第13話 王女様と恐怖スポット
リリィとクリスの出現により危機感を感じたかおりは雄一と同居することになった。
「ねえ雄一、この心霊スポットこの近くじゃない?」
かおりはリリィと心霊番組を見ている。
「ああ、なんかトンネル近くで轢き逃げにあったOLの霊が犯人を探して今もさ迷っているって話だろ」
雄一とかおりの話を聞いていた好奇心旺盛な王女様・リリィは心霊スポットに行きたがる。
「雄一、わたくしをそこに案内しなさい!」
「いや、お前、取り憑かれても知らないぞ!」
「大丈夫ですわ!」
リリィの住む異世界の呪いとは何千年も豚の姿に変えられたり、呪いによって剣に封じ込められるなど、こちらの世界とはちょっと内容の異なるものばかりでリリィにとってこの世界の呪いというのは興味深いものだった。
「なんかお前の世界の呪いってエグイな……」
雄一はリリィの世界にだけは転移したくないと思うのであった。
「じゃあ、行ってみるか」
雄一は車にかおり、リリィ、クリスの3人を乗せて、さっそく噂の心霊トンネルへと向かった。
「なんかさ、轢き逃げ犯に恨みを残した霊は『なんで自分だけ!』って思いから、犯人と関係ない車も事故に引き込むって言う噂なんだよ」
「怖いわね……」
運転席と助手席で怖がる雄一とかおりとは違い、リリィは後部座席でゲームを行い、クリスは競馬新聞を読みながら赤鉛筆で翌日のレースの予想をしていた。
「あの、連れて行けって言ったのリリィなんだけど……」
雄一は後部座席でゲームに夢中になり、心霊スポットそっちのけになっているリリィに呆れた。
「いえ、ちゃんと聞いてますわ。関係ない民を道連れにしようとするなんて、とんでもない話ですわ!」
「そういえば、リリィの世界の幽霊ってどんな感じ?」
「わたくしたちの世界のゴーストは露骨に攻撃して来ますわ! だからわたくしたちも容赦なく浄化の魔法で消してしまいますの!」
「……。リリィの世界って、やるかやられるかって言うか……。絶対に行きたくないわ……」
雄一はリリィがこの世界でも逞しく生きていけるのがなんとなく理解できる気がした。
車は噂のトンネルに近づいたその時、雄一はバックミラーを見ると、バックドアガラスに女性の幽霊が張り付いているのが見えた。
「おい、リリィ、うしろ! うしろ!」
「雄一、なんですの! こんな時にドリフのネタですの?」
「いや、この状況でドリフのネタ放り込むバカいねぇだろ!」
雄一の声に反応し、かおりもバックドアガラスを見て悲鳴を上げる。
「まったく、うるさいですわね。大司教、浄化して差し上げなさい!」
「わかりました」
クリスはカバンから聖水が入っているような壺を取り出すと、何か呪文を唱え始めた。
「よかった! クリスさん、大司教だもんな。期待してますよ」
雄一は大司教を連れてきてよかったと思ったが、クリスがいくら呪文を唱えても状況は変わらない。
「大司教、いつもみたいに壺にスポッと吸い込めないのですか?」
「なんかこちらのゴーストとは波長が合わないみたいで……」
(なんなんだ、見かけ倒しかよ! マジで使えねぇ!)
かおりは目を瞑り震えており、雄一はとにかく事故を起こさないように運転を続けた。
「雄一殿、ちょっと窓を開けてもらってもよろしいかな?」
「いやいや、この状況で窓開けるとかバカでしょ! どうすんだよこの状況!」
「雄一、いいから開けなさい! クリスは大司教ですよ!」
(いや、さっき浄化に失敗してるじゃねぇか!)
雄一はクリスには期待していなかったが、一か八か窓を開けた。
工事現場で鍛え上げられた大司教・クリス。
今やベテランプロレスラーのような見た目となった大司教は剛腕でバックドアガラスに張り付いた女の幽霊を掴むと、そのまま力任せに壺にねじ込んだ。
「姫様、封印魔法で悪霊を閉じ込めましたぞ!」
「さすがは大司教ですわ!」
「いや、いま、力任せに壺にねじ込んだろ!」
「また、雄一の異世界ヘイトですわ! 本当に感じ悪い!」
雄一は明らかにパワーで封印したようにしか見えなかったが、しつこくクリスに突っ込むことはやめて、とりあえず、車を路肩に止めた。
「ところで封印したその壺どうするの?」
「当然、成仏するか、このまま壺の栄養素として取り込まれるか、今から答えをお聞きしますわ!」
「壺の栄養素にされるとか、本当に半端ねぇな、異世界……」
最初は物騒なことを言っていたリリィと大司教であったが、女性の幽霊の話を聞くと、魔法で轢き逃げ犯を突き止め、リリィは犯人が反省するまでは絶対に口内炎が治らないという地味だがとても厳しい魔法をかけた。
「これであなたも気が済みまして?」
「はい、関係ない人を巻き込もうとして本当にごめんなさい。これで私も成仏できます」
こうして、トンネルの怪奇現象は解決した。
帰りの車中では、リリィとクリスが今回の活躍について自慢話をしまくり、疲れる雄一であったが、車中はマンションに着くまで賑やかで、まるでピクニック帰りのように感じるのであった。
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