お食事になさいますか?

そんなこともありつつ、彰太しょうたは傷の手当てを受けた。


もっとも傷そのものは鎧のような鱗に守られていたこともあって表皮が軽く切れている程度のもので、粘り気の強い軟膏のような傷薬を塗るだけの処置で済んだ。むしろ鱗で怪我をしないように治療に当たった医師や看護師らしき人魚達は神経を使った。


加えて、明らかに怯えた様子でもあったが。この巨大なサメに触れようというのだから当然か。


また、


「ありがとうございます」


彰太はそう礼を口にするものの、言葉として伝わっている様子はなく、


『こりゃ、じっとしてるだけの方がいいかな』


と考えて、おとなしくされるがままになっていた。痛みも、ないわけではないにせよ、それこそ小さな傷がチクチクと痛む程度のものだったため、我慢するのはまったく難しくなかった。


変に反応するときっと怖がらせるだろうと思う。


そんな彼にレオーナは、


「ショータ樣はお強いですね」


感心したように笑顔を向ける。そう言ってもらえると悪い気もしなかった。


「ま、このくらいならヘーキヘーキ」


何を言っているかまでは分からなかったものの、二人がなごやかにやり取りをしているのは感じ取れて、処置に当たっている者達も少しホッとしたようだ。


ただし、兵士達はさすがに警戒を緩めることはなかったが。


こうして傷の処置が終わると、


「お食事になさいますか?」


レオーナが問い掛け、


「あ、うん。お願いしようかな」


彰太も素直に厚意に甘える。すると、ミリスをはじめとした使用人らしき人魚達が、次々と料理を運んできた。さすがに水中で火が使えないからか、どれも刺身と言うかただ大まかに切り刻んだだけのような生魚のそれだったが。言ってみれば水族館などでよく見る<餌>のような感じだろうか。他には海藻のサラダもあった。


彰太自身は元々は肉料理が好きだったがものの、魚はそれほど好きでもなかったものの、こうして見ると不思議と美味そうにも思えてしまった。サラダは別として。


しかしサメの体では手を使って食べることができない。


『どうしよう……』


と思っていると、レオーナがすっと彼に近付いていって、タイによく似た魚のぶつ切りを手にして、口の前に持って行ってくれた。


「!?」


「姫様!?」


この行動に、周囲の者達に緊張が走る。下手をすればそのままこの巨大ザメに食われてしまいかねない行動だったからだ。


しかし、レオーナにしてみればむしろ当然の行いだった。この程度の覚悟も見せなければ話にならない。


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