第27話
「勝負ありっ!勝者…聖河・ラムル」
レイチェルが勝利を宣言する、本当に…セイガが勝ったのだ。
彼女は事前にこの必殺の一撃のことをセイガから聞いてはいたが…
はじめて見た完成されたその技を見て…心が震えた。
(さあ…ここからだよ、セイガ君)
セイガは絶剣を見つめていた。
勝利の喜びは、無い。
感じるんだ…ここに残っているものを。
ユメカの魂の、欠片を。
ホムラに会ったあの日、セイガはずっとユメカの魂の欠片を探していた、北の昇世門の付近、学園の演舞場、そしてユメカの家…後で謝らないといけないと思いつつ考えられる場所をずっと探していた。
何も見つからなかったが…唯一気がかりだったのはユメカを切ったアルザスの大剣のことだった。
あの時、確かにユメカが消えた時と同じ水色の光が剣にも見えたのだ。
どうにかしてあの剣を調べたい、でもアルザスにそれをただ頼んでもおそらく無駄だろう。
だったら無理にでも調べる、ユメカを見つける…破壊してでも…それがセイガの考えたユメカを助ける方法だった。
そして今、ようやく手に入れた刃…
そこには…
微かに水色の光が…残っていた。
「ユメ…カ…」
話し掛けると、光は微かに明滅した。
「ユメカ…ユメカ! 此処にいるのか!?」
何処にも無かった光…希望の欠片が…見つかった。
「どうすればいい?俺の持っている力のすべてを注いだらこれはユメカに戻るのか?」
深淵が何かなんて分からない、でも自分にその力があるのなら、力のすべてをユメカにあげよう。
優しく刃を抱きしめながらセイガは気合を入れた。
「うおおおおおぉぉぉお!」
すでに疲労困憊だったが、命を燃やすイメージでセイガは体中に力を込めた。
いつの間にか、レイチェルが傍に来ていた。
レイチェルにも刃に残った水色の光が見えていた。
「一度セイガ君の体力を回復してみる? 或いは私の回復能力をこの光に与えてみるとか…」
「ごめんなさい、もうちょっと待って…今のこの状態でしか出来ないこともあるかもしれないから…」
焦りながらもセイガは考える。
どうにも光が弱弱しくなってきている気がする。
1週間…それは長すぎたのか?
「ユメカ…起きてくれよ…俺は……」
セイガの流した涙が刃に落ちる…それでも光は明滅するだけだ。
「頼む!ユメカを…ユメカをっ」
『…しょうがないなぁ』
声がした。
「今…声がしました?」
不思議な感覚に対し、セイガは振り返りレイチェルに尋ねた。
「嘘!?私には何も聞こえなかったわよ?」
幻聴か?
「どうか頼む! 応えてくれ!」
『そんなに大きな声を出さなくても聞こえてるよ♪』
やはり、声は存在した。
周辺にはそんな気配は全くなく、どこから聞こえるかも分からず聞き覚えも無いがどうもそれは少女のようだった。
「君が誰だか分からないが、どうかユメカを助けてくれないか」
数秒、間が開く。
『それは無理だよ、それをするのはあなたの役目だから』
「俺の‥?」
『うん、まだ力の使い方が分からないようだから…今は私が導いてあげるけれど…上手くいくかどうかはあなた次第…』
「そうか…ありがとう!」
レイチェルには何も聞こえなかったが、セイガの明るい表情から何か希望を感じてはいた。
「ありがとう…俺…頑張るから」
『本当に…今回だけだからね』
少女の声が消えた。
それと同時にセイガは深い深い…何かに落ちていった。
そこは闇の中、照らされた泉のようだった。
腰までセイガはそこに浸かっている。
泉自体が水色の光を仄かに発していて、でも何故か立っているはずなのにその底は見えないし、見渡す先にも何もない。
セイガは水を掬い上げる。
(ああ…これはユメカだ)
何故か分かった。
そして、力を使う…
自分の奥底に、おそらく最初からそれはあった。
強く、激しいけれど、見えない、というのに広く存在する力…
謎の少女のお陰か、今はそれを感じる。
両手を水面にあて、力を全て泉に…ユメカに注ぎ込む…すると泉の水が次第に形を変え始めた。
(思い出すんだ…ユメカと過ごした日々を)
ユメカのことを強く思いながらセイガは力を開放する。
それに合わせて虹色の光が輪を幾重にも描きながら生まれ出る、真っ暗だった世界が晴れ渡り、新たな命を持った。
泉の水は少しずつ、人の形を取り始める、イメージとは言え流石に裸だと悪いので何かを着ているイメージを重ねる。
白い、清純なワンピースだった。
濡れたそれを羽織っている。
泉とそこに横たわる少女…
セイガは手を伸ばすと、その体を掬い上げた。
少女はううんと口を動かすと、目を覚ました。
「おはよう」
「おはよ、セイガ…どうして泣いてるの?」
それはユメカの復活だった。
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