第8話
第2章
「うわぁぁぁ、すごーーい! 本当に森全体が燃えてるよぅ」
翡翠色の鱗を持つ逞しい竜が大空を舞う。
その大きな背中にユメカ達は座っていた。
「ユメカ、あんまり乗り出すと危ないですよ」
セイガは、空を飛ぶなんて初めての体験だったので、まだちょっと怖いようだった。
「セイガさま、だいじょうぶですよぅ、聖竜さんが魔法でまもってくれているからおちることはないです~」
安心してくださいと少女が保証した。
そう、本来この飛行速度では座るなど出来ずに振り落とされてしまう、3人が快適に乗ることが可能なのはひとえに魔法の力だった。
「あのまんなかにあるのがもくてきの大樹ですよね」
少女、『ルーシア』が森の中心部を指差した。
その姿は華奢でまだあどけない14才ほど、白と黒を基調としたロングのエプロンドレス…つまりメイド服がとても似合っている。
そして緑色の長い髪を後ろでおだんご状にまとめヘッドドレスを身に着けていた。
ルーシアもこの冒険の始まりに赤茶色の瞳をキラキラとさせていた。
「そうだ、遂に燃える木の森に着いたんだ、ヤッホー!」
セイガの目もらんらんと輝いていた、どうやらいつもよりテンションの上がり下がりが激しい。
視界の先、燃える木の森は遠目から見てもわかるように、赤くメラメラと燃え広がっていた。それはとても雄大な光景だった。
「飛行機に乗って、空の上を見たコトはあったけれど竜の背中から見る景色は臨場感が違うね、ホントありがとう、ルーシア」
ユメカも興奮していた、そもそも空が好きなのでこの初体験はなおさらなのだった。
「こんなコトならもっと早くルーシアに頼んで聖竜に乗せてもらうんだったぁ」
「ユメカさまに喜んでもらえてよかったです…そろそろおりますよー」
聖竜が降下を始める、魔法で軽減されているとはいえ、重力が3人にのしかかった。
「わわわ、この感覚は…おかしいですねっ」
セイガが珍しく動揺していた。
「いきなりちゅうしんぶにおりるのはあぶないので、よていどおり森のはしにいきますね~」
森の端、そこは舗装された道のある平地だった。
聖竜は滑空から最後軽く上昇、そのまま停止してドシンと大きな音を立てて大地に降り立った。
燃える木の森への移動手段、その際にユメカが頼りにしたのが今回新たに共してくれたユメカの友人、ルーシアだった。
セイガはふたりが仲良しなのは初耳だったが、エンデルクの傍にいたこの少女のことは覚えていた。
そんなルーシアの『
冒険のことを話してみると、丁度ルーシアもこの奥地にあるアイテムに興味があるというので同行する運びになった。
3人は頭を低くして待機姿勢を取った聖竜から降りる。
「それではいちど聖竜さんはもどっていてくださいね~」
ルーシアがそう告げると聖竜は一鳴きしてその場からゆっくりと消えていった、元の世界に戻ったのである。
「ふぅ、ちょっとつかれました」
「どうしよう、ここでちょっと休憩する?」
ユメカがそう提案したがルーシアは首を振った。
「ちずをみると、このすこしさきに湖があるようです、そこまであるいてからおひるにしましょう♪」
燃える木の森の拡大地図は楽多堂で手に入れたものだ。
「その方が効率的だが、大丈夫なのか?」
セイガもルーシアを気遣う、ルーシアの話では聖竜を召喚している間はずっと力を使っているらしく、ここに来るまで飛行速度が速かったとはいえ30分は掛かっていたのだ。
「はひ~わたしはだいじょうぶですよ~」
ルーシアはてへりと微笑んだ、健気な子である。
「うん、それじゃ早速冒険開始だね! 隊長、号令をお願いします♪」
ユメカが促した、今回冒険するにあたって、セイガがリーダー、つまり隊長を任されたのだ。
「はいっ!…必ず生きて、そして楽しんでお宝を見つけるぞ!」
『おーーー!』
そうしてセイガ冒険隊は森へと足を踏み入れたのだった。
「うは、それにしても本当に触っても熱くないんだ…不思議だね」
ユメカは身近な木の幹に手を触れてから、肩にかけていたカメラを手にして見上げるようなアングルで写真を撮った。
実は空の旅行の時からちょくちょく撮っていたのだ。
「ユメカのカメラは高性能ですね、俺が知っているのはもっと大きくて15秒くらいジッとしてないと撮影できない代物でしたよ」
「そうなのかー、どうも色々セイガの話を聞いていると私のいた世界より100年位は昔の世界観なのかも」
ユメカは明治、大正時代を思い浮かべていた。
「そんなに未来なのですね、凄いです」
「…そうなのですか?」
ルーシアはちょっとしっくり来ていないようだった。
「もし時代が違うだけで、私とセイガがおなじ世界の住人だったらちょっと素敵だね」
ユメカはそう言ってへへへと微笑んだ。
「そうだね…あ、そうそうこの森…」
「ちょっと待って」
ユメカが不意にセイガ達を両手で制した、その只ならぬ雰囲気にふたりは息をのむ…
「静かにして…」
小声でユメカ、行く手の小道の端、彼女の視線はそこに集中している。
「…やっぱりそうだ…」
ユメカの手が壊れモノを扱うように繊細に動く。
「…うさぎさんだ♪」
ひょこりとそこに白い小さな兎が現れた、ユメカはうっとりとしながらもカメラを構えて精神集中…
「えへっ、うまく撮れたぞ」
セイガ達は呆気に取られていたが、ようやく事態を把握した。
「ユメカは兎が好きなのか?」
「うん、大好き」
その台詞にセイガは胸を突かれた。
「多分、ここに来る前には一緒に暮らしていたと思うんだ、それにしても本当に可愛いよね~和むな~」
兎はじっと立ち止まっていたが、すこし顔をこちらに向けると再び茂みの中に消えていった。
「ああ、うさぎさま…いってしまいましたね」
ルーシアも少し残念そうだった。
「野生の子だもん、しょうがないよね…でも早速白うさぎに出会うなんて…すごい幸運だねっ」
「そうですね、ほかにもどうぶつさんがたくさんいるのでしょうか?」
「あ、そういえばゴメン、セイガが何か言いかけてたよね」
「はい、ここの説明と提案をしようと思ってました」
セイガは改めて先頭に立つと説明を始めた。
「まずはこの森なのですが、入口から湖の周辺までは観光地として人の手が入っているので動物はいるけどモンスターは殆ど現れないそうです、なので安全な今のうちにパーティーの連携も取りやすいように各自の『真価』と『固有能力』?を確認していきましょう」
セイガはそう提案した、どうもこの辺りはモンスター除けの結界が張られているとのことだった。
「うん分かった、それじゃあセイガ隊長からどうぞ♪」
セイガは歩きながら愛剣アンファングを取り出す、今では気をやれば即座に出すことが可能になっていた。
「俺の『真価』は『剣』、ご覧のように剣を生み出します、現状はこのアンファングだけですが…それから奥義書のように過去の達人の技や名剣の知識を得ることが出来ます、それを使って今は自分でも覚えられる新しい技を研究中であります。『固有能力』…という程ではないのですが、元々剣術を修めていたようで身体能力は高い方だと思います」
「前衛向きだね、次はルーシアどうぞ♪」
セイガの説明にユメカが相槌を打った。 。
「はい~わたしは聖竜さんをよびだすことができます♪ 聖竜さんはれーざーぶれすとかしんくうはを使えます、ただあんまり長くたたかうことはできないです」
「ルーシアが疲れちゃうわけね」
「そうです、空をとぶのはまだだいじょうぶなのですが、たたかうときはわたしがぜんぶうごかすのもあってとてもつかれるのです」
「なるほど、それではあまりルーシアの力に頼ってばかりはいられないということだね、俺がその分頑張ります」
「ありがとうです♪ それからわたし自身はあまりたたかいはとくいじゃないです、…以上です」
ぺこりとお辞儀をして締めくくった。
「強いけれど使いどころが大事だね、それでは最後に私だけど…基本は後衛でシールドを展開するのと、回復魔法がちょっとだけ使えます」
「それは凄いですね!」
「いやいや、回復はホントちょっぴりだから期待しないでね、あとは声を拡張する魔法も使えるから遠く離れてても声を届けられるよ♪」
「ユメカの『真価』は何ですか?ルーシアは『竜』だと聖竜に乗る前に聞きましたが」
セイガは疑問を口にした。
「ええと…ナイショ…じゃダメ?」
ユメカは可愛らしく哀願した…上目遣いが非常に破壊力高い。
「わたしもユメカさまのわーすは知らなかったです」
「ああ、ええと…別に無理して言う必要は無いと思います」
「それじゃあ、セイガが前衛、ルーシアが中盤、私が後衛という感じで行ってみよう☆」
ユメカが宣言した。
「何だか、ユメカがリーダーみたいですね、ありがたいですけど」
「あ、ゴメンつい仕切っちゃったね、でも戦闘での指示はは多分セイガが一番頼りになると思うんだ」
「…頑張ります、補足として基本警戒は怠りませんが、背後から接敵する場合もあり得るのでユメカはシールドをいつでも出せるよう意識していてください、それからルーシアは場所によっては召喚が難しかったり時間が掛かったりすると思うので常に俺かユメカの近くにいるようにしてください」
セイガがそう付け加えた、考える度に昔の経験のようなものが少しずつ蘇っていく感覚があった。
「了解☆」
「わかりましたです~」
そうして、3人は炎の並木道を進んだ。
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