第5話 王女様の帰還
1月2日、雄一はリリィを連れてお台場までドライブに連れて行った。
「雄一、何か巨大なゴーレムみたいなものがいますが、あれは何?」
「あれはガンダムだよ」
「ガンダム? 軍事兵器なのかしら?」
リリィはガンダムを警戒したかと思うと、いきなり詠唱を始め、魔法を放とうとする。
「おいおい、何やってるの!」
「わたくしの火炎魔法が効くか試してみようと思いまして!」
「この世界で魔法とか要らないから! 無駄に火力使うのやめて!」
周囲のカップルはリリィの目の前に急に魔法陣が現れたことに驚いたが、施設のスタッフが行った演出と勘違いしてくれて、リリィに向かって拍手が沸き起こる。
「やはり、皆、わたくしの魔法に敬意を表していますわ!」
リリィは上機嫌であるが、雄一はリリィを車に乗せて別の場所に向かうことにした。
「おい、リリィ、お前の世界の連中はいつ迎えに来るんだ?」
「そんなのわたくしにもわかりませんわ! 雄一、家に帰ってゲームでもいたしましょう!」
「お前、この世界に生まれていたら絶対に怠惰で人生をダメにするタイプだな……」
リリィは家に帰ると大晦日同様にゲームに没頭した。
「なあリリィ、賢者って本当にいるの?」
「いましたわ! 大半は賢者と言いながら最後は攻撃魔法を撃ちまくって力技で魔王を倒そうとする賢くない奴ばかりでしたけど!」
「そ、そうなんだ……。じゃあ、勇者は?」
「あなた方の世界からたまに召還してましたけど、大半は勇者と言いながらも勇気がなく魔王と戦うまではうじうじ言ってるヘタレばかりでしたわね!」
雄一は聞くべきではなかったと思った。
「雄一、今日の夕飯はペ〇ングでもよろしくてよ!」
「いや、お前完全にゲームしながら食事したいだけでしょ!」
雄一は仕方ないと思ってお湯をカップ焼きそばに注ぐ。
リリィがカップ焼きそばを食べながらゲームをしている間に雄一は寝室の掃除をしていた。
「リリィのやつ、ベッドの使い方も雑だな……」
雄一が寝室の掃除をしているとクローゼットの中が光り、大司教が現れた。
「おい、リリィ、迎えが来たぞ!」
「え、いま良いところですから、そこで待たせておいていただけますか!」
ゲームに没頭するリリィを何とか寝室に引っ張ってきて、異世界から現れた大司教に合わせた。
「大司教、遅かったではないの。もう少しでこの男の妻にされるところでしたのよ!」
「いや、絶対にお前は妻にはしないから!」
雄一は少しイラっとしたが、もう少しでお別れするので感情を抑えた。
「姫様、遅くなってスイマセン。そこの村人も姫様の面倒を見てくれて礼を言うぞ!」
村人という言葉に頭に来た雄一は警察に連絡しようとするが、リリィと大司教が必死に電話を抑えてきて、警察に電話できないように抵抗してくる。
「ま、まあ、とにかく、も、元の世界に帰った方がいいよ……」
リリィと大司教が雄一の電話を阻止するために抑えてきてもみ合いになったため、雄一も真冬なのに額から汗をかき、息切れしながら二人に帰還を促す。
「お世話になりましたわ! 大司教、雄一に御礼を!」
「雄一殿、御礼に1億ぺリスをお渡ししよう! これで自分の城でも建てるがよい!」
「いや、こんな金、この世界ではゴミ同然だから!」
大司教と雄一はしばらくお金を受け取る受け取らないで揉めたが、ようやく大司教はクローゼットに入り、帰還のための儀式を始めた。
リリィと大司教がクローゼットに入り、儀式を始めたかと思うと、クローゼットの扉が勝手に締まり、中が一瞬光ったかと思うと、静かになった。
「わがままな奴だったけど、いなくなるとちょっと寂しいものだな……」
雄一は年末からのことを思い出しながら、少し寂しくも思った。
しかし……。
ドサッという音がしたかと思うと中からリリィと大司教が出てきた。
「申し訳ない! 失敗しました! あと数週間したら私の弟子が迎えに来ます! それまでここに置いていただけないでしょうか?」
「おい、大司教! どういうことだ!」
「雄一、怒らないであげて! それよりもわたくしはゲームの続きをしますわ!」
こうしてリリィは帰還に失敗し、雄一の部屋はしばらく賑やかな生活が続くのであった……。
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