エピローグ

 エピローグ


「まずはワールドの修復任務、無事完了出来て良かった」

 ここは学園の一室、とても高い天井に届くほど、5m以上の巨体を誇る大佐がそう切り出した。

 感情に合わせてか、背中の翼がばさりと鳴る、彼の姿はドラゴンを人型の骨格に変え2足歩行にしたようなものだった。

 黒い肌にところどころ漆黒の鱗もあり、頭には白い角、あまりの迫力に初めて見たものは逃げ出すかもしれない。

 竜人、それが彼の種族名だ。

「そうですね…本当に大佐がいて助かりました」

「ふむ、あれだけの大惨事で死傷者0は見事じゃった」

 今回呼ばれていたのはレイチェル先生と店主、上野下野だった。

 これは大佐個人の選定だ。

 セイガとヤミホムラの決闘の途中、被害が世界規模に及ぶと感じた大佐は立会人を放棄して戦線を離脱、対策実行に移していた。

 セイガの天龍星斬剣は星を貫いていたので、大佐は瞬時に裏側へ向かうと避難と救助活動をした、併せてマケドニア広平原に向かわせた部下と力を合わせて切断面の修復を行い、星の崩壊を防いだのだ。

 同じく異変に気付いた人達の協力もあったが、彼とその配下の活躍があったからこそ人的被害は殆ど出なかったのだ。

 その結果、一部始終を見ていた訳ではないので事情を知りたかった、それが今回の会談の目的だった。

 なぜ一番の当事者、セイガとユメカがいないのかというと…

「あのふたりは遅かれ早かれ学園から事情聴取を受けることになるだろうからな…今はせめてそっとしてやりたい」

 大佐の素直な気持ちだった。

「そうですね…ありがたいです」

「恩に着るよ…それにわざわざ儂らを呼んだのはあのふたりには聞かせたくない話があるんじゃろ?」

 店主が核心をついてきた。

「うむ、深淵の力について…貴方たちふたりの所見をお聞きしたい」

 大佐は専用の大きなソファにどすんと腰かけてふたりを見やった。

「その前にこちらからもお聞きしたいです、確か大佐は学園長から依頼されてずっと秘密裏に行動していましたよね…それって」

 レイチェルが冷静な表情で問い質した。

「推察の通り、深淵の力について…さらに言えば要注意人物であるヤミ、ホムラ両名の監視だ」

「やはりの…話がうまく通り過ぎると思ったよ」

「勿論要注意人物は彼女らだけでは無いので俺はあちこち飛び回る必要があったわけだが…その中でもヤミとホムラは別格だったな」

 店主は個人的にもヤミ達に近かったが…恐らくそれも知っているのだろう、食えない男だ。

「まあ、すぐに排除とかそういう話では無いので出来れば安心して欲しいのだが…今はそれ以上に危険な存在が判明してしまった」

「セイガ君たち…ですね」

 レイチェルが重々しく呟いた。

「私の考えですが、彼らは善良な人間です、深淵の力が有ろうが無かろうが大切な友人でもあります。よって学園の指示でも彼らと敵対するつもりはありません」

 キッと大佐を睨む。

「すまんすまん、お前を試すとかそういうつもりはないのだ。だが分かって欲しい…事実が明らかになれば彼らが危険な目に遭うと言いたかったんだ…過ぎた力はどうしても敵対者を生むからな」

「すいません…私も言い過ぎました」

 大佐の指摘も分かっていたので、レイチェルは素直に謝ることにした、そもそも彼は任務には忠実だがそれを差し引いても人間として尊敬している…大事な同僚なのだ。

「儂からもええかの?」

「はい、お願いします」

「儂の元いた世界は枝世界にしては珍しく、神よりも上位の存在…十二天龍や星継師を知覚していたんじゃ…ま、先代の使徒が生まれた世界だったからじゃな」

 難しい話だったが、大佐は既に理解していたのでただ頷いた。

「深淵の力については分からん、てっきり星属性、星継師の力の一種かと思っていたのじゃがどうやら違うようでな…未知の力という認識でええと思う」

「難儀な話ですね」

 大佐がため息をつくと、ソファが大きく軋んだ。

「ただな、かつての儂の古くからの友人でもあり、今話した先代の使徒の名前がのぅ……」

 そこで一旦言葉を切る。

「『セイガ・ラムル』と言うんじゃよ、これは偶然にしては出来過ぎじゃろ?意味はある…そう考えても仕方ない」

 レイチェルは驚いた、このワールドに来て長年になり…周りの人間よりは真なる世界について知っていると思っていたが、これは全くの初耳だったのだ。

「ま、このワールドがどうなるかなんて今考えても分からんよ?それより今は幸せになってくれたあの子たちを祝福したい」

「そうでした、今夜オリゾンテでユメカさんのお祝いパーティーをするのですが大佐もどうですか?」

 レイチェルが気遣って誘ったが

「いや、この巨体では邪魔になるだろうし、今回は遠慮しておくよ…資料をまとめて学園長に報告もしたい」

 やんわりと断られてしまった。

「ふふふ…そんな風に気を遣うなんて…大佐らしくないですけど分かりました」

「どうかよろしくと伝えといてくれ」

 やや重々しくはあったが、そうして会談は終了したのだった。


「うん、あとはコレでオッケー♪」

 夕方、セイガに荷物持ちをさせながら、主賓である筈のユメカが料理の材料の買出しに来ていた。

「主な料理はリチアさんが用意してくれるのでは?」

 大衆食堂オリゾンテが会場なだけに、マスターであるリチアが張り切って料理やら飾りつけやらをしていたのだ。

「うん、そうだけど折角だから私もお礼の料理とかごちそうしたいじゃない?あまり実感ないのにお祝いだけされるのも変な気分なんだもん」

 ユメカの復活についてはあまり公に出さない方が良いとのことで今回のパーティーも名目上は

「謎の病気で療養中だったユメカの快気祝い」という形になっていた。

「確かに…俺もユメカの料理は楽しみだ」

「おう、嬉しいコトいうねぇ♪」

 港町の活気がふたりを見守ってくれているようで、嬉しかった。

 あれが昨日のこととは思えない、平和な光景だった。

 多分、この世界はこれからもこうやって自分たちを迎えてくれるのだろう。

 だからこそ、大切な世界なのだ。

 セイガは一瞬、すれ違う人達の中にヤミとホムラがいたような気がした、そして思い出す。

「あ、そうだ…折角だからパーティー中に一曲歌ってくれないか?」

「え?」

「凄く思ったんだ…俺はユメカの歌が、聴きたい」

 ユメカと出逢った時、その姿と声に魅了された。

 それもきっと、これからも変わらないだろう。

「う~~~、わかった、お酒が入る前ならいいかな?」

「え?ユメカってお酒吞んで大丈夫なのか?」

 ユメカは未成年だと思っていたのでセイガには意外だった。

「うん、ちゃんと額窓に『飲酒可』の刻印があるもん♪」

 赤い額窓を呼び出すと、称号の項目を開いてみせた。

「へぇ~額窓にはこんな項目もあるのか」

 セイガも自分の白い額窓をだして眺めてみる、確かに自分のにも『飲酒可』の刻印が入っている。

「…あれ?なんかセイガに新しい称号がついてるよ?」

 未確認のマークの付いた項目、称号がセイガに与えられていた。

 それは…

『スターブレイカ―』(星を壊す者)

『え…えええええ!?』

 港町の喧噪の中、茜色の空にふたりの驚きの声が響いた。

 そう、これは『スターブレイカー』、聖河・ラムル最初の物語  


                             【完】



 そして第2節へ続く

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