一葉、南へ
数十秒が気の遠くなる長さに思えた。息を詰め、拳を握って動かず、終わりの合図があった時には倒れそうになった。体も顔つきも硬くして座る自分たちを見た時は、おかしいやら恥ずかしいやらで友と顔を見合わせた。結局友だけが買い求めたその写真が今、自分の懐にある。
息を詰め、拳を握って動かず、茂みの向こうへ目をこらす。隊列が去ってから数呼吸ののち、倒れそうな体を叱咤して駆けだした。
故郷へ届けてほしい。折れた写真を放した手は土の上に落ちた。その夜に陣営を抜けた。敵味方のどちらに見つかってもどうなるかしれないなら、敵しかいないのと変わらない。走る。たとえたどり着いた先で臆病者と罵られるとしても、ひたすらに。南へ。
毎月300字小説企画 第5回(2023.5.6)
お題「待つ」
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