最終話

 イメージソング「覚えてていいよ」KOTOKO


 セイガの遙か遠くにヤミホムラがいた。

 それが今のセイガにはハッキリと分かった。

(さあ、行くぞ…)

 心を決めて加速する、それに呼応してかヤミホムラからの攻撃…

 一条の闇と炎がセイガを貫かんとしていた。

「聖河・ラムル…参る!」

 それを飛び越すイメージでセイガは高速剣を使った。

 しかし…

「う…わぁぁぁ!?」

 気付けばそこは地上から1000m以上、蒼穹に入っていた。

 思った以上に力が強くて目測を誤ったらしい。

 わたわたと身体を動かしながら落下する。

「なるほど、あれが高速剣の正体か」

 一方地上ではユメカの下へエンデルク達も含めた全員が集まっていた。

 距離を離したところでヤミホムラからは逃げられないと踏んでいたのでふたりをテレポートさせてすぐに全員で支援に向かっていたのだ。 

「こーそく剣の正体?」

 アルザスの一言に、そもそも高速剣を近くでちゃんと見ていないユメカが?マークを浮かべた。

「高速剣とは体術というより魔法のようなものだったのだ、前もってそれに担う体力を消耗することにより『行動を一瞬で可能にする』技…だから剣撃が同時に来たり何もない場所を突然切り裂いたりできたのさ」

 その脅威を一番に味わったアルザスだからこそ、感服していた。

「あれま、あの高さから自由落下してるよセイガさん…大丈夫かな?」

 キナさんはモニター無しでもセイガの姿が分かるのか彼方を向いて笑っていた。

「セイガさま…なんだかちょっと楽しそうですね」

 ルーシアの言う通り、ずば抜けた動きのセイガ、落ちながらも体勢を整えると嬉しそうにヤミホムラへ向かった。

 ヤミホムラが迎撃の闇と炎を広範囲に展開するが、簡単にそれをすり抜け、ようやくセイガは彼女を捉えた。

 突如、放射状に闇が広がりセイガを包んだ、しかし「青の星剣ティア・ルヴァリ」はそれを完全に防いでいた。

「過信して無ければいいがな、過ぎた力は人を惑わせる」

 エンデルクの忠告を聞いていたのかセイガは黒い炎を薙ぎ払い、何度もヤミホムラに肉迫していた。

 皆、不思議と安心というか…興奮していた。

 絶望的な状況の中、彼方に見えた光、セイガの力の発現を目の当たりにしてから、それが希望に思えたのだった。

 今まで見たこともないその絶大な戦闘力。

 最早加勢は無用、両者の決着を見守るのみだった。

 そしてセイガも高揚感に包まれていた、あまりに超越してここまで強くなるとは想像もできなかった…まさに理想の自分、絶好調だ。

「はぁ!」

 大きく振りかぶり、裂帛の気合と共に一撃を放つ。

 それは巨大な熱球と化し、守ろうとしたヤミホムラの炎の壁をいとも簡単に打消して彼女を屠った。

『ググググ…』

 今ならわかる、暴走して殺意を振り撒くだけのヤミホムラ…セイガはそれを圧倒しているのだ。

 これなら、勝てる!

「ヤミっ、ホムラっ…お前たちはこのままでいいのかっ?」

 セイガがヤミホムラを虚空の刃『空刃うつは』で斬る。

『ウルサイ…シネ』

 狂った瞳が広範囲に闇を放つ、しかしセイガはものともせずにヤミホムラに接近すると一瞬で赤い烈波と化し彼女を地上へと吹き飛ばした。

「こんなのになるために深淵に踏み入れたわけじゃないだろ!」

 セイガは呼び続けた。

 セイガにとってヤミとホムラ、どちらも代えがたい友達だ。

 このままで終わらせる訳には行かない。

『セイガ…オマエハ』

「俺とユメカが超えてきたようにお前たちも行けるはずだ!」

 セイガの攻撃が止まらない、あれだけ強大だったヤミホムラが明らかに押されていた。

『アアアア』

 ユメカは祈っていた、ヤミのことはセイガの話でしか聞いてなかったけれど、ホムラには大変なところを助けてもらったしふたりとも大好きになれると信じていた。

「大丈夫…ちゃんと戻ってこれるよ」

 ヤミとホムラ、ふたりに届くようにユメカが声を送った。

 多分、ふたりは自分自身を制御できなかったこと、それで大変な事態になりかねなかったことをすごく後悔している。

 そうユメカは感じていた。

「なかったことには出来ないけれど…大丈夫」

 だからふたりを励ましたかった。

「手遅れなんてコトはないよ…ずっと待っているから…」

 セイガはその言葉に驚いていた。

「覚えてて…いいよ」

 あれは未来の言葉だったのか。

「うおおおおおお!」

『アアアアアアア!』

 両者の渾身の攻撃、闇と炎と青い光が収束して…弾けた。


(イメージソング終了)


「今の俺は…暴走した深淵になんか…屈しない」

 セイガは無事だった。

 ヤミホムラは…

『ヤミは…此の失敗を忘れ無い』

『ユメカ…セイガ、お前たちの声…ホムラに届いてたぜ』

 自我を取り戻していた。

「やったぁ♪」

 地上からでもヤミホムラから殺気が消えているのが分かった。

「ヤミ、ホムラ、俺は深淵を知りえたのか?」

 見上げながらセイガが問う。

『セイガの深淵…見せて貰った…今回は合格』

 空中に浮かぶヤミホムラは笑っていた。

「そうか…」

 セイガは嬉しかった、けれど心残りが無いわけではない。 

『でもそれで満足はしないだろ?ホムラたちもようやく覚醒したんだ』

「そうだな」

 両者とも、戦闘意欲を失ったわけではなかったのだ。

『全力で生く』

 ヤミホムラの力はさらに高まっているように見えた。

『最高の気分で最高の舞台、そして最高の相手だ…燃えるしかないじゃないか…セイガぁ』

 地上付近にヤミホムラが舞い降りる、純粋な力…それは美しかった。

「俺も…全力のお前たちに挑みたい…危険は承知だ」

 セイガも燃えていた。

「えええ? もう終わりでいいんじゃないのぉ?」

 ユメカはてっきり戦いは続かないと思っていたのでうんざりした声になってしまった。

「戦闘馬鹿は死んでも治らない」

「阿呆が…お前が言うなアルザス…説得力がありすぎる」

「セイガさま、ヤミホムラさま…どちらもがんばってください」

「まあ、見世物としては世界最大級だよね、役得役得」

「ああ…特等席だ、アイツにも見せてやりたかったなぁ」

「ほっほっほっ、神はこれを儂に書けというか…それは楽しみで楽しみで仕方ないわい」

「決闘としてなら…認めなくは無いけれど…両者無理はし過ぎないでね、どっちも世界を滅ぼしかねないんだからね」

「面白い、折角だから俺が立会人になろう」

「大佐!?」

 レイチェルが予期せぬ相手に驚いた。

 気配はない、けれど大きな力を持つ声だった。

「いいだろレイチェル?俺ならば上手く収めることも可能だ」

「ええそうですけど…せめてもっと早く来てくださいよ」

 どうやらレイチェルの以前から頼っていた人物がこの『大佐』と呼ばれた存在らしい。

「当人だけで決着をつけて欲しかったんでな、俺は保険だよ」

 姿は依然見せないが…どうやらかなりの実力を持っているようだった。

「それでは…両者とも準備はいいか?」

 青空に光が落ちる、それはまるで決闘する両者を祝福するようだ。

「ああ…大丈夫だ」

『覚悟…完了』

「もう…私の『夢』をなんだと思ってるんだか…」

 それでも、ユメカは笑顔だった。

「では…決闘開始だ!」

 平原に宣誓が響き渡り、セイガとヤミホムラ、それぞれが全力でぶつかり合った。

 大気が激しく震えて駆け巡る。

 セイガの離れ際、ヤミホムラが追撃にと闇の塊を投げた。

 それはセイガに近付くと爆発した。

 セイガはそれを高速剣で躱すと一気に近付いた。

「アマルテア流剣術…奥義、流星刃!」

 その声と、剣撃と共に水晶のように煌く無数の光がヤミホムラ目掛けて強襲した。

 ヤミホムラは上昇して逃げるが

「もう一回!!」

 セイガが再び剣を振るい大量の流星が放出される。

 だが、ヤミホムラも闇の流星を作りだし応戦した。

 青空の中、光と闇がぶつかり合い、衝撃が大地を震わせた。

「まだだ!」

 技同士の激戦を潜り抜け、セイガがヤミホムラに迫る。

 そして同時攻撃の『 あぎと 』が少女を捉える。

 刹那

『喰らわ無い』

 攻撃を受けたその近距離からヤミホムラが咆哮するように闇の奔流を吐き出した。

 セイガはなんとか逃げるが少しでもタイミングが遅かったら危なかっただろう。

 互いに実力は伯仲…しかし 

 (ヤミホムラを倒せる技…そんなものがあるのか?)

 セイガは自分の『剣』にある技を調べながら戦っていた。

 覚醒したヤミホムラ、さらに力を高めていたため、大抵の攻撃は当たっても今みたいに効かないように思えた。

 逆にこちらは防ぐことは可能になったが、もしまともに喰らってしまったら恐らくそれが決定打になってしまうだろう。

『どうしたっ?随分消極的だな!』

 炎が螺旋状に伸び、セイガを閉じ込めようとしていた。

 何とか、高速剣で躱すが、この短い時間でヤミホムラの戦闘経験はかなり上昇していた。

 今まで、自分と同等以上の相手に会ったことがないヤミとホムラ、その為に駆け引きや戦闘の組み立ては得意ではなかったが、センスはいいのだろう…恐ろしいまでの才能でセイガを苦しめ始めた。

『もう、逃がさ無い』

 地上から広範囲の闇が立ち上る、それは上空に逃げて躱したが直後上空から炎が降って来た。

「うわっ!」

 星剣を翳しそれを防ぐと同時に闇から逃げるために高速剣を使う。

(やばい…)

 少しずつ、追い込まれている。

 やはりヤミホムラは…強い、躊躇している暇はない。

(この技しかない…けど)

 どうしても迷ってしまう。

 自分が知っているものの中で最大最強の奥義…これは…

『セイガ…未だ何か有るのね』

『へえ…それは随分と凄い技だな』

「なっ!?」

『ああ悪い…ちょっと心の表層を読ませて貰った』

 まさかそんな力まであるとは…これでは勝てない。

『参考にする、ヤミたちも技を極める』

 もし今のヤミホムラの技がさらに洗練されたら…青の星剣でも防げないかもしれない。

「セイガーー! 私っ信じてる!」

 状況を知ってか知らずかユメカが言い放った。

 これはいうならば『闇』と『炎』、『剣』と『夢』というふたつの『真価』を持った者同士の戦い…ユメカも当事者なのだ。 

「…ありがとう!」

 その相棒の言葉で…

 セイガは心を決めた。

 平原に立ち、上空のヤミホムラを見据えながら剣に全力を込める。

 全身を震わせ、気合を込める。

 上段に青の星剣を構え

『…来る』

 一気に振りかぶる

「星斬剣!!」

 まさに星をも断ち切るような剣閃がヤミホムラを襲った。

 しかし

『セイガは優しいから安全策を取ると分かっていた』

 相手を倒しつつ威力を逃がすには上空に向けて出さねばならない。

『見切った…コレで終わりだ!』

 ヤミホムラの全力の闇炎が同じく刃となり剣閃を受け止めた。

 闇炎の方が、強い。

 …

「ああ、俺も分かっていたよ」

 セイガはヤミホムラのほぼ真上にいた。

『なにっ!?』

 セイガが大上段に構えている、この位置、このままでは

『それはこの世界をも切ってしまうぞ』

「ああそうだ…でも俺は信じているっ」

 自分の持てるものは…そう沢山じゃないけれど

「この世界は、俺の大切な人達は強いって!」

 それでも歩いていこうと


「天 龍 星 斬 剣 !!!!」


 それが『全てを断つ』技だった。

 ヤミホムラを、空間を、大地を、

 セイガの先にある全てを貫き、全てを滅した。

 振り下ろされたそれは一瞬で終わった。


『…又ね』

『元気でな…』

 閃光の中、そんな声が聞こえた気がした。


「本当に…終わった…んだ」

『大佐』の判定は無かったがユメカには勝負がついたのが分かった。

 キラキラとした光が大地を満たしている。

 それは空へと昇っていく。

 それとは対照的にユメカの前にセイガが降りてきた。


 イメージソング「prime -"thank you" and "from now"- 」KOTOKO


「ユメカ…ただいま」

 セイガが笑顔のまま、一歩近付く。

「おかえり…セイガっ」

 ユメカがセイガに飛びついた、勢い余ってふたりとも大地に転がった。

 ユメカの純白の服がちょっと汚れてしまう。

 セイガの赤い服の方はそもそもボロボロだ。

 そのままふたり座り込んだまま、キラキラと光る青空を見上げる。

 いつの間にか『夢』の『真価』はユメカの元へ戻っていた。

「それにしても…ユメカの『真価』って『夢』だったんだな」

「うん、…ふふっ…でもこんなにうまくいくとは思わなかったなぁ」

 ユメカの笑顔が近い、本当に…助けることが出来たんだと実感する。

「しかしなんで秘密にしてたんだ?別に隠すような問題は無いと思うのだけど」

 ユメカはそっぽを向く。

「だって…夢叶の『真価』が『夢』だなんて…すごく直球すぎて恥ずかしいじゃんかぁ」

 横顔が真っ赤だった。

 恥ずかしがるユメカは、セイガにとって今までで一番可愛かった。

「でも、これからはちゃんと隠さないでいくよ♪」

「ああ」 

「もうなにもこわくないよ…だからこれからも一緒にいてね」

「ああ…ずっとだ」

 ふたりの視線が絡まる、とてもいい雰囲気だ。

「ヤミちゃんたち…大丈夫かな?」

「ああ…最後に声が聞こえた気がする…あのふたりにはきっとまた会える…その時はちゃんとお礼のアイスをご馳走しないといけない」

 ユメカが吹き出した。

「変なのっ…でも私も会いたいなぁ…だって直接お話もお礼も言えなかったもん」

「ああ…そうだな」

「セイガったらさっきから『ああ』ばっかり、おかしいよぅ」

「ああ…ははは…本当だ」

 ふたり揃って大声で笑った。

 それはとてもとても幸せな光景だった…が

「あー、おふたりさん、嬉しいのは分かるけれどそろそろ…」

 割って入るようにレイチェルが声を掛けた。

「そろそろ手伝ってくれませんかねぇ…じゃないとこの世界滅んじゃうかもなのよっ!?」

『あ』

 そう、セイガの天龍星斬剣はヤミホムラを倒しただけでは飽き足らず、空間自体と、この世界も絶っていたのだ。

 キラキラとしたものは裂けた空間と大地から溢れた…いうなれば世界の命の欠片のようなものだった。

 戦闘直後、大佐の指示で来たらしい集団とレイチェル達は協力して世界を繋ぎ止める作業にずっとあたっていたのだ。

「なんじゃこりゃあああ」

 気付けば目の前にホバージェットが停まっていてそこには

「あ、ベレスだ」

「お宝の匂いを感じて残念なねーちゃんとやってきてみればなんや世界の終わりみたいな光景だし…ってユメカなんで生きてる!?」

 邪妖精が騒ぎ立てていた、さらに

「セイガくーん!オコの出番」

「はい、モブ沢はこっちの手伝いね」

 キナさんに瞬速で攫われたがモブ沢さんも来ていた。

「うふふ…それじゃあ私達もいこっか?」

 ユメカが先に立ち上がり、その柔らかい右手を差し出す。

 白いワンピースが風と光を浴びてキラキラと踊っていた。

「ん?」

 流れに遊ぶ髪を左手で押さえながらセイガを優しくみつめる。

「ああ、行こう!」

 丘の上、大きな木の下、青空の中…ふたりは歩き出したのだった。

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