戦闘系スキルがあれば魔物を倒してステータスを上げることが出来る。ステータスが命に直結するこの世界。戦闘系スキルを取得して魔物をガンガン狩って死なないようにする。あと五年の間に。神様を信じればあと五年は加護があるはず。その間に多少の無茶をしても出来る限りステータスを上げ、残りの余生を隠居して過ごす。こうすれば「運命の死」を迎えられるはずだ。


 幸いにも我が家は戦闘民族の血を引いているに違いない戦闘一家だ。武芸でも魔法でもいい、とにかく戦いに関したスキルが欲しい。


 そのための準備もばっちりだ。父さんに習って剣を扱えるようになった。魔法は使えないけど、母さんに魔法に関する知識は教えてもらった。それに前世で叩き込まれた護身術も忘れないようこっそりと修行している。


 そしてなにより、俺には神様から与えられたすぺしゃるなぱぅわーがあるはず。


 準備万端、気合十分、よっしゃー! かかってこいステータス!


 えっ、俺の名前? 俺の名前はレイブン・ユークァル。


 あん? 「誰がよくある例文」だって?

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