爛漫の旅を行け

 散歩日和だ。お気に入りのオーダーシューズで外に出た。甲高な足にも馴染み、どこまでも歩ける気にしてくれる。スマホも持たずに行けば、通り慣れた道もまるで別世界だ。知らない花が道端で陽光に輝く。行きつけのカフェは珍しく臨時休業だった。入口のアスファルトの割れ目にも花が顔を出している。

 小さな商店街もあらゆるシャッターが下りて人気がない。家を出てから誰一人見ていない。背筋が冷えて思わず踵を返す。来た道を戻っているはずなのに知らない景色ばかりだ。花が蔓を馳せ、道路も民家も染めはじめる。

「この世界から出てごらん。出口まで咲かれる前に」

 足元で誘うような声。一輪を踏みしだいてぐるりと見回す。どこまで歩けばいい?




毎月300字小説企画 第4回(2023.4.1)

お題「靴」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る