夏のまれびと
笹折の握り飯二つには実山椒が混ぜ込まれていた。あの辺りで採ったのだろうと頭に浮かべつつ、沢のほとりの岩にあぐらをかいて頬張る。あっという間にたいらげ、せせらぎに足を浸して涼んでいると、背後で石を踏む音が鳴った。若い鹿がおずおずと近づいて鼻をすり寄せてくる――なんとはなしにまだ持っていた、握り飯を包んでいた笹に。差し出してやった葉を鹿は恭しく食み、鹿なりの一礼をして去っていった。物怖じしない上に折り目正しい奴だ。いや、勘づいていたのだろうか。握り飯をくれた老婆や里人だって、多くを問わず慇懃に送り出してくれた。山の神が旅人のなりをして時たま現れるというのは、獣も人も言い継ぐところなのかもしれない。
毎月300字小説企画 第6回(2023.6.3)
お題「折る」
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