私達もお手伝いします

「ありがとう」


レオーナが口の中へ向けて押し出すようにしてくれたことで、彰太しょうたは食べることができた。しかし同時に、うっかりレオーナを齧ってしまわないように気を遣う。


なお、食事として用意された生魚は、しっかりと血抜きがされたものだった。サメは血の臭いに敏感で、しかも先ほどもそうだったように血の臭いを感じると強い衝動に我を忘れることがある。だからこそ<調理>を施したものが必要だった。


もっとも、普段は人魚達もそれで食べているので、あくまで『サメに食べさせるため』ではなく自分達のためにそうしているのだが。


ただ、結果として彰太が正気を失わずに済んでいるのだから、それが正解だと言える。


同時に彰太の方も、


『さっきみたいにならないようにしなきゃ』


とは思っていた。頭の中が爆発したみたいな真っ赤に染まったみたいな感覚になって、ギリギリ意識はあるものの途轍もない激しい感覚に飲まれて自分でも訳が分からなくなっていったのは自覚していた。しかも途中からはそれこそ意識がない状態だった。と言うか、意識そのものはあったのかもしれないが、覚えていない。


夢だとは思うものの、だからといって無茶苦茶なことをしてしまってはせっかくの夢が悪夢になってしまう。それは避けたいと思う。


これ自体、夢だと思っているからこそ冷静でいられているというのもあるだろう。もし現実だと思っていたらここまで冷静でいられなかったかもしれない。


いろいろ不満はあるものの、別に元の自分の境遇も自分自身についても『何の未練もない』というほどは嫌ってもいなかったからだ。


『いずれ目が覚めれば元に戻れる』と思えばこそ、逆にこの夢を楽しんでしまえばいいという気にもなれる。ゆえに食べるのも気を遣う。


「レオーナ様、私達もお手伝いします」


そこに遅れて、ミリス達も近付いてきた。自分達の主人であるレオーナが危険を冒しているというのにそれをただ見ているだけというのはさすがにできなかった。


が、やはり怖い。


「あなた達まで無理をする必要はありませんよ。ショータ様は私のお客様なのですから」


今にも泣きそうな表情で料理を手にしているミリス達を見て、レオーナはそう告げた。しかしミリスは、


「いえ、そういうわけにはまいりません……!」


震えながらも応える。


このやり取りは彰太には伝わっていなかったものの、様子を見ているだけでだいたいは察することができた。


「ごめんなさい、俺のために」


申し訳なくて、レオーナにそう謝ったのだった。


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