別荘

そうしてレオーナの別荘に案内された彰太しょうたは、まるで森のような、海面まで届く背の高い海藻が生い茂る場所の中に開いた洞窟を利用して作られたらしいそれを見て、


『おお~! なんかすげ~!』


素直に感心した。確かに元々あった洞窟を利用しているのだろうが、その上で岩を削り、なるほど居住できるようにと加工されているのがよく分かるものだった。


元の世界でも岩山をくり抜いて作ったとされる巨大建築をネットなどで見たことも何度もあり、それに勝るとも劣らないものだと感じる。


さらには、それほど光が入り込むような形にはなっていなさそうなのに、中はとても明るい。


『なんでこんなに明るいんだろう……?』


そう思うとレオーナが、


「ヒカリそうですよ。壁や天井に生えている海藻が光ってるんです」


説明してくれた。


当然、彰太は言葉として伝えるつもりじゃなく頭の中で考えただけだったが、それを上手く区別できないことで勝手に伝わってしまっていたものだった。なのにレオーナはそんな彼に配慮して、敢えて普通に振る舞ってくれた。


だから彰太としても、


『すごくいいコだな。助けてよかった』


そう思った。


するとそこに、


「お帰りなさいませ、レオーナ樣!」


女の子の声が。見ると、レオーナと同じ歳くらいか少し下という印象の、鮮やかな水色の瞳を持つ人魚の少女が奥から現れて恭しく出迎えてくれる。


「ただいま、ミリス」


レオーナは笑顔で応えるものの、


「ひっ……!」


<ミリス>と呼ばれた少女の方は、息を呑んで硬直してしまっていた。全身傷だらけの巨大なサメである彰太に気付いて、動けなくなってしまったのだ。


まあ、無理もないだろうが。


するとレオーナは、そんなミリスに、


「こら、お客様に失礼でしょう? それにこの方は私達の命を助けてくださったんです。丁重におもてなしをなさい」


口調こそは柔らかいもののしっかりと諌めるための言葉できっぱりと告げた。


これにはミリスも、


「あ、あ…大変失礼いたしました……!!」


慌てて謝罪する。が、その言葉自体は彰太には理解できないものだった。彼女達本来の言葉だったからだろう。レオーナが意識して彰太にも理解できる言葉で話しかけてくれているから彼女とは会話が成り立っていただけでしかない。


これについても、


「ミリス、それではこの方には通じませんよ」


言われてミリスは、


「も…! 申し訳ございません! 大変なご無礼を……!!」


今度はちゃんと彰太にも理解できる言葉で謝罪してくれたのだった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る