午前零時のヴンダーシュロス

「いつまでもこんな閑職に甘んじるものか!」

 配属初日の彼は魁偉を怒らせる。まるで昔の自分を見ているようだ。武官として採用され、任務が驚異宮の夜間警備とくれば、皆が同じ反応をする。至宝や珍品の集う殿堂、そのどこで自慢の腕を振るえるのかと。彼の顔を仰いで笑う。まあ、日付が変わるまで待て。

 やがて伽藍の鐘が鳴り渡る。その響きを無数の怒号が吹き飛ばした――地下深く、牢獄にも似た特別収蔵庫から。お目覚めだ。古代帝国の機械兵は国を失ってなお、敵を求めて夜な夜な暴れだす。その相手のどこが閑職だというのか。

「見た目はぼろいが甘く見るなよ」

「お前のことか?」

「言うな若造!」

 一笑し、研ぎ上げた斧をつかんで詰所を出る。




毎月300字小説企画 第2回(2023.2.4)

お題「甘い」

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